第4話 「ど、どういうつもりなんだ?」はこっちのセリフだよ、AIさん。
恐らく、彼女は怒っているに違いない。
しかし、それでも行くしかない。
武一は覚悟を決めると、急いで駆け出した。
指定された場所に着くと、すでにバスが到着しており、数人の客が乗り込んでいた。
武一はバスに乗ると、美月の姿を探す。
すると、窓際の席に座っている彼女の姿を発見した。
武一が隣に座ると、彼女は不機嫌そうな顔を向けてくる。
「遅いわよ!」
「仕方ないだろ。こっちにも色々と都合があるんだから」
「それでも、もっと早く来る事は出来たでしょう」
「それは……まあ、そうなんだけどさ」
「全く、本当に貴方って人は――」
呆れたように呟くと、美月は黙り込んでしまう。
気まずい沈黙が流れる中、バスは目的地へと到着した。
二人は無言のまま降車すると、目の前にある建物を見る。
それは武一の自宅だ。
つまり、この中に彼女が待っている事になる。
武一は深呼吸すると、意を決して扉を開いた。
玄関に入ると、靴を脱いで廊下を進む。
すると、リビングの方から足音と共に人影が現れた。
その姿を見て、武一は絶句する。
何故なら、そこに現れたのはメイド服に身を包んだ美月だったからだ。
「なっ!?」
「おかえりなさいませ、ご主人様」
動揺している武一に対して、美月は淡々と言い放つ。
「ど、どういうつもりなんだ?」
「貴方の趣味に合わせただけよ」
「いや、俺にそんな趣味はないぞ……」
困惑しながら答えると、美月は深い溜息をつく。
「いい加減、素直になりなさいよ」
「だから、一体何を言って――」
「私が好きなんでしょう? その証拠に貴方はずっと私の事を見ていたじゃない」
……確かに、武一の視線は美月に釘付けになっていた。
それは否定できない事実である。
しかし、どうして彼女はそれを自覚できたのだろうか。
疑問を抱く武一に対し、美月は言葉を続ける。
その口調には怒りが含まれていた。
どうやら、彼女も今回の件に関しては怒ってるらしい。
「あの子、楓さんとは付き合わないの?」
「それは……」
「はっきり答えて。私が好きなんでしょう?」
「……」
武一は何も言えない。
本当は美月の事が好きで、楓からの告白を断った。
だけど、
「悪いけど、君に応える事は出来ない」
そう言ったはずだ。
なのに、今の自分はどうだろう。
彼女の誘惑に耐えられず、自宅にまで足を運んでいる。
自分の意志の弱さに嫌気が差す。
「私達の関係は何?」
「えっと、幼馴染で恋人同士……かな」
その返答を聞いて、美月は嬉しそうに微笑む。
そして、ゆっくりと歩み寄ると――そのまま抱きついてきた。
武一は慌てて離れようとするが、美月に力強く抱きしめられてしまい、身動きが取れなくなる。
やがて、彼女は武一の耳元で囁いた。
「やっと本音を聞けた。嬉しい……」
「……美月」
「ねえ、キスして」
「いや、でも――」
「お願い……。今は貴方を感じたいの」
切なげな声で言うと、美月は目を閉じた。
「……」
武一は躊躇していた。
美月との交際は親同士が決めたものであり、互いの意思を無視して始まった関係だ。
こんな形で終わらせて良いはずがない。
だが、同時に美月をこのままにしておきたくないという思いもある。
結局、武一は欲望に負けてしまう。
美月の肩を掴むと、強引に引き剥がした。
突然の出来事に驚いたのか、美月は大きく目を見開く。
武一はその瞳を真っ直ぐに見つめると、唇を重ねた。
一瞬だけ、二人の時間が止まる。
美月はすぐに我に返ったようで、恥ずかしくなったのか俯いてしまった。
武一は優しく語りかける。
「これで分かっただろ。俺達はやっぱりこういう風になるべきじゃなかったんだ」
美月は無言のまま顔を上げると、小さく首を横に振った。
「違うわ。だって、私は貴方を好きだもの」
「嘘だ。君は俺なんか好きにならない」
「どうして決めつけるの? 貴方はいつからそんなに自信家になったわけ?」
「俺が君に好かれる理由なんてないんだ」
「あるわよ! 貴方が優しいから、私は貴方が好きになったの」
美月の言葉を聞き、武一は自分の愚かさを痛感した。
彼女の気持ちを理解しようとせず、ただ拒絶する事しか考えていなかったのだ。
だから、もう一度だけ彼女に向き合う事にする。
今度はこちらから手を伸ばすと、美月の手を掴んだ。
すると、彼女は安心しきった表情を浮かべ、そっと身を寄せてくる。
その温もりを感じながら、武一は思った。
きっと、これが最後のチャンスなのだと――。
その後、二人はリビングに移動した。
武一がソファーに座っていると、美月はキッチンへと向かう。
しばらくして戻ってくると、その両手には――
「はい、これ」
差し出されたのはコーヒーカップだ。
中身を見ると、白い液体が入っている。
「牛乳か」
「そう。よく眠れるようにね」
美月は武一の隣に腰掛ける。
そして、彼の頭を撫で始めた。
まるで子供扱いされているような気分になるが、不思議と嫌な感じはしない。むしろ、心地よいぐらいだ。
武一が黙っていると、美月は口を開く。
その口調はどこか寂しげだった。
どうやら、彼女は今回の件について思うところがあるようだ。
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