2-2-3 魔道具屋さんその2、アイシャさん♥

 

「ほい、着いたぞー」


 今度の魔道具屋さんは、この地区でもひときわ奥まった城壁の近くにぽつんとあった。

 植木やほかのお店の合間にひっそり隠すような位置にあるなんて、なんだか秘密のお店っぽくていいな。

 さっきは素朴なカントリー風だったけど、こっちは全体的に色が重くてどっしりした作りだ。

 入口に火の魔法ランプが吊るされてるけど、天然の炎じゃないからかふよふよふらふらしてて、まるで火の玉が捕まってるみたい。


「一発いくらだからお高いけど、攻撃魔法スペルの札は駆け出しのころの護身用には悪くないぜ。ビビリ撃ちしたらもったいないけどなー」

「ビビリ撃ち?」

「魔物を見た勢いで暴発させたり、草玉相手に使ったりな。魔法ジョブみたいに任意で攻撃距離を選べないから、使いこなすにはコツも経験も必要なのさ」


 ピルピルさんがお店の前で食べ終わった棒を俺の手から取ってゴミ箱に投げながら教えてくれて、俺も真面目に頷いた。

 持ってたら俺は間違いなくやるね。

 ビビリ撃ちなんて、俺のためにあるような言葉じゃないか。


「さっきのお店よりなんか威圧感が…」

「ここはさっきの店と違って強力なアイテムが置いてあるからなー。わかるんなら少年は強くなるぜ」


 気楽に言ってくれるよ!

 ドアも分厚い。サーチをかけなくてもわかる。

 種類まではわからないけど、全体的にしっかりと魔力を封じられるように結界系の魔法スペルを使ってるんだ。

 いざ、と思ってガランと開けたら、俺が入るより先に誰かが出てきてぶつかった。


「きゃ!」


 ぽすんと肩に一瞬触れたけど、すぐに離れる。

 ……花屋さんのショーケースに飾られたピンクの花束が、不思議な魔法で人間に化けたのかって思った。

 高くて澄んだ甘い響きの声、リボンとか花とか? なんかそんなアクセサリのついた、腰まであるどうやって巻いてるのか気になる、グラデーションがかった不思議なピンク色のツーテール。


「いった~い…!」


 鼻先を抑えてきっと俺を睨む、零れ落ちそうに大きなスミレ色の目に、ちょっと屈んだら中が見えちゃいそうなふわっと広がったミニスカと、ガーター付きのニーハイ、防寒対策にはなってないだろう腰までのショートマントと、まさしく絵に描いたようなロリっぽい美少女だ!

 うわ、出た。

 この子、メインヒロインの魔女っ娘、マリーベルじゃないか!!


「もう、こんなところでぼさっとしてたら、じゃまよ!」

「え、ごめ…」


 ツンデレキャラのはずだけど、今は面識がないからツンしかない! マリーベルの剣幕にたじたじになって謝りかけた俺の代わりに、さっとピルピルさんが口をはさむ。


「お嬢ちゃん、こっち入り口。あっちが出口。間違ったのはおまえだぞー?」

「わ、わかってるわよ!」

「それに、痛いってほどぶつかってもないなー?」

「口から出たの!」

「それより、言うことがあるんじゃないかー?」

「ピ、ピルピルさん、俺もういいから……」


 正ヒロイン怖い、気の強い女の子なんて俺にとっては天敵だよ、関わりたくない!

 早く逃げたいのに、なぜかマリーベルは動かない。あ、俺が避けないからか。

 ぎくしゃくと横に避けたら、うつむきがちにぷるぷると怒りを堪えてたらしいマリーベルがきりっと顔を上げた。

 あ、この子、並んだら俺よりちょっと小さい。

 これじゃさっきは前に壁があったみたいだったかも。かわいそうなことしたなあ。


「ふん、悪かったわね!」

「え、いや…」

「じゃ、あたし急ぐから」

「あ、はい。気をつけて」


 つい口から出ちゃった。

 つかつか出て行ったマリーベルが「は?」って意外そうに振り返って、恥ずかしくなって今度は俺が俯く。

 足音が聞こえなくなってから、やっと息を吐けた。


「少年、大丈夫かー?」

「大丈夫じゃないです~…。こ、怖かった…」


 ガクリ。なにあの迫力。

 ピルピルさんも派手な色合いだけど、男だし小人族リルビスだから気にならなかったっていうか、種族が違うせいか違和感がなかった。

 でも同じ人間ヒューマンで、あんな派手な色合いの三次元の人間をいざ目の前にしたらさ、びっくりだよ!

 でもさすが天然物っていうか、どうやってあの形を維持してるんだろうって服も髪の毛も不自然ではなくて、ちゃんと生きた美少女として存在してるのがもう神々しくて無理!!

 出会った場所も違うし、たぶん仲間になるフラグもないだろうから、ほっとした。

 ゲームなら多少きつく当たられても「そういうキャラだ」で済むし、見た目やリアクションがかわいい女の子キャラってだけで癒されるからいいんだけどね。

 現実であんな気の強い美少女と四六時中いっしょで、なんかよくわかんないけどいつも怒られてご機嫌取りするとか罰ゲームでしょ!?

 そういうのは会社の上司と取引先の相手だけで十分だよ……。そんなに長くなかったけど、そーゆうのはもう一生分やった。

 でもまあ、もしかしたらこの世界にはいないかもって思ってたメインヒロインを生で見られたのはうれしかったな。あんな形でもおしゃべりまでできたし、いい記念になったということにしとこう。

 ヒロインでこれじゃ、竜族の女戦士や魔族の女将軍なんてもっとおっかないだろうし、生のニケとディアドラにはもう会えなくていいな!


「おまえはもうちょっと気を強くもてよー」

「無理です。ビビリ撃ちには自信あるんで!」

「持つな、そんな自信!」


 呆れられながら今度こそ中に入ると、いっそう濃い魔力…精霊たちのマナの気配がしてちょっと息を止める。

 ……うん。こういうファンタジーな感覚も、だいぶわかってきた。

 これは息をしても大丈夫。抑えられてるから、呼吸しても取り込むようなことはない。


「いらっしゃい。落ち着いた…?」

「みたいだぜ。店先で騒いで悪かったな、アイシャ」

「いいえ、可愛いものを見られたからいいわ…」


 カウンター越しなのに、耳元で囁かれてるような吐息交じりの少し低めの声にぞわわっとした。

 こっちのお姉さんも色っぽい…!

 なんなの、遊牧民の女の人ってみんなこんな感じなの!?

 アイシャさんはさっきのミランシャさんとよく似てるけど、もうちょっと年上そう。

 同じようにしっかり化粧をしていて、艶やかな黒髪を少しルーズに結い上げてるのが気だるげで色っぽい。胸と腰は豊かだけどかなり長身のせいか細くしなやかに見えた。ミランシャさんが占い師なら、アイシャさんは踊り子って雰囲気だ。

 王様の前で踊ったらそのまま後宮に入れられそう。衣装は青のサリーっぽいし、爪もそうだ。

 カウンターから出てきてくれたときには、驚きの深さまで入ったスリットからちら見えする脚に、どうしようもなく目が吸い寄せられた。

 触るなんて恐ろしいことはしないけど、見ても許されるのかなこれ…!?


「ふふ…なにをお探しかしら?」


 あ、これもゲームと同じ!

 わかった、ゲームでは魔導書を売ってるお店だ。現実だと戦闘に使うマジックアイテムを扱うお店ってことで、魔道具屋さんその2ってことか。


「えっと…とりあえず見せてください」

「ええ、どうぞ? わからないことがあったら、なんでも聞いてちょうだいね…?」

「はいっ」


 近い近い近い!

 ミランシャさんは健康的で近づかれたらご褒美って感じだったけど、アイシャさんは色っぽ過ぎて、なんか違うことを聞かれてるような気持になる!!


「おーい、少年。おまえが言ってた宝珠はこっちだぞ」

「はい…」


 なんで買物するだけでこんなに消耗してるんだ……。

 ピルピルさんは俺をからかうのも飽きたらしく、俺を呼んだあとはつまらなそうに店内を見回して、くわっとあくびをしてる。

 床や壁に使われてる石が黒いからってのもあると思うけど、このお店は店内自体が暗いな。

 窓も黒いカーテンをしっかり閉めてるし、光源はカウンターのところの魔法ランプだけだ。

 それでも商品がちゃんと見えるのは、そういう風にしているからだろう。


「こっちが魔導書の棚だ。中級までの四大元素魔法エレメンタルスペルがある。読めそうなものはあるかー?」

魔法スペルの基本はばあちゃんに習ってるから、まだいいかな。それに今の手持ちだと払えないし」


 あーなるほど。魔導書を読んで術式を覚えたら、その魔法スペルが使えるようになるってことか。

 それなら俺はここにあるものはぜんぶ覚えてはいるな。使えないだけで。

 それに初級の魔導書でも一万ダルム、中級になると五万ダルムだよ。高い!


「じゃあやっぱりこっちの札だな」

「はい。へえ、攻撃魔法スペルの札でもなんでも、こっちは高額な分一枚ずつ扱ってるんだ」

「そうだぞー。札は高価だし使い捨てだけど、いいポイントもある。ボクたちが使う攻撃魔法スペルは使用者の魔力に応じて威力が上下するが、札は固定だ。少年が使っても、ボクやレオンハートが得意属性のものを使っても、同じ威力になる」

「じゃあ魔力が低いうちは札の方が強いってことですか?」

「そうさ。おまえだと間違いなく札の方が強い」


 うーん、強くなりたいとまた思ってしまった。

 ここにあるのは中級までの四大元素魔法エレメンタルスペルの札と、光魔法リントスペルの中級札か……。これはアンデット系特攻だ。一応火も効くけど、光魔法リントスペルがアンデット相手に与えるダメージは火の比じゃない。

 四大元素魔法エレメンタルスペルの初級札で一枚五百ダルム、中級だと千ダルム。

 光魔法リントスペルは初級に攻撃魔法スペルがないから中級札からで、一枚千二百ダルム。

 さらに範囲指定札は一枚三千ダルム。上級の指定札は五千ダルム!

 これは使用者の任意で魔法スペルの範囲を広げられるものらしい。下級の札で広げたらその分威力が落ちるけど、上級の札だとそのままの威力で範囲を広げられるから、いい札と合わせて使ったら絶対強い!

 めちゃくちゃ稼ぐ冒険者だったら、お金に物を言わせていろいろできそうじゃないか?

 俺も稼いでこういう札を使いまくりたい!

 杖用の宝珠は、治癒ヒール解毒アンチイオス。ヒールが五千ダルム、解毒アンチイオスが一万ダルムか。ゲームだと治癒ヒールで三十回、解毒アンチイオスが十五回で壊れたけど、これ一つで何回使えるかはわからないな。ゲームだとヒールは千ダルムだった。差額分は使用回数が増えててほしい。

 サーチでも…だめだ。「治癒ヒールの宝珠」としか出ない。まあ、壊れるまでは使えるってことでいいのかな?

 宝珠の棚の下段には、淡く光るビー玉みたいなのが籠にこんもり入ってた。これはなんだろう?


「ピルピルさん」

「んー?」

「これはなんですか?」

「空の宝珠だ」


 なんだそれ。詳しく聞きたいのに、ピルピルさんの興味は向こうの棚の呪い人形みたいなのに移っちゃってる! 小人族リルビスってゲームでも子どもっぽかったけど、本当にそうなんだな。

 案内してくれるなら最後までしてくれないと困るよ!


「なにかお困りかしら…?」

「ごめんなさい、アイシャさん。これってなんでしょうか?」


 困ったなあと思って見ただけでアイシャさんが声をかけてくれて、これ幸いと聞いてみた。


「ピルピルの言うとおり、空の宝珠よ…。それは使用者が自分で魔力を込めて使うの」

「え、どういう…? 札じゃなくて?」


 なんだそれ。札じゃダメなの??


「白紙の札に術式を書き込めるのは一種類だけだし、危険だから店には置いてないの…。そんなことができる人には、そもそも札なんて必要ないしね…?」

「なるほど」

「でもそれなら、二種類まで自分で好きな魔力を込められるわ…。もちろん多過ぎる量はダメよ? たとえば、投げつけて攻撃魔法スペルとして使えるほどの量だと、割れちゃうわ…」


 二種類までか。いろいろ使えそうだなあ。

 それに一個百ダルムってお値打ちじゃない? いや、使い捨てだったら高いのか。

 こっちの商品が全体的に高いから、だんだん感覚が麻痺してきた。


「これも使い捨てですか?」

「ええ、そうね…。自分で攻撃魔法スペルを扱える人は自分で込めるし、魔法スペルを使えない人でも依頼して水と風の魔力を込めてもらって…、野営中の洗濯に使う人も多いわよ」

「十個ください!」

「戦闘用じゃなくて洗濯用が先かよ!?」

「絶対必要なんで!」


 すかさずピルピルさんに突っ込まれたけど、超便利じゃないか! コインランドリーを使って一回千円って高いけど、旅をするなら洗濯って絶対したくなるよね!?


「うふふ、じゃあもう一つ教えてあげる…。洗い終わった洗濯物に火と風を込めた宝珠を入れたら、すぐにすっきり乾くわよ…?」


 洗浄から乾燥まで! そんなのまさしく携帯できるコインランドリーじゃないか!!


「わー、せめて十個までにしとけ! 五個でも十分だぞ!? そんな急いで乾かすようなことはめったにないから!!」


 色っぽいアイシャさんの囁きにさらに一掴み取ろうとしたんだけど、それはピルピルさんに阻まれた。

 はっ、なんて恐ろしい店主さんなんだ…!

 俺のお勧めに弱い性格を見抜いていらっしゃる!

 っていうか、元が現代人だからどこでも洗濯できるってすごい魅力的なんだよ。

 衣食住大事! 衣類が清潔って、見た目の印象にも健康にも大事だと思うし!!


「もー、そもそも少年、肝心の魔力はどこで入れるつもりだよ?」

「洗濯したくなるぐらい夜営しなきゃいけないほどの依頼を受けるころには、きっとなんとかなってるんじゃないかなって!」

「能天気だなー。じゃあ今すぐいるもんじゃないだろうに」

「いいんです。すぐ使えるようになるかも知れないし、前向きって大事でしょ!」


 よし、あとは思い切って治癒ヒールの宝珠だな。攻撃札は…迷う。

 一枚は持っていたいんだけど、どれがいいんだろう?


「うーーーん……。いざというときの一枚って、なにを基準にみんな選んでるのかなぁ」

「なに? ボクに聞いてるの?」

「冒険者の大・大ベテランなんでしょ? 大・大先輩として教えてくださいよ」

「えー、しょうがないなあ。そんなの、少年がどこに行くかで変わるだろ」

「どこに行くか……」


 そう言われたら、困る。だって俺、あっちこっち見たいし。


「なに、決まってない?」

「いろんなところを見たいってことだけは決まってます。ただ次はどこに行くかって言われたら…まあ、草原か森…行っても湖かなぁって」

「あー、普通は自分が行く先の魔物に合わせて持つんだよ。自分と仲間を助けるための大事な切り札だぞー。真面目に考えな」


 そ、そんな風に言われたら、ますます悩む!

 くうう、俺はもともと優柔不断なんだよ。最終目的地がこれって決まってたらまっしぐらにもなれるんだけど、自由度が高いと難しい!


「質問を変えるか。おまえは敵を倒して帰りたいか、仲間を守って生き残る方が大事か」

「それって、どっちも同じじゃないんですか?」

「違うね。敵を倒すためには度胸がいる。たった一枚だ。ギリギリまで引き付けて、確実に獲れる機会を狙えるか。例えば守りで強いのは土だ。効果が切れるまでは、あのあたりならそうだなー…。ホブゴブリンやサーベルウルフぐらいなら堅い守りの結界、『土精ノームの加護』の中に閉じこもって一日は凌げる。自分も出られなくなるけど、その間に回復するもよし、小鳥を飛ばして救援を待つのもよし。冒険者は助け合いが基本だから、ギルドまで飛んだら誰かが来てくれるもんだ」

「おおー…」


 思わず拍手しちゃったけど、次のピルピルさんの言葉でその手はぴたりと止まった。


「ただし! 救出されたら礼金が発生する。それは救助に来たパーティのランク次第だ。だから相手によっちゃとんでもない金額になるぞ。命には替えられんから、そこは覚悟しとけー? 救出が必要になる時点で、最低でも自分のパーティよりランクが上のパーティが派遣されるから、これはしょうがない」

「うわあ、避けたい…!」

「避けられるなら避けとけよー? 参考までに、もしもボクが救助に駆けつけたら、それが草原の草玉相手に転ばされてうっかり小鳥が飛びましたってだけでも、一万ダルムは払ってもらう」

「一万ダルムって、草玉のコアの百倍じゃないですか! 絶対呼びませんからね!!」

「ええー? そこは呼べよー。確実に助けてやるぜ?」

「オレンジ玉まではなんとかなるし、もしならなくても攻撃札を使って逃げ帰ります!!」


 ちくしょう、にやにやしやがって!

 ああでも、これは迷う…!

 腕を組んで考えて、頭を右に左にしながら悩んで、やっぱり決められなくて。

 最終的に俺は、火と土の初級の魔法札を選んだ。


「よし、これで!」


 迷ったならもう両方買っちゃえ! いつかこの選択が正解だったって思う日が来るに違いない。


「火と土ね…? 火は雨の日は威力が弱くなるし、土は風が強い日は強度が少し落ちるの。風魔法ウィンドスペルは攻撃にも使えるし、元々の特性上範囲が広いから、囲まれた時や群れを追い込んだ時に威力を発揮するわ…。水は火の属性を持つ魔物に特攻だし、ほかの属性の魔物でも、その身を凍り付かせることで魔物の身動きを止められるし…。そうそう、大量の水に変換して浴びることも」

「全種類一枚ずつください!」

「火と土で十分だ! 駆け出しがどうやって魔物の群れに囲まれたり追い込んだりする! 大体、被ったり飲んだりするような水は魔法得意なジョブが出したものじゃないとだめだろ! 札は相手に合わせて性質を変えるなんてできないんだ。そんな使い方したら自分が凍り付くぞ!?」


 勢い込んで言ったのに、ピルピルさんに阻まれた! うう、自分が凍るのは困る…!!


「ったく、アイシャ! 子ども相手に営業するなよー」

「うふふ…素直なものだから、つい。ごめんなさいね…?」


 アイシャさんのその色っぽい囁き、プライスレス!!


「いえ、説明有り難かったです。じゃあ、改めまして。火と土の札を一枚ずつと、空の宝珠五つと、治癒ヒールの宝珠をください」

「ありがとう。アミュレットはどうかしら…?」

「アミュレット?」


 アイシャさんの流し目の先にあるのは、さっきピルピルさんが見てた呪い人形とかよくわからないものが置いてある棚だ。


「いらん。駆け出しが有り金はたいて買うほどのものじゃない」

「残念ね…。じゃあまた今度ね…?」

「は、はい! きっと買いにきます!!」


 稼いだらだけど!!

 こんな色っぽいお姉さんにきゅっと手を握られて、吐息がかかる距離で待ってるなんて言われて、断れる? 俺は断れない!!

 コミュ症の俺、買物一つにも交渉スキルが必要だけど、この身体になっててよかった!

 どうせこの身体が大人になるまでの期間限定だ。ちゃっかり味わわせていただこう!


「六千五百ダルムね…。初めてのお客様だから、そうね…。六千ダルムでいいわ」

「わ、ありがとうございます!」

「いいのよ。そのかわり、きっとまた来てちょうだいね…?」

「用がなくても来ます!」

「あら…うれしい」

「来なくていい!」


 ピルピルさんはノリが悪いな!

 お釣りを手をきゅって握りながら渡されて幸せな気分になってたら、アイシャさんは微笑ましいって顔で俺が買ったものを渡してくれた。


「じゃあまたね…。気を付けて……」

「はい!」


 しかも、外まで見送ってくれたのがうれしい。

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