第11話 多重人格、登場人物大半多重人格、そう納得しましょう。
「あの子は昔から優しい子だったわ。特に動物が大好きで、いつも猫や犬と一緒に遊んでいた」
「そうなんですか」
「でも、あの子が中学生の頃、あの子の飼っていた犬が亡くなったのよ。それから、美月はずっと元気がない状態だった」
「そうなんですか……」
「そんなあの子に転機が訪れたのは高校1年生の夏。あの子が部活で忙しい中、久しぶりに時間が取れたからと家族で動物園に行ったの。その時、美月は生まれて初めてイルカショーを見たらしいんだけど、それ以来、イルカにハマったらしくて、水族館に通い始めたのよ」
美月さんは高校生になっても、まだ犬が好きだという事は知っていた。
ただ、まさか、そこまで好きになっているとは知らなかった。
美月さんは、その後も何度も動物園や水族館に足を運んでいたという。
しかし、美月さんが高校生になってからは一度も行けていなかったらしい。
だからこそ、久しぶりの家族水入らずの機会を利用して、両親に子供ができた事を伝えたかったのだろうか?
「もしかすると、美月さんは自分の子供が危険な目に遭う事を恐れていたんじゃないでしょうか?」
私は疑問を口にした。
美月さんの両親は、私の考えを聞いて納得していた。
「確かにそうかもしれませんね」
「それならば、私達がしっかりとサポートしてあげなければなりませんね」
「そうですね」
「皆瀬さん、小鳥遊さん。美月の事、どうかよろしくお願いします」
私達は美月さんの両親から頭を下げられた。私達としても、美月さんを探し出さなければならない。
彼女の協力が得られれば、捜索範囲を広げる事ができる。
それに、美月さんが自分のお腹にいる赤ちゃんに会いたくないと思っているとは限らない。
私は決意を固める。
必ず美月さんを見つけ出してみせると。
その頃、美月さんは実家に戻っていた。
私は美月さんの実家に行くと、そこには美月さんのお母さんの姿があった。
どうやら、美月さんは実家に戻ってきているようだ。
私は早速、美月さんの部屋に向かう。
そして、部屋に入ると、そこに美月さんがいた。
「美月さん!」
「……悠真君!?」
美月さんは驚いた様子で俺の顔を見る。
「どうして、ここにいるの?」
「美月さんが妊娠した事を知って、会いに来たんだよ」
「……」
美月さんは無言のまま俯く。
すると、美月さんの目には涙が浮かんでいた。
美月さんは妊娠した事を両親に伝えようとしたものの、怖くてできなかったという。
自分の気持ちを伝えるのが怖い。
もし、拒絶されたらと不安になり、なかなか言い出せなかったというのだ。
しかし、このまま黙っていても仕方がないと思った美月さんは、両親に正直に話す事にしたという。
「ごめんなさい。こんな形で伝えるつもりはなかったの」
「謝らないでください」
「えっ……?」
「美月さんが悩んでいた事は分かっていました。だから、美月さんが勇気を出して伝えてくれて嬉しいです」
「悠真君……」
美月さんは涙を流しながら、こちらを見つめている。
きっと、美月さんは自分が思っている以上にプレッシャーを感じていたはずだ。
私なら、自分のせいで誰かを傷つけてしまう事を何よりも恐れるだろう。だから、美月さんが妊娠したと知った時は嬉しかった。
これで美月さんを悩ませているものを取り除くことができるのだと。
美月さんが俺の手を優しく握ってくる。
その手は震えており、美月さんがどれだけ思い詰めていたのかが伝わってくる。
「ありがとう、悠真君」
「いえ、俺はただ事実を言っただけですから」
「それでも、あなたのおかげで救われた気がするわ」
「大袈裟ですよ」
「ふふっ、そうかもしれないわね」
美月さんは微笑む。
「悠真君はこれからどうするつもりなの? 私の両親に話を聞くために、ここへ来たんでしょう?」
「そうです。美月さんが妊娠していると分かった以上、美月さんのお義父さんとお義母さんにも話を聞きたいと思っています」
「そっか。でも、お父さんとお母さんは、あまりいい顔をしないと思うわ。2人とも、私の妊娠には反対だから」
美月さんは悲しげに呟いた。
美月さんのお父さんとお母さんは、美月さんが妊娠する事に反対しているという。
2人は自分達の子供が欲しいと考えている。
だからこそ、子供を産む事ができない自分が妊娠するのは許せないのだろうだが、美月さんが産まない方がいいと思っているわけではない。
むしろ、美月さんが望むのであれば、喜んで子供を産ませたいと思っているだろう。
だからこそ、美月さんは両親に打ち明けるのに躊躇いがあった。
「美月さん、実は美月さんのお父さんとお母さんから電話がありました」
「えっ、お父さんとお母さんから!?」
美月さんは驚いて目を大きく見開く。
それから、すぐに美月さんは真剣な表情になった。
「それで……なんて言われたの?」
美月さんは緊張しながら尋ねてきた。
おそらく、彼女にとって、とても重要な内容だったから。
美月さんが妊娠した事を知った時、彼女の両親からは、美月さんが望んでいるのであれば、妊娠しても構わないと言われた。
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