第5話 そのリンゴ、食べないのか?

「・・・・・・その、ありがとう」


「ん?何が?」


俺は心の底から、華織に感謝の気持ちを伝えたかった。

俺自身を、変えてくれた人に。


「その・・・・・・色々」


「うんうん、頑張ったのは君自身だよ。私はきっかけをあげただけ」


たしかに、変わろうとしたのは俺自身だ。

もし3日前に俺が華織を助けなければ、俺は変わらず独りでいただろう。


「それに、まだ1つ目の目標も終わってないんだから、また頑張らないと!」


そうだ。何終わった気でいるんだ俺は。

沢山友達を作るために、また頑張らなくては。


「頑張って・・・みるよ」


「うん!その調子!」


ふふふと笑う華織は、どこか嬉しそうだった。

何故かは、俺には知るよしもないが。


報告会が終わり、俺と華織はベンチから立ち上がった。


「私は左曲がっちゃうから。じゃあね」


「あ、ああ。じゃあ」


俺は華織に手を振って別れた。

華織は公園を出て左、俺は右だ。


川澄公園は俺の自宅から、徒歩10分程の場所である。

時刻は午後6時に迫っており、辺りは紫色に暮れ出し、街には灯がともりはじめていた。


陽は落ちるが、明日になれば再び昇る。


俺は道端の石ころを蹴りながら、自宅への帰途をほっつき歩いた。


やがて自宅に着き、玄関の扉を開くと、スーツ姿の父親がいた。

ちょうど今、帰ったきたらしい。

いつもの残業はどうした。


「おう、悠。帰ったのか!」


こいつの名前は朝比奈 明宏あきひろ

さっき言った通り、俺の父親だ。

俺がアニメを好きになったのも、こいつの影響が大きい。


「ただいま、今日は早いね」


「ああ、定時に帰ってきたんだ!久しぶりにな!」


父親が早く帰ってきた所で、微塵みじんも嬉しくなんかない。

とりあえず、風呂に入ってからハンバーグを食べて、寝よう。


「あら、おかえり、悠。先にお風呂入ってきちゃいなさい」


この人は俺の母親。

朝比奈 仁美ひとみだ。

全体的に天然で、おっとりしている。

俺の性格は、多分母親から遺伝している。


俺は2階にあがり、自分の部屋に鞄を置いてから、風呂に入る。

バスタブに熱い湯を張り、そこにゆっくりと体を沈める。


「ほんとに、疲れたな・・・」


濃厚すぎる3日間だった。

今まで変化の無い暮らしをしていた俺にとっては体力的にも精神的にも疲れていた。


20分ほど湯に浸かり、俺はシャワーを浴びて風呂を出た。


部屋着を着て、リビングに下りる。

テーブルの上には、既に家族分の夕飯が並べられていた。

両親は既に椅子に座っており、俺が来るのを待っていたようだ。


「じゃあ食べようか」


「\\\いただきまーす///」


まずはハンバーグにかぶりつく。

やっぱり冷凍のハンバーグなんかより、母親の手料理の方が美味しい。

今更口には出さないが。


俺が白飯とハンバークをむさぼり食っていると、父親が俺のデザートであるリンゴをまじまじと見ているのがわかった。


父親の食器を見ると、既に食べ終わっている。

相変わらず食うのが早い。


「なぁ・・・悠、そのリンゴ食べないのか?ガっつくようだが俺の好物なんだ・・・くれないか?レロレロレロ」


俺の親父もいつも通りだ。

定時に帰ってきているので、いつもより機嫌がいい。


「もうあなたったら・・・下品ですよ」


全くだ。俺はこんな大人にはなりたくない。

心底そう思う。

母親がまだまともで良かった・・・


夕飯を食べ終わり、歯磨きをして寝る準備をする。

といっても、まだ21時頃なのでアニメを見たり、ゲームをしてから寝よう。


布団に入り、目をつむると、あっという間に沈むように寝入ってしまった。



**********

今回もご愛読頂き、ありがとうごさいます!


だんだんコメディも入れていこうかな、と思っています。


お父さんいつも残業なの・・・??

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