第4話 つまり、詰み。
5限が終わった。
いよいよこの時がやって来てしまった・・・。
俺はこの休憩時間の間で、とても大きな偉業を成し遂げ無ければならない。
そう。杉山くんに話しかけるんだ。
しかも俺から。
これを偉業と言わずして、なんと言う。
だが、今の俺なら出来る気がする・・・
頭の中では出来たので大丈夫だろう。
計画はバッチリだ。
まず、次の授業では課題提出がある。
そこで俺が、「少し見せて」と言うだけだ。
なにも
タイムリミットは10分。
ここで言わなかったら、もうチャンスはない。
俺なら出来る。
こうやって俺は自己暗示でもかけないと、また直ぐに逃げ出してしまうからな。
「そんな目標、クリアしてやるさ・・・」
今は杉山くんが友達と一緒に話しているので、1人になるのを待ってから計画を実行しよう。
・・・・・・
3分経った。
杉山くんは変わらず楽しげに話している。
まだ、7分あるからな。
大丈夫。落ち着け、俺。
・・・・・・
5分経った。
まだ話している。
なぁに、想定の範囲だ。
余裕さ。
・・・・・・
8分経った。
想定外だッ!!
陽キャという存在は、休憩時間なのにずっと話しているのか?!
信じられない!!
まずい。まずいぞ、この状況は。
授業まで残り2分なので周りの人はみな、着席している。
ここで俺が立ったら、とても注目されてしまう。
その中で話しかけに行くなんて、論外だ。
つまり、詰み。
「終わっ・・・た・・・」
結論だけ、書く。
「失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した
失敗した失敗した失敗した」
まさかずっと話しているとは
完全に想定外だ。
どどど、どうしよう。
華織になんて言えば・・・
せっかくアドバイスもくれたのに、合わせる顔が無い・・・
そうして俺は、生きた心地のしない6限を過ごした。
勿論、課題は見せてもらう手立てだったので、白紙だ。
今日はさっさと帰って、寝よう。
寝て忘れよう。
「\ピロン/」
「え・・・?」
L〇NEの通知音だ。
俺は友達がいないので、トーク相手は親か華織のみだ。
「嘘・・・でしょ?」
頼む頼む。親であってくれ・・・・・・
恐る恐る携帯を見ると・・・
"今日の晩御飯、ハンバーグでいい?"
やった・・・お母さんだ・・・
勝利の女神は、俺に味方したようだ。
いや、計画は大敗しているので不幸中の幸いといったところか。
しかも今日の夕飯はハンバーグ。俺の大好物。
予定変更だ。
帰ってすぐ寝るのではなく、
ハンバーグを食べてから寝よう。
先程の焦りから一転、俺はルンルンと帰ろうとしたら、またL〇NEが来た。
なぁに、どうせ"他に何か食べたいものある?"とでも来たんだろう。
"
from 華織。
や、やばい。どうしよう。
文面から察するに、期待している。華織は。
な、何か良い言い訳は無いか・・・
ロクに詰まって無い脳ミソをフル回転させて、何とか言い訳を
そ、そうだ、「周りに友達がいっぱいいて近づけなかったんだ」
って言おう、そうしよう。
若干の
川澄公園。そこは、真ん中に
夜になると、
大した遊具は無いが、ロマンチックに、噴水の前にベンチが並んでいる。
俺は公園の端っこのベンチに腰を掛ける。
これからどうすればいいかなぁ・・・なんて考えているうちに、華織が走って公園に来た。
「ごめーん!お待たせ!」
随分慌ただしい登場だ。そんなに急がなくても良かったのに。
華織
華織は息を整えてから、俺の横に座った。
「それでそれで?どうだったの、杉山くんとは」
やめてくれ。そんな眩しい目で俺を見つめないでくれ。
「い、いや、あのですね・・・」
「ん?どうしたの?」
華織は満面の笑みを浮かべている。
ニッコニコだ。
本当に面目ない。だが言うしかない。
「は、話しかけようとはしたんだけど、杉山くんの周りに人がいっぱいいて・・・」
それを聞いた華織は、まぁしょうがないかという様な顔で、
「うーん・・・そっかそっかぁー。それはしょうがないよね・・・」
共感してくれて良かった。
だが、この先はどうすれば良いだろうか。
タイミングを逃してしまったのに。
「お、俺、次はどうすればいいかな・・・」
「そうだねー・・・まぁそこまで計画を練ったのはすごい事だよ。自分からやろうって、色々考えたの初めてでしょ?」
確かにそうだ。俺は今に至るまで、何もせずに生きてきた。
現状を改善しようとする意思も無かった。
「た、たしかに、今思えばそう・・・」
「そこは君が成長した所だと私は思うよ」
「・・・・・・!」
あの華織が、素直に褒めてくれるなんて、思ってもいなかった。
ここ最近で1番嬉しい事かもしれない。
人から褒められるのって、こんなに心地の良いものなのか。
「