第7話 ア、アクションシーンが始まりました。

 そのまま鍵を開けると、牢屋の外へと出た。


「しっかり掴まっていろよ」


「はい!」


 私は彼の首に手を回すと、ギュッとしがみつく。


「よし、それじゃあ出発だ」


 こうして、私たちは部屋を出て行った。


「おや、ようやく来ましたか」


 薄暗い通路を歩いていると、前方から声が聞こえてくる。

 どうやら、誰かがこちらに近づいてきているようだ。

 武一は立ち止まると、武器を構える。

 私も彼に倣うようにして、拳銃を構えた。

 やがて、暗がりから姿を現したのはスーツを着た中年の男性であった。

 年齢は40代くらいで、オールバックにした髪型が特徴の男だ。

 鋭い目つきをしており、口元には笑みを浮かべている。

 恐らく彼が光輝なのだろう。

 その隣にはボディーガードと思われる男が2人いる。

 彼らは銃を所持しており、いつでも発砲できるように構えていた。


「美月さんを解放してください!」


 私は叫ぶ。


「嫌だと言ったら?」


「あなたを撃ちます」


「ほう、随分といい度胸をしているな。だが、それは無理な相談だ」


「何故ですか?」


「簡単な話だよ。君を人質にすればいいだけだ」


「そんな……」


「ははは! どうやら、理解できたようだね。君が大人しくしてくれれば、美月さんの安全は保障しよう」


 光輝は高笑いする。

 どうやら、最初から交渉に応じる気はないようだ。


「武一さん、どうしましょう……」


 不安になって尋ねると、彼は真剣な表情で言う。


「美月を助けるためには戦うしかない」


「分かりました」


 覚悟を決めると、私は男達に向けて引き金を引いた。

 乾いた音が響き渡ると、弾丸が放たれる。

 しかし、銃弾が命中する事はなかった。

 どうやら、事前に察知されていたらしい。

 2人の男は咄嵯に回避行動を取っていた。

 そのまま駆け抜けると、こちらに接近して攻撃してくる。

 私は慌てて避けると、体勢を整えて反撃を試みる。

 しかし、相手の方が一枚上手のようで、あっさり避けられてしまった。

 その後、再び銃撃戦を繰り広げる。

 互いに一歩も譲らず、激しい攻防が続いた。


「なかなかやるじゃないか。その調子で頑張りなさい」


 光輝は余裕の態度を見せる。

 このままではまずい。何とかしないと……。


「武一さん、何か策はありませんか!?」


「俺にも分からない。奴らは相当強いぞ」


「そんな……一体どうしたら……」


 絶望している間も戦いは続く。

 私は必死に応戦するが、相手の連携が取れているせいか、上手く攻撃を防げなかった。

 徐々に追い詰められていき、劣勢に立たされる。

 すると、光輝が不気味な笑みを見せた。

 嫌な予感がした瞬間、背後にいた男の1人が急接近して、刃物を振り下ろす。

 私はすぐに反応すると、銃を使って受け止めた。

 金属同士がぶつかり合う甲高い音が響く。

 ギリギリのところで攻撃を受け止める事ができたが、安心するのは早かった。

 もう1人いた男は懐に潜り込むと、腹部に蹴りを入れる。

 強烈な痛みを感じて、思わず膝をついてしまう。

 しまった……。

 そう思った時には既に遅く、顔面を殴られて意識を失った。


「おい、何をやっているんだ!」


 武一が怒鳴るが、時既に遅し。

 彼はボディーガード達に拘束されてしまった。


「武一さん!」


「くそっ!離せ!」


「うるさい、黙れ!」


 ボディーガード達は暴れ回る武一を押さえつけると、そのまま連行していく。

 その様子を見た光輝は勝ち誇ったような顔になった。

 そして、私の方へ視線を向ける。

 すると、彼はニヤリと笑みを浮かべた。

 何だろうと思っていると、突然苦しみ始める。

 よく見ると、背中から血が流れ出していた。

 どうやら、何者かに刺されたようだ。


「貴様!」


 武一は怒りの形相になると、ボディーガードの腕を振り払う。

 そのまま光輝の元へ近寄ると、思い切り殴りつけた。


「ぐあっ!」


 鈍い音と共に、光輝の顔が歪む。


「許さんぞ! 絶対に殺してやるからな!」


 そう言い残すと、彼はその場から立ち去った。

 残された男は苦痛の声を上げながら倒れこむ。

 どうやら、致命傷ではないようだ。

 それでも出血量が多く、放っておけば死んでしまうかもしれない。


「大丈夫ですか?」


 私は心配になって声を掛けると、男は苦しそうな声で答える。

 その声はどこかで聞いた事がある気がしたが、今は気にしない事にした。

 とにかく、急いで手当をしなくては。

 私はポケットの中からハンカチを取り出すと、止血のために縛ろうとする。

 だが、思うように手が動かなかった。

 恐怖のせいで震えているのだ。

 情けないと思う反面、仕方がないとも思う。

 こんな状況なのだから。


「お願いです。死なないでください」


 涙目になりながらも、懸命に処置を行う。

 だが、無慈悲にも時間だけが過ぎ――


「……美月さん」


 私の名前を呼ぶと同時に、彼の手から力が抜けた。


「そんな……」


 目の前で起こっている現実を受け入れられず、私は呆然とする。

 どうして、このような事態になってしまったのか。

 未だに信じられなかった。

 光輝によって美月さんが連れ去られた後、私は武一さんと一緒に屋敷の中へと戻った。

 美月さんを助けに行きたい気持ちはあったが、今の状態では足を引っ張ってしまうと思ったからだ。

 それに、光輝には人質としての価値がある以上、下手に手出しはできない。

 悔しくて堪らなかったが、ここは耐えるしかなかった。

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