第10話 AIノベルちゃんは美月をどうしたいんだよ!?

「な、何だと!?」


「どういう意味だ?」


 武一さんも私も驚いていた。

 まさか、美月さんを殺そうとしていたなんて……。


「まさか、そんな事を考えているなんて」


「ああ。信じられん」


 私達は動揺を隠せなかった。

 だが、よく考えてみればおかしな点がある。


「でも、おかしいですね。美月さんが殺されたならともかく、生きているのなら身代金を要求するはずですよ。違いますか?」


 そうなのだ。

 美月さんの誘拐に成功したなら、まずは身代金を要求してくるはずだ。

 しかし、美月さんが無事である事は確認できている。

 では、一体誰が美月さんを誘拐したのだろう?

 まさか、美月さん自身が自分から姿を消したとは考えられない。

 恐らく、誰かに騙された可能性が高いだろう。

 しかし、そうなると美月さんの知り合いで、尚且つ彼女を騙せる人物は限られてくるはずだ。

 私は刑事に尋ねた。


「他に怪しい人物はいませんでしたか?」


「ええ。思い当たる節はありませんでした。ただ、あの人は少し変わった性格だったので、誰にも言わずに行動していた可能性もありますが」


「なるほど……」


 確かに、そういう可能性もある。


「美月さんが行方不明になった事に、何か心当たりはありませんか?」


「いえ……特に何も」


「そうですか……」


「申し訳ございません」


 結局、有力な情報は得られなかった。

 それから私達は美月さんを捜したが、見つかる気配はない。


「美月さん……」


 私は涙を流していた。

 美月さんが行方不明になってから1週間が経った。

 依然として、彼女の行方は分かっていない。

 私達は必死になって捜索を続けていたが、美月さんを見つけることはできなかった。

 そんなある日の事。

 美月さんの実家に電話してみたところ、彼女の母から話したい事があると言われた。

 私と武一さんは急いで病院に向かう。

 病室に入ると、そこには美月さんの母の姿があった。


「あら、あなた達が美月の彼氏さんかしら?」


「はい。皆瀬と申します」


「小鳥遊です」


「まあ、よろしくお願いしますね」


 美月さんのお義母さんはとても優しそうな人だった。

 年齢は50代後半くらいだろうか?


「早速だけど、2人に聞いて欲しいことがあるの」


「何でしょうか?」


「実は……美月が妊娠していることが分かったのよ」


 美月さんのお母さんは衝撃的な事実を打ち明けてきた。

 なんと、美月さんが妊娠していたというのだ。

 私達は全く予想していなかったため、思わず声を上げてしまう。

 一方、お義父さんは冷静だった。

 そして、静かに口を開く。

 どうやら、美月さんのお父さんは知っていたらしい。


「そうですか……」


「驚かないんですね」


「はい。薄々気付いていましたので」


「そうですか」


 どうやら、美月さんの両親は美月さんが妊娠していることを既に知っているようだった。


「いつ頃、分かったんですか?」


「つい最近です。美月の様子がおかしかったので、問い詰めたら白状しました」


「それで、美月さんは今どこにいるんですか?」


 私が尋ねると、美月さんのお義母さんは悲しそうな表情を浮かべる。

 どうやら、美月さんは実家に戻ってきていないようだ。

 美月さんが妊娠した事を知った時、両親には美月さんから連絡があったという。

 しかし、それ以降一度も会っていないという。

 美月さんは、自分の口から伝えたかったようだ。


「美月さんは、これから産むつもりなんですよね?」


「ええ。そのつもりです」


「美月さんは、子供を産む事に反対しているのではないですか?  そうでなければ、会いに来てもいいはずなのに……」


 私は疑問を抱いていた。

 美月さんが子供を欲しくなかったなら、わざわざ両親に内緒にする必要はない。

 それに、出産する時は親の立ち合いが必要なはずだ。

 しかし、美月さんは現れなかった。

 つまり、美月さんは子供の事をどう思っているのか分からなかったという事になる。


「それは分かりません。ただ、美月は子供が嫌いなわけではないと思います」


「どうして分かるのですか?」


「それは……」


 美月さんのお義母さんは言葉に詰まっていた。

 すると、代わりに美月さんのお父さんが答える。


「美月は子供の頃、子犬を飼っていました。ところが、その子犬は捨てられてしまったのです。理由は、病気で死んでしまったからでした」


 突然、美月さんの子供時代の話をし始めた。

 一体、どういうことなのだろうか?

 私達は戸惑う。

 すると、美月さんのお父さんは話を続けた。

 美月さんが飼っていた子犬は、元々捨て犬だったという。

 それを美月さんが拾って、一緒に暮らすようになったそうだ。

 だが、その生活は長く続かなかった。

 美月さんが中学3年生の時、その子犬は寿命を迎え、亡くなってしまう。


「それが理由ですか?」


「はい。美月はその事がトラウマになっていたみたいです」


「なるほど……」


 美月さんが犬アレルギーになったのは、そういう理由があったからだ。

 おそらく、彼女は今でも自分が助けてあげられなかったことを引きずっているのだろう。

 だから、美月さんは子供を産まない方がいいと考えていたのかもしれない。

 そう考えると辻妻が合う。

 しかし、だとしたら美月さんは何故、両親に妊娠したことを伝えに来たのだろう?

 やはり、美月さんの考えが分からない。

 すると、今度は美月さんのお母さんが話し出す。

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