第12話 さて、美月さんの両親は一体何人いるでしょうか?

 しかし、美月さんの両親が言うには、子供が産まれたら、その子は絶対に不幸になるそうだ。

 その理由は、美月さんの両親のどちらかが、美月さんに子供を産んだことを後悔させるような事をしてしまうからだとか。

 だから、美月さんの両親は、美月さんが妊娠したことを喜ぶ一方、子供が不幸な目に遭わないようにするために距離を置いていたらしい。


「美月さんの両親は、子供が生まれたら、その子が必ず不幸になると」


「……」


 美月さんは何も言わずに俯いている。

 今の言葉を聞いて、ショックを受けているのは明らかだ。

 そんな美月さんを見て、俺も胸が痛くなる。


「美月さん、あなたの両親は本当にそんな事を言っていましたか?」


 俺がそう尋ねると、美月さんは首を横に振った。

 美月さんの答えを聞いて安心する。

 やはり、美月さんの両親の言葉は嘘だったというわけだ。

 美月さんの両親としては、美月さんが辛い思いをするのが嫌なだけなのだ。


「美月さん、これは美月さんの両親の本心ではないと思います」


「……どうして、そう思うの?」


「美月さんのお母さんが電話で泣いているのを聞いたんです。美月さんが幸せになってほしいと」


「……お姉ちゃんが?」


 美月さんは驚いた様子で俺の顔を見る。

 美月さんは知らなかったようだ。

 美月さんのお母さんは、美月さんの妊娠を知って、すごく喜んでいたらしい。

 そして、美月さんの事を心配していたようだ。

 美月さんの両親に対して、「美月の事をお願いします」と言っていたとか。

 その言葉は、美月さんの両親に対する信頼感が感じられた。

 美月さんのお父さんも、美月さんが妊娠した事を喜んでくれたようだ。

 そして、美月さんが幸せになれるように見守っていくと約束してくれたという。

 美月さんのお母さんは、自分の両親と話すのは辛かったものの、美月さんのために勇気を振り絞って電話をかけてくれたのだ。

 そのおかげで、美月さんは自分の本当の気持ちを知ることができた。


「だから、美月さんが自分の気持ちをきちんと伝えれば、きっと美月さんの両親は分かってくれますよ」


「悠真君……。私、頑張ってみるわ。悠真君が一緒にいてくれるなら、きっと大丈夫よね」


 美月さんは目に涙を浮かべながらも、嬉しそうに笑ってくれるのであった。

 美月さんとの話が終わり、俺は自宅へ戻ってきた。

 美月さんとの話の中で、俺の両親の事についても話題に出た。

 美月さんは、俺の両親が亡くなっている事は知っているものの、どうして亡くなったのかまでは知らないようだ。

 俺としては、美月さんに俺の実家に来てほしいと思っている。

 そこで、俺がなぜ実家を離れて一人暮らしをしているのかを話したいと思う。

 ただ、今のタイミングではまだ早いかもしれない。

 まずは、お盆休みが終わってからだな。

 今日は土曜日なので、夕方までゆっくり過ごせる。

 その間に、夕食の買い出しに行っておくか。


「ただいまー」


 玄関の扉を開けると、甘い匂いが漂ってきた。

 この香りはチョコだろうか?

 もしかして、母さんがクッキーを作っているのかな。

 リビングに入ると、そこにはエプロン姿の母さんがいた。


「おかえりなさい、悠真。……あら、いい笑顔ね。何かあったの?」


 母さんはそう言って、微笑みながら首を傾げる。

 確かに、今日の帰り道はとても清々しい気分だった。

 その理由はもちろん——美月さんと仲直りしたからだろう。

 それにしても、母さんがこんな風に聞いてくるなんて珍しいな。

 それだけ、俺が笑顔になっているということなのか。


「ああ、ちょっとね。それより、キッチンから香ってくるこの匂いは何なんだ?」


「ふっふっふ! よくぞ聞いてくれました!」


 俺がそう聞くと、母さんは嬉しそうに笑い――


「悠真の大好きなチョコレートを使ったお菓子を作ってるんだよ」


「えっ!? マジか!」


「うん、大マジだよ。あと少しでできるから、楽しみにしてて」


 そう言いながら、母さんはオーブンレンジの中を覗き込む。

 チョコレートを使ったお菓子かぁ。一体どんなものになるんだろうか。

 そういえば、前にも一度、母さんと一緒に料理を作った事がある。

 その時は、親子丼を作っていた。

 あの時の親子丼は本当に美味しかった。

 卵もトロトロで、鶏肉も柔らかくて。

 そんな事を考えているうちに、母さんが作っているものが出来上がったらしい。


「よし、できたっと。はい、どうぞ」


 テーブルの上に並べられたのは、ホットケーキだった。

 それも、普通の形ではなく、ハート型に作られている。


「これって……」


「もちろん、バレンタイン用の手作りホットケーキです!」


「おお、凄いな」


「まあ、作り方は簡単だけどね。さっ、冷めない内に食べちゃいましょう」


「そうだな。いただきます」


「はい、召し上がれ」


 俺はフォークを使って、一口サイズに切り分け、それを口に運ぶ。


「うわっ、めっちゃ美味しいんだけど」


 俺がそう言うと、母さんはニッコリと笑った。

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