第8話 武一、お前もしかしてイマジナリー……
その後、私は部屋に戻ると、ソファに座って考え事をしていた。
これからどうすればいいのだろうか?
仮に美月さんを連れて逃げたとしても、逃げ切れる可能性は低い。
だとしたら、他に選択肢はあるのか?
いくら考えても答えが出ないまま、時間だけが経過していく。
やがて夜になると、私は風呂に入った後――
「ふう……」
大きく息を吐いた。
それからベッドに入ると、仰向けになって天井を見つめる。
美月さんの事が気になるが、どうしようもない。
今の自分にできる事は祈るだけだ。
どうか無事であってくれと。
だが、結局その日は一睡もできなかった。
翌日になっても状況は変わらず、不安を抱えながら日々を過ごす。
しかし、そんな生活は長く続かない。
ある日、光輝の会社の社員と思われる男が家に訪ねてきた。
私は玄関先に出ると、彼に向かって言う。
すると、相手は驚いた表情になった。
どうやら、私が生きているとは思わなかったらしい。
無理もなかった。
昨日までは監禁されていたのだから。
「あなたは?」
「俺は光輝の知人だ。実は大変な事が起きてね。君の力を借りに来たんだよ」
「大変……それは一体?」
「詳しい話は車の中で話そう。まずは乗ってくれ」
そう言って、男は運転席に乗り込む。
私は後部座席に乗ると、男の話を聞く事になった。
「それで一体、何があったんですか?」
「落ち着いて聞いて欲しいんだが……光輝が殺された」
「えっ!?」
予想外の言葉を聞いて動揺してしまう。
まさか、そんな事が起きるなんて……。
光輝が死んだという事実を受け入れるのは難しい。
だが、事実であるならば受け入れなくてはならない。
私は覚悟を決めると、男の話を聞いた。
光輝の殺害現場を見たという男の話では、犯行に及んだのはボディーガードの2人だという。
何でも、彼らは光輝に恨みを持っていたようで、以前から計画を進めていたそうだ。
そして、ついに実行に移したらしい。
その結果、光輝は命を落としてしまった。
「くそっ!あいつらめ!」
話を聞いた武一さんは怒りの声を上げる。
「武一さん、少し待ってください。冷静にならなければ、勝てるものも勝てませんよ」
「すまない。取り乱してしまったようだ」
「いえ、気にしないでください」
「ありがとう。ところで、君は光輝の娘だったな。彼が亡くなった事でショックを受けているのは分かるが、今はどうやって逃げるかを相談すべきじゃないか?」
確かに武一さんの言っている通りかもしれない。
だが、まだ美月さんが見つかっていない以上、迂闊に動くわけにはいかなかった。
それに加えて、光輝を殺した犯人達が近くにいるかもしれないのだ。
もし見つかったら、殺されてしまうかもしれない。
そう考えると、とてもじゃないが動けなかった。
「すみません。もう少しだけ様子を見させてください。美月さんを見つけてからでも遅くはないはずです」
「そうか。君がそう決めたのであれば、私からは何も言わない。ただ、いつまでもここに居続けるのは不可能だろう。その点だけは覚えておくといい」
「分かりました」
私は返事をした後、今後の行動について考えた。
とりあえず、警察に連絡しておいた方がいいだろう。
しかし、そうなると自分が疑われる可能性が高い。
どうしたものかと悩んでいると、男は口を開いた。
「俺に任せてくれないか?」
男は自信ありげな顔で言う。
何か策があるようだ。
私は男の提案に従う事にした。
その後、彼は警察に電話をかけると事情を説明してくれた。
すると、電話越しに声が聞こえてくる。
どうやら刑事のようだ。
彼は男の言葉に耳を傾けていた。
しばらくすると、話が終わる。
「分かった。すぐにそちらに向かう」
「頼んだよ」
こうして、私の家へ警察官が来る事になった。
それから1時間後、インターホンが鳴ると、私達は玄関へと向かう。
扉を開けると、そこには制服姿の男性の姿があった。
「突然押しかけて申し訳ありません。私は警察の者です」
男性は名刺を差し出すと、私達に自己紹介をする。
どうやら、光輝の事件を担当している刑事のようだ。
「早速ですが、事件の話を聞かせてもらえますか?」
「はい」
私は彼に説明をした。
もちろん、美月さんが誘拐された事は伏せてある。
さすがに美月さんが行方不明になっている事は話すべきだと思ったが、その件に関しては後回しにした。
今の状況では、美月さんを探す余裕などないからだ。
ひと通りの話を終えると、刑事の口から驚きの発言が出た。
「実は光輝社長を殺害した犯人を逮捕しました」
「本当ですか!?」
「はい。しかも、犯人はあなたのお父様の部下だったんですよ」
「えっ!?」
その言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になる。
「どうして……」
私は思わず呟いた。
どうして、武一さんの部下が光輝を殺すような真似をしたのだろうか?
理由が全く思いつかなかった。
すると、武一さんは怒りに満ちた声で話す。
「ふざけるな! 貴様に、奴の気持ちが分かるのか? 光輝は長年、お前のために尽くしてきたんだぞ! それを裏切るなんて……絶対に許せん!」
彼の言う通りだ。
光輝はずっと私の事を気にかけてくれたし、いつも優しくしてくれた。
そんな人を殺めるなんて……絶対に許されない行為だ。
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