からっぽ
尾八原ジュージ
■■■
りまちゃんとわたしは団地でふたりでくらしていました。
りまちゃんは彼氏が来ると、わたしにベランダに出ているように言いました。夏でも冬でもベランダで待ってるように言いました。わたしはベランダで彼氏が帰るのを待ちました。待てなかったりうるさくすると、りまちゃんは怒りました。わたしがりまちゃんを「お母さん」とよんでも怒りました。
ベランダですわっていると、柵のむこうに団地の別のたてものが見えました。よそのおうちがよく見えました。お父さんとお母さんと女の子がごはんを食べたりテレビを見たりしていました。とても楽しそうなおうちでした。ベランダに出されたときは、そのおうちを見るのが楽しみになりました。
ある夜、ベランダに出てすわっていると、いつも見ているおうちの人たちもベランダに出ていました。お父さんとお母さんと女の子が手をつないでベランダに立って、部屋の中を見ていました。お部屋の中はまっくらでした。何をしているんだろうとふしぎでした。
何日かしてまたベランダに出されたとき、いつものおうちにはまた明かりがついて、お父さんとお母さんと女の子も中で楽しそうにしていました。
ある日りまちゃんの彼氏が、わたしがベランダにいるのに気づいてとてもおどろきました。その人はこわい顔をして、私を部屋の中にひっぱりこむと、りまちゃんをぶちました。りまちゃんは泣いていました。わたしもこわくなったので泣きました。りまちゃんをいっぱいぶって彼氏は帰っていきました。
そのあと、りまちゃんはわたしをぶちました。おまえのせいだとたくさん言われました。わたしが彼氏に見つかったのがいけなかったみたいでした。
りまちゃんはわたしをおいて出かけてしまいました。わたしはかなしくなって、ひとりぼっちでベランダに出ました。いつものおうちはまっくらでした。カーテンとかもなくてお父さんもお母さんも女の子もだれもいなくて、部屋の中はこげたみたいに黒くなっていて、よく見るとベランダのまわりのカベまで全部まっくろなのでした。もっとよく見ると、ほかの部屋もみんな、カーテンがなくて、からっぽでまっくろでした。だれもいませんでした。わたしはさびしくなって泣きました。
たくさん待っていたけどりまちゃんは帰ってきませんでした。そのうちおまわりさんが何人も来て、わたしの体をどこかに持っていったあとも帰ってきませんでした。
わたしはまだベランダにいて、ずっとすわって待っています。
からっぽ 尾八原ジュージ @zi-yon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます