第2章 サトル、出会う

2-1-1 新しい朝~教会~

 

     1


 ふわふわとあったかい心地よさに浸ってると、どこからともなくきゃあきゃあと楽しそうに騒ぐ子どもたちの声が聞こえてきた。

 小鳥のさえずりと、まぶたの裏に映るカーテン越しの優しい木漏れ日。

 なにこれ、すっごい幸せ……。

 目を開けるのがもったいなくて、このまま二度寝したくなる。

 ごそっと寝返りを打ってお日様の匂いのするかけ布団を抱きしめたら、リーンゴーンと遠くから一時間に一回鳴る鐘の音が聞こえてきた。

 それと同時にばたばたと近づいてくる忙しない足音が二つと、ガチャって音は…ドアが開いた?

 あーだめだこれ、起きないと。

 もう一回沈もうとする意識をなんとか捕まえたときだった。


「サートールーッ!!」

「ぐえっ!?」


 いきなり腹の上にどさっと重みが降ってきて、蛙が潰れたような悲鳴が口から飛び出した!


「起きろ! 朝だぞー!!」

「こら、ボッコ! 寝てる相手に飛びついちゃいけないって前も叱られただろ!?」


 ひいっ、大きな声が二人分で耳も痛い!


「だってもうみんな揃ってるのに、サトルのせいで食べられないじゃん!!」

「これでも一応お客様だぞ、バカっ!!」


 うう、一応って言われた…!

 なんとか開いた目の前に、俺の腹に馬乗りになって不満そうにしてるボッコと、その襟首をつかんで引きずり降ろそうとしてるジュストが見えた。


「起きた! サトル、早く着替えて顔洗えよ! あーさーめーしー!!」

「いいからおまえはもう先行け! サトル、大丈夫か!?」


 年の割に落ち着いた物腰の子だと思ったけど、やっぱりまだ子どもだなあ。やんちゃな弟分を叱りつけたジュストがずるっと剥がしてボッコを放り出してから、俺はなんとかベッドに手をついてよたよたと起き上がる。

 うわあ、部屋が明るい…。

 泊めてもらっといて盛大に寝坊した。

 目覚ましがないってこういうときに困るなあ。


「おはよう、ジュスト。ごめん、寝坊しちゃったみたいで……」

「おはようさん。それより思いっきり飛びつかれてたけど大丈夫か?」

「あはは、あれぐらいの子でも意外と重くて内臓出るかと思った」


 もう起きかけてたからよかったけど、熟睡してたところにあんなことされたらもっとびっくりしただろうな。

 頭を掻きながら挨拶したら、ジュストはほっとした様子で聞いてくれた。


「まあ怪我がなかったならよかったよ。もうちょっと寝るかい? 朝飯はなくなるけど」

「起きる! 起こしてくれてありがとう」

「いいってことよ。じゃ、早く降りて来いよ」

「うん!」


 さわやかに笑って出て行ったジュストに頷いて、俺はまず思いっきり伸び! それから大きなあくびをして、着替えだ。

 寝具をざっくり整えてから、濃い緑が窓のところだけ色褪せたカーテンをしゃっと開ける。

 …って、あれ? 俺、昨夜カーテン閉めたっけ?

 しかも、開けようとした窓になんか変な模様が浮かんでる。

 なんだろうこれ、盾を背景にライオンが月桂冠っぽい草の輪に囲まれてる。どっかの紋章みたいでかっこいいな。

 ちょんと触ったら、ふよんって揺れて白く光る。

 うーん、わからん。

 一応こっちで十五年生きてるはずだけど、森の家から出たことないプラスばあちゃんが教えてくれてないことは知らないから、まだまだわかんないことが多いな~。

 一応サーチしてみたけど、反応なし。

 いや、「窓」って出た。教会だから光属性の加護があるとか?

