第6話 だとすると、君は一体誰なんだ?

 そのせいで、今の会社に拾ってもらった恩がある。

 だからこそ、その恩を返すべく全力で取り組むつもりだった。

 だが、どうやら思っていた以上に厄介な事態らしい。


「さて、どうしたものかな」


 武一は頭を悩ませると、早速行動を開始する。


「えっ? 美月ちゃんが行方不明になった?」


 武一は電話越しに聞こえる声に驚いていた。

 相手は幼馴染みの悠里だ。

 彼女は美月のマネージャーを務めている。

 つまり、美月の失踪は彼女にとっても予想外だったというわけだ。

 武一は動揺しながらも質問を続ける。

 一体、何が起きたのか知りたかったからだ。

 すると、彼女は淡々とした口調で言う。

 美月が自宅に戻った形跡はなく、連絡もないらしい。

 家出をしたのかと思ったが、荷物はそのまま残っていた。

 まるで神隠しにあったかのように消えてしまったというのだ。それを聞いて、武一は嫌な予感を覚える。

 まさかと思いつつも、彼は尋ねた。


「美月の部屋に変わった様子はなかったのか?」


「いえ、特に変わった点はありませんでした」


「そうか……」


 武一は落胆しつつも、ひとまず安堵していた。


「美月さんに何かあったのですか?」


 美月がいなくなったと聞いて、心配そうな顔をしている。

 やはり、彼女にとって美月は大切な存在なのだろう。

 だが、武一は真実を告げる事ができなかった。

 もしも伝えれば、彼女は責任を感じてしまうかもしれない。だからといって、このまま黙っている訳にもいかない。

 そこで武一はある提案を行った。

 それは――。

 ―――。

 ――――――――。

 ――――――――。

 ――――――――――――。

 ――――――


「あれ?ここは……」


 私は目を覚ますと、辺りを見回した。

 そこは薄暗い空間だった。

 目の前には鉄格子が見える。

 どうやら牢屋に閉じ込められているようだ。


「どうして、私がこんな所に……? 確か、武一さんの所に行って……それから……どうなったんだろう」


 記憶が曖昧だった。

 思い出そうとすると頭が痛くなる。

 それでも必死に考えると、ある光景を思い出した。

 そう、私に向かって銃を突きつけている男の姿を。

 恐らく、あの男が犯人なのだろう。

 だとすれば、私は誘拐された可能性が高い。


「そんな……」


 私の身体から血の気が引いていく。

 不安と恐怖によって心臓が激しく鼓動する。

 呼吸も荒くなり、まともに思考する事ができない状態になっていた。


「落ち着け、俺だ」


 突然、背後から聞き覚えのある声が聞こえ――


「武一さん!」


 振り返ると、そこには武一の姿があった。

 どうやら、彼が助けに来てくれたらしい。

 私は嬉しくなって、彼に抱きついた。


「良かった!無事で良かったです!!」


「ああ、君こそ大丈夫か?」


「はい」


「そうか、それは良かった」


 武一は優しく微笑むと、抱きしめ返してくれた。

 その温もりが心地よくて、自然と気持ちが落ち着く。

 彼のおかげで冷静になる事ができた。

 少しだけ状況を整理しようと思う。

 まず、ここはどこか分からないが、おそらく地下に存在する部屋だと思う。

 窓がなく、照明も最小限に抑えられている。

 恐らく、脱出は困難だろう。

 それにしても、どうしてこんな場所にいるのだろうか。

 疑問に思っていると、武一が説明してくれる。

 どうやら、私はある人物に狙われていたらしい。

 その人物は芸能事務所アイドル・ワールドの社長である光輝という人物だ。

 彼は芸能界でも有名なプロデューサーであり、数多くのアイドルを育ててきた実績がある。

 しかし、ある時を境に方針を変えて、過激なパフォーマンスを行うようになったらしい。

 その結果、多くのファンが離れてしまい、今では人気が低迷してしまったという。

 そこで光輝は、美月を自分の事務所に移籍させようと考えたようだ。

 美月は今年デビューしたばかりの新人だったが、既に大きな人気を集めており、事務所としても手放す事はしたくないと考えていたらしい。

 そこで白羽の矢が立ったのが武一というわけだ。

 武一は美月の担当プロデューサーとして働いており、光輝は彼の実力を高く評価しているようだ。

 だからこそ、今回の件を依頼したらしい。


「なるほど……そういう事でしたか」


 話を聞いて納得した。

 要するに、今回の件は光輝による引き抜き工作だったというわけだ。

 話によると、他にも何人もの《アイドル・ワールド》に所属しているタレントが被害に遭っているらしい。

 中には命の危険に晒された者までいたそうだ。

 そこまでして、美月を手に入れたいというのか……。

 正直に言うと、私は美月が羨ましかった。

 彼女のように可愛く生まれていれば、こんな事にはならなかったのに。

 もし、自分が彼女と同じ立場だったらどうなっていたのだろう。

 きっと、同じ選択をしていたはずだ。

 だって、彼女は私にとって憧れの存在なのだから。

 そう思うと、悔しくて涙が出てきた。

 すると、武一が私の肩に手を置く。

 そして、優しい声で語りかけてくれた。


「辛いかもしれないが、君は1人じゃない。必ず、ここから出してやる」


 彼は力強く宣言すると、私を安心させてくれる。

 やっぱり彼は凄いなぁと思った。

 いつもは頼りないけど、いざという時は格好良く見える。

 私のためにここまで頑張ってくれているのだ。


「はい!」


 私は笑顔で返事をする。

 彼なら絶対に助け出してくれると信じていた。


「さて、そろそろ行こうか」


「行くってどこにですか?」


「決まっているだろう? 奴を倒しに行くんだ」


「えっ?」


 武一の言葉を聞いて驚く。

 まさか、美月を助けにいくつもりなのか。

 確かに美月は大切な存在だけど、この男は本当に無茶苦茶な事をするな。

 そう思いつつも、心の中で応援していた。

 武一は私を抱きかかえると、鉄格子に向かって歩き出す。

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