第6話 ファ〇ヤートルネードッ!

俺は教室に入り、席に座った。

やはり、まだあまり生徒は来ていないようだ。


数分経つと、杉山くんも教室に入ってきた。

彼は俺の3つ後ろの席に座った。


まだ進級して間も無いので、席は出席番号順だ。

もちろん、俺の出席番号は1番。

"あさひな"だからな。


そしてこれは裏話だが、俺の横の列は、渡辺が5人並んでいる。

彼らはお互いを名前で呼びあっているようだ。


実は寝る前に、こっそりとまた計画を練っていたのだ。

仮にこれがまた失敗しても、期限は明日までだ。また再挑戦すればいい。


昨日の自分より、心が少しだけ成長しているのが自分でも分かった。



二限が終わり、次は体育なので皆着替えを始める。

女子は別の部屋で着替えるので、それぞれグループで教室を出ていった。


今日は校庭でサッカーをするらしい。

俺は着替えを終え、1人で校庭に出る。

廊下が随分にぎやかだ。


やはり周りを見渡しても、1人で校庭に向かうやつなんて居ない。

こういうとき、俺はぼっちなんだと再認識させられる。


「はーいみんな整列ー!」


うちの担任は体育担当だ。

だからいつも学校ではジャージで歩いてる。

ショートカットで切りそろえていて、髪はサラサラ。

元はテニスをやっていた人だそうだ。


「じゃあサッカーやるにあたって、8人ぐらいでチームを組もうか!」


うわぁ、でた。俺が馴染めなくて、チームの雰囲気が悪くなるやつ。

やりたくないなぁ。憂鬱だ。

頼むから、せめて杉山くんと同じチームにしてくれ・・・・・・


「そうだね、出席番号で適当に決めていこうか!最初だし!」


おっと?これは勝ち確フラグか??

チームの定員は8人。

対して、俺の番号は1番。

つまり1番〜8番までが俺のチームだ。


す、杉山くんと同じだ!

体育でなら、俺からでも話しかけられる気がする。


俺は目標達成のきざしが見えてきたことに、

ほっと胸をで下ろした。


「じゃあ、とりあえずチームでパスパス!」


チームで集まったとき、杉山くんは俺に、無言で微笑んだ。その暖かさは、まるで公園に咲く桜の、木洩れ日こもれびのようだった。


惚れてしまいそうだ・・・

いけない、生憎あいにく俺は今彼氏を募集してはいない。


「いけーっ!ファ〇ヤートルネードッ!」


「お前どこ飛ばしてんだよ!続ける気ないだろ!」


あそこにいる、寺が燃えていそうな人の名前は、

嵯峨さが 英隆ひでたかだ。


クラスのムードメーカーで、ふざけ過ぎて先生に怒られたり・・・などという事がザラである。


あそこまでふざけられるのは、まさに陽キャの頂点に君臨するだけある。

俺の対極にいるような存在だ。


他の人達は遊びながらパスパスをしている一方、

俺は真面目に、パスパスした。


「じゃあ次は、かるーく試合してみよう!ルールは適当でいいから!」


またもや出ました、ミスするとなんだよあいつって目でにらまれつつも、何も言われないでスルーされるやつ。

体育ってほんと、地雷だらけだよ。

ほんとに。


「試合開始!」


ボールの取り合いが始まる。

授業でのサッカーなんて、経験者がボールを独り占めして、未経験者はただ見ているだけの競技である。

楽しいのは経験者と、それを見ている教師だけだ。


もちろん俺は未経験者側の人間だ。

どうせ角っこで突っ立って居れば、試合は終わる。

そうやって油断していると、ボールは俺の方に飛んでくる。


「朝比奈、こっちにパス!」


「あ、ああ」


俺は名前を呼ばれたことと、ボールが飛んできたことに驚いたが、咄嗟にパスを出した。


それがたまたま、上手く杉山くんに渡った。


ボールを受け取った杉山くんは、ぐんぐん相手の陣地へボールと共に攻め込み、ついにゴールにシュートした。


「ピピーッ!!ゲーム終了!!」


「よっしゃあ!!勝ったぞー!」


今まで点数は同点だったが、試合終了間際に杉山くんがシュートした事により、試合に勝利したらしい。


「まじで杉山ナイス!」


「今日のMVPだな!」


みんな杉山の肩をバシッと叩き、彼を褒め称える。

やがて他の人たちは水を飲みにどこかへ行った。


俺は1人で昇降口の石段に座っていると、杉山くんが隣に腰掛けてきた。


「朝比奈、ナイスパスだったよ」


「あ、そ、そうかな?」


たまたま、真っ直ぐ蹴れただけだ。

そんなに褒める事でもないさ。


「ああ。朝比奈がいなかったら同点で終わってたよ」


「あ、ありがとう・・・」


せっかく2人になれたんだ。話しかけるチャンスだ。

ここは噛まないように落ち着いて、話そう。


「そういえばサッカーとか、やってたの?」


よ、よし。言えたぞ。俺から。

これで目標は達成だ。

後は・・・どうにでもなれ!


「うん、ちょっとね。部活でもやってるし」


「そうなんだ。すごい、上手かったよ」


「ははは、ありがとう」


は、話せた・・・・・・!

初めて、自分から話しかけた。

しかも無難に会話が進んだ。

こんなこと、初めてだ。

後で華織に沢山、自慢しよう。


俺は、やっとの思いで1つ目の目標が達成出来たこと、そして自分から話しかけられたという事のよろこびに、打ち震えていた。


きっと華織もたくさん褒めてくれるだろう。

放課後が楽しみだ。




**********

ご愛読、ありがとうございます!

だんだん物語の展開が加速してきましたね!

なんかラブ要素少ないような・・・?

まぁこれからですよ、これから!!




あ、1つ謎なんですが、どうして先生達は5人の渡辺さんのクラスを、均等に分けなかったんでしょうか・・・?

真相は闇の中・・・・・・





これからの悠くんにご期待!

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