 まあいいや。


「鍵は…開くよな。よっと」


 立て付けがちょっと悪い窓をぐいっと開くと、さぁっと気持ちのいい風が吹き込んできた。


「おー、明るかったら墓地も怖くないな~!」


 ここからなら広々とした墓地が見えるんだけど、あちこちに花が手向けられていて綺麗だ。

 敷地の塀の向こうは商業地区が近くて、賑わいが小さく聞こえてくる。

 家族の出勤したあとは、奥さんたちが忙しい時間帯だ。腰に子どもをまといつかせながらせっせと洗濯物を干す人、食器をカチャカチャ洗いながら文字通りの井戸端会議に勤しむ人、掃除のためにほうきを渡された未就学らしい子どもたちはさっそくチャンバラごっこか。


「いいなぁ……」


 小鳥や庭に遊びに来る小動物がいた静かな森のスローライフも素敵だったけど、人々の生活音がある朝なんて本当に久しぶりだ。

 町に住むってこういうことなんだってしみじみ思う。

 前の人生では出勤時間も早かったし、居合わせた人は夜勤帰りか俺と同じ出勤組で、みんな疲れてたしな…。こんな風に朝を迎えられる日が来るなんて、思いもしなかった。


「おーい、サトルー! 寝ちゃったのか~!?」


 なんかじいさんになった気分で眺めてたら、今度は階段の下からマルカートに叫ばれた。


「いけね、今行くー!」


 このまま空気を入れ替えたいけど、よそのお宅なんだから一応閉めとかないとね。

 慌てて戸締り、大事な鞄を肩にかけて部屋を飛び出した。

 どたどた階段を降りたら下から三段目が盛大に軋んでドキッとしたけど、セーフ! そういえば昨夜もここが怖かったんだよな。

 なんか目印つけて欲しい!

 リビングに行く前に、トイレに駆け込んで用を足す。

 ここのトイレは建物から外にはみ出す形になっていて、昔懐かしのボットンだ。

 ゲームで見たときはお城は水洗っぽかったから、貴族とかは水洗なのかも。下水施設がどうなってるのか気になるなあ。


「サトル、遅い!」

「遅いぞ~! 起こした意味ないじゃん!!」

「ごめんごめん、あんまり寝心地がよくてさ」


 手を洗ってざばっと洗顔、シャツのボタンを留めながらリビングに駆け込んだら、マルカートと黒ラブっぽいボッコが並んでふくれっ面になってて、和んじゃったよ。


「もう、寝ぐせはそのままだしボタンもかけずに、しょうがない子ね!」

「いやあ、待たせちゃって悪いと思って……。あ、自分でやるよ」

「やれてないからしてあげてるの!」


 今日も金髪を器用にリボンでまとめてるレジェがぷんぷんしながらも、ボタンを留めるのを手伝ってくれるのが有り難い。

 女の子って精神的に男より大人だって言うけど、こういうところを見ると確かにそうかも。こちらの世界は特にみんな精神年齢が高い感じだしね。


「ほら、シャツも入れて!」

「はいっ」


 そして厳しい! 慌ててベルトを緩めてきちんとシャツを入れて、とりあえずいったん終了。


「おはようございます。遅くなって申し訳ありませんでした!」


 まだ警戒気味の男の子以外は笑ってこっちを見てる皆さんのところへ行って、俺はようやく朝の挨拶ができた。


「おはよう。よく眠れたようならなによりだ」

「はい。久しぶりのベッドだったこともあるかもですが、めちゃくちゃ寝心地がよかったです!」

「一回も起きなかったもんな! 寝小便してたら笑ってやったのに」

「プリモ、だめよ」

「本ッ当、懲りないよねー」


 それは勘弁!


「サトル、こっち来な」


 ひひっと笑ったプリモをエルフィーネとベッラがたしなめて、ジュストが椅子を引いて呼んでくれる。

 俺を警戒してる男の子は、エルフィーネと反対側で神父様に一番近い席だ。これなら安心してくれるかも。


「おはようございます、サトル。よく眠れたならよかった」

「ありがとう。みんな早いね」


 これって牛乳? わかんないからミルクでいいな。ミルクのピッチャーを置いて隣に座ったエルフィーネが笑いかけてくれて、やっと人心地ついた気分になった。

 この身体と歳の近いエルフィーネとジュストに挟まれていて、向かいにマルカートか。

 さっきまで怒ってたのに、もう笑顔で俺に手を振ってくるのがかわいい。


「もう八時半よ、早くないわ! わたしたちはもう朝のお祈りも掃除も洗濯も済ませちゃったわよ。いつもだったらとっくに食べ終わってるんだから!」


 まあすぐ斜め向かいのレジェに突っ込まれたけどね!


「レジェ、疲れてたお客様にそんなこと言わない。それより食べましょ!」


 ベッラは明るくて優しい。

 巨人族タイタンは男女ともに逞しい身体をしてるし好戦的だと言われてるけど、ベッラは面倒見もいいし気は優しくて力持ちって感じだ。

 昨夜の今日だし、部外者が珍しいんだろうな。ほかの子たちもみんな俺を見てるのが落ち着かなくて、俺は内心ドッキドキ。

 こっちに来てからコミュ症のことを忘れられてたのは、「交渉」スキルがあってこそって実感する。


「うん。揃ったね。ではいただこうか」


 神父様の一言で賑やかだった食卓が静かになって、みんなで食前の祈り、それからやっといただきます。

 献立は、こちら!

 まずは昨夜と同じく固さが倍になった穀物でかさましだけど白いのより栄養は勝ってるだろうすっぱいパン、細切れの野菜…の皮がたくさん入った滋味深い薄いスープ、みんなが宝物のように大事に食べてる一人一個ずつの目玉焼き。

 やっぱり気になってミルクの正体を聞いたら、赤毛長牛という牛だった。農耕でも使うし、昔この孤児院を卒業した人が牧場をやってて安く融通してくれるんだって。

 赤毛長牛は人々が飼い慣らした家畜だけど、元は太くて捻じれたすごい角を持つタイラントホーンって魔物だ。

 これも食べられるそうだけど、筋が半端なく固いらしい。でもめっちゃ煮込むとお酒が止まらないんだって。

 肉は濃厚な赤身が特徴で臭みがないし、高級食肉として取引されてるけど、狩れるのはかなりの猛者だけか。さすが荒くれもやってくる教会の神父様、詳しいな。


「サトル、パンのおかわりが必要なら言ってくださいね」

「うん、ありがとう」


 言ったらエルフィーネの分が俺の皿に乗りそうだから、もちろん言わないよ。

 それにこのパン、マジで固くて顎が鍛えられるというか、みんなはスープにひたして食べてるけど、俺は固くてもいいからパンにはバターと蜂蜜が欲しい派なんだよね……。

 まだ全員が使っても大丈夫なぐらい残ってるし、ここで出しちゃおうかな。


「あ! サトル、なんだそれ!?」


 鞄に手を入れて壺を二つ取り出したら、さっそくマルカートが食いついた。


「バターと蜂蜜だよ。みんなも食べてね」

「バターと蜂蜜!?」

「いいの!?」


 ボッコとレジェも身を乗り出して、またエルフィーネが叱りそうな素振りを見せたから、身振りで止める。


「サトル…」

「森の小屋にあったやつだし、二人暮らしじゃなかなか減らなかったんだ。そろそろ入れ替えたいからちょうどいいよ」


 そう言ったのに、なんだかんだ躾が行き届いてるなあ。


「サトル、ありがとう! ほら、アリアもちょっとだけね」


 みんな俺が使い終わるのをちゃんと待ってから、ベッラが代表して小さい子から順番に使わせてあげてる。

 たっぷりあっても、みんな少しずつ大事に大事に使ってるのに、最初にいつもの調子でぼたっ、とろ~っと使った俺って……。

 しかも神父様とエルフィーネ、ジュストは使わないとか、これじゃ俺が一番子どもっぽい!

 この中で最年長のプリモがうきうき使ってくれたのが救いだ!


「それにしても、本当にすごいなその鞄。昨夜の肉の塊がごろごろ出てきたのも凄かったけど、この壺だってどう見てもその鞄に入らないのに」

「うん。だから便利なんだ」

「ふーん、それがあったら確かに冒険者はやりやすいかもなあ」


 左隣のジュストがまじまじ鞄を見て言うものだから、実は鞄じゃないんだって申し訳ない気分になってくる。

 そしてみんな食べるのが早い!

 決して下品じゃないんだけど、ぱぱぱっと食べ終わって、一人ずつ食器を流しに持って行く。

 それからまた一人ずつ出勤だ。そう、出勤!

 みんなまだ子どもなのに子守りや建築現場、市場へ手伝いに行って稼ぐんだって。

 学校とかいいのかな!?

 確か庶民が行く学校もあったはずだけど。


「みんな学校へは行かないの?」

「週に三日は登校しますよ。余裕のある家の子以外はみんなそんな感じですね。それにここでは神父様が勉強を見てくれますから、みんな成績はいいんです」

「へえ…そうなんだ」


 子どもが労働力の発展途上国みたいだな……。

 そういえばこの世界の識字率ってどのくらいなんだろう。

 製造や保管に手もお金も掛かる羊皮紙よりは和紙っぽい紙が主流みたいだけど、街中でチラシの類がまったく撒かれてないからまだまだ高いんだろうし、子どもの手習いには使えそうにないし。

 紙の製法とかな~…。それだけじゃないけど、こんな風に転生するのがわかってたら、前の世界で役に立つ知識をいろいろと詰め込んできたんだけどな。

 こっちにあったら欲しい便利なものはたくさん知ってるけど、作り方がわかるものなんてほとんどないってのが不甲斐ない。


「もういいの?」

「うん、ごちそうさまでした!」


 ぐだぐだ考えてたせいもあるにしろ、俺も食べるのは早い方だと思ってたのに、最後になってしまった。


「あ、自分でやるよ」

「サトルはお客さまなんだから、気にしないでください」


 食後のお湯を飲んでたエルフィーネがすぐ片づけようとしてくれるものだから、焦って立ち上がろうとしたけど止められてしまう。


「………飲め」

「あ、ありがとう」


 どうしようと思いながらそわそわしてたら、ずっと俺を警戒してた男の子が目つきは悪いままながらも、エルフィーネに頼まれたお茶を俺と神父様に持ってきてくれた。

 このちょっとざんばらな黒髪の男の子は六歳でメル、今日はレジェの当番だって抱っこされて行ったはいはいの赤ちゃんはもうすぐ一歳の女の子でアリア、どちらも人間ヒューマン

 自己紹介はしてもらえないままだけど、ほかの子が呼んでたから覚えられたんだ。

 満タンだと両手で持ちたくなるような厚くて重いマグカップの中身は、エルダーの葉と花を使ったハーブティだった。みんなはお湯を飲んでたのに、特別扱いしてもらいっぱなしで申し訳ないな……。


「すまないね、サトル君」

「えっ」


 ありがたく一口いただいたところで神父様に話しかけられて、慌てて姿勢を正す。


「メルは少し目が悪くてね。どうしても目つきがきつくなってしまうんだ。ここに来てまだ日が浅いのもあって警戒心が強いのは間違いないが、いい子なんだよ」

「大丈夫です。悪く思ったりしてません」


 そうか、だから…。

 俺ももとは眼鏡くんだ。目が悪くなり始めたころ、親に「目つきが悪くなった」って注意されたから身に覚えがある。


「眼鏡は高そうですものね」

「そうだね。子どもの場合は特にゆとりのある家庭しか作らないな」

「サイズが変わるからでしょう?」

「そうだ。それに子どもはどうしてもはしゃいで壊すことがあるからね。もちろん私は作ってやれるものならそうしたいのだけど」


 この神父様は優しそうだもんな。その気持ちはわかる。

 視力が落ちるとなにかと不便になるもの。


「あの子はエルカセで母親を亡くしてね。捨て子だったアリアといっしょに商人のキャラバンに預けられてうちに来たんだ。お針子だった母親の仕事をよく手伝っていたそうだから、それで目を悪くしたんだろう」

「そうだったんですか……」

「あそこは紡績で有名だからね。目と肺を悪くする人が多いんだよ」


 そういえばエルカセのエリアで出る魔物は、糸を吐くものが多かった。

 代表的なのは二種類。まず蚕がベースになったシエルウォーム。こいつは生息するエリアによって吐き出す糸の色が変わる。攻撃の属性も変わるから、レベルが低いうちは装備の切り替えが多くて面倒だった。

 もう一種は細くて頑丈な糸を吐くダランデュラ。大きな蜘蛛型の魔物で、こいつの糸に巻き付かれたらパーティメンバーの助けがないと動けなくなっちゃう。

 あとはマップの風景でも羊がいたし、フルサイズのマップでルートを考えたら綿も入ってきそうだ。


「紡績で有名って、羊とか綿だけじゃなくて、魔物のシエルウォームやダランデュラがたくさん出るからですか?」

「そうだ。サトル君は詳しいね。実は今はその二つの糸を使ったものがあそこの特産品で、人工飼育も盛んなんだ」


 魔物の人工飼育! 画面じゃどっちも相当大きかったけど、大丈夫なのかな!?


「普通の蚕はいないんですか? 危ないんじゃ…」

「いるとも。でもか弱いからね。まあ絹糸としてはやはり一番質がいいから、そちらはエルカセに限らず紡績業のギルドと専属契約を結んで商売をしている集落があるな」

「そっか…。それじゃ量産は難しいですもんね」

「そういうことだね」


 俺たちのところじゃ蚕は桑の葉しか受け付けなかったけど、こっちのはどうなんだろう? いろんな生物の生態が知りたいかも。


「ダランデュラの糸は洗浄が大変らしいが丈夫でね。加工されて絨毯や帆布、幌に使われることが多いな」

「ああ、あの蜘蛛の糸ってなかなか切れませんよね」

「おや、戦ったことがあるのかい?」

「いえ、ばあちゃんが加工してるとこを見たんで」


 これは嘘じゃないぞ。

 俺の服や革製品を作ってくれるときに実際見たんだ。

 ただ、ゲームで戦ったときの感想が漏れたのは本当だから、ぼろを出さないうちに逃げたい!

 そう思って残りを一気に飲んでマグカップをテーブルに置いたらごとんと鳴って、マナー違反に赤くなりながら退出の挨拶を考える。

 でもまだ話は終わらなかった。


「サトル君」

「は、はい」


 ゆったりとお茶を飲んだ神父様は見事に音を立てずにマグカップを置いて、俺を呼ぶ。

 眼鏡越しにもなにもかも見透かしてきそうなブランデー色の目が、めっちゃこっち見てる! やめて!!

 まだ今日の予定がなにも始まってないのに、俺のHPとMPがゴリゴリ削られるじゃないか!


「昨夜はなにもなかったかね?」

「え…っと、おっしゃる意味がわかんないです……」


 ぐっすり寝てたんだから、もしなにかあったってわかんないよ!!


「失礼だと思ったのだけど、君が寝ている間に部屋に入らせてもらったよ」

「え……」

「ノックはしたのだけど、君は眠っていたものだから」


 そうか、だからカーテンが閉まってたんだな。

 じゃあ昨夜から俺になにか話があったのか。やっぱりエルフィーネのケガのこと?


「そうなんですか!? すみません、俺、気がつかなくて」

「ああいや、むしろ勝手に入って申し訳なかったね」

「いえ、そんな」

「お節介とは思ったんだが、君の部屋に封印ケーラ魔法スペルを使わせてもらった」

「え…」


 「封印ケーラ」は強奪系スキルを封じる対抗スキルでも、最上級の魔法スペルだ。

 対象の大きさや範囲で消費MPが変わる。

 武器とか防具だけならまだしも、部屋に丸ごとかけるってMPをめっちゃ消費するだろうに、びっくりだよ!

 こっそりサーチしてみたけど、やばい。弾かれた!!

 神父様が一瞬、ほとんど動かないぐらいに目を瞠る。これは弾かれたら気付かれるってことだ。覚えた!


「これは偵察サルート……ではないな。索敵ローバー鑑定アナライズ、もう一つなにか……」

「!」


 ブランデー色の目がぱっと一瞬金色を帯びた。

 今、俺を探られた…!?


「ああ、驚かせてすまないね。術式がはっきりわからないが、これは私が知らない魔法スペルのようだ。それもかなり強力なものだね」

「ご、ごめんなさい。あの部屋全体に封印ケーラ魔法スペルをかけるって、どれぐらい魔力があるんだろうって気になって」


 神父様は笑ってるけど、怖い。

 だって俺、とんでもない無礼を働いたってことだよな? 笑ってても実は怒ってるってパターンだったらどうしよう……!


「いや、構わないよ。見られるようにしよう」

「いいです、そんな」

「先に無礼を働いたのは私だからね」


 あああ、やるんじゃなかった…!

 こうなったらしょうがないか。観念した俺は、聞こえないぐらいの声で「サーチ・オリジン」と唱えた。

 名前はレオンハート、年齢三八歳。

 ハイプリーストで、HPとMPがめっちゃ高い!

 MPはわかるけど、なんでハイプリーストがこんなに体力あるの? いや、まあそういう人もいるかも知れないけど、なんか見辛い。HPとMPのバーが灰色ってなんだろう? ……なにかの影響で減ってる? 減っててこれ?

 でも、なんか怪しい。実はこの人のジョブ、本当はハイプリーストじゃないんじゃ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る