第16話 結局、何曜日なんですかね?

「そうなんですか」


「だから、今日はずっと2人きりなんだよ」


「…………」


 そう言われると緊張してくるな。


「それで、もしよかったらだけど、今すぐ一緒にどこかへ出かけたいなと思って。ダメ?」


「いいですよ。俺も美月さんと一緒なら楽しいですし」


「ありがとう! 悠真君は優しいね!」


 美月さんは嬉しそうだ。


「それじゃあ、早速行こうか」


「分かりました」


 俺達は、一緒に外出することにした。

 外は快晴で、太陽の光が眩しい。

 気温も暑くなく寒くもなく過ごしやすい気候だ。

 こんな日は、外に出かけるだけでも気分が良くなるだろう。

 俺と美月さんは隣同士に並んで歩く。

 手を繋いで歩きたいところだが、さすがに街中だと恥ずかしいのでやめておいた。


「どこへ行きますか?」


「えっ」


 美月さんは驚いた様子を見せる。


「悠真君の行きたいところでいいよ!」


「いやいや、美月さんは俺と出かけるためにここに来たんですよね。だったら、美月さんが行きたいところへ行くべきでしょう。それが普通だと思います。遠慮せずに自分の気持ちを言ってくれて構いませんよ」


「そ、そうですか。それでは、私が今一番行きたいところに行きましょうかね。そこならば、悠真君と2人でゆっくり過ごせると思うので」


 美月さんは頬がほんのり赤くなっている。


 彼女が行きたい場所は一体どんな場所なんだろうか。

 ちょっと楽しみだ。

 それから、俺達は再び手を繋ぎながら歩いていく。

 目的地に近付くにつれて、周りの景色が変わってくる。

 住宅街からオフィス街へと。

 平日は会社員の人達が忙しく歩いている道でも、今は休日なので人の姿はあまり見えない。


「着きました」


「ここは……」


 美月さんに連れてこられたのは、とあるカフェだった。

 外観はおしゃれなお店で、テラス席もあるようだ。

 店内からはコーヒーの良い香りが漂っている。


「この前、杏奈ちゃんとデートをした時に寄ったお店なんだ」


「そうだったんですね」


 2人の思い出の場所ということか。


「それじゃあ、入ろうか」


「はい」


 俺と美月さんは中に入り、店員さんに案内されたテーブルにつく。

 周りを見てみると、俺達のようにカップルで来ている人もいるようだ。

 中には女性同士で来ているグループもいる。

 俺達が座ると同時に、メニュー表を差し出される。

 開いてみると、そこにはたくさんのドリンクの写真が載っていた。

 アイスティー、ホットティー、レモンティーなど。

 他にも、キャラメルラテ、ロイヤルミルクティー、カプチーノなどの飲み物の名前がある。


「何を飲みますか?」


「うーん……どうしようかな」


 美月さんは悩んでいるようだったが、「決めた!」と言って注文するものを決めた。

 俺はアイスココアにすることに決めた。


「私はアイスココアにしよっかな。あと、パンケーキも食べたいな。頼んでもいい?」


「もちろんいいですよ」


「ありがとう!」


 美月さんは嬉しそうに笑う。

 それから程なくして、店員さんがやってきた。それぞれの注文をする。

 そして、数分後に運ばれてきたのは、白いカップに入ったココアと、茶色い皿に乗った3段重ねのふわふわしっとりしたパンケーキ。

 どちらも美味しそうだ。

 俺達はスマホを取り出し、カメラモードにして写真を撮る。

 その写真を見ると、美月さんの笑顔が綺麗に写っていた。

 これは良い1枚だ。


「食べよっか」


「はい」


 2人同時に「いただきます」と言い、パンケーキを食べる。

 一口食べると、ふわりとした食感と甘さが伝わってくる。

 とてもおいしい。


「どう?」


「おいしくて幸せな気分になります」


「良かった! 私も幸せだよ!」


 美月さんは本当に幸せそうな笑みを浮かべながら言う。


「それはよかったです。……そういえば、どうしてここに来たかったんですか? 美月さんなら、もっとおしゃれなカフェに行けたんじゃ?」


「ここが一番落ち着くと思ったんだよね。悠真君と一緒にいる時みたいに」


 微笑む美月さんはとても可愛らしい。

 そんな彼女を見てドキドキする。

 美月さんは俺のことを想って、ここに来てくださったのか。

 嬉しい限りだ。

 すると、彼女は優しい表情でこちらを見つめてきて。


「悠真君は甘いものが好きだから、きっと喜んでくれると思って」


「……はい、大好きです」


 好きな人からスイーツをプレゼントされると、こんなにも胸が温かくなるものなのか。


「美月さんもパンケーキ、すごく好きですもんね」


「うん!……実はさ、今日は悠真君のためにたくさん作ったの。だから、全部食べられると嬉しいんだけど」


「大丈夫ですよ。美月さんが作ってくれたものなら、いくらでも食べられます」


「……もう。そういうことを言われると照れるじゃん」


 美月さんは顔を赤くしながら、小さな声で呟いた。

 その後、俺と美月さんはパンケーキを食べ終えてからカフェを出たのであった。

 午後5時過ぎ。

 外はすっかり暗くなり始めている。気温も下がり、涼しい風が吹いている。そろそろ夏服では肌寒く感じられてくるだろう。

 俺と美月さんは駅に向かって歩いていく。

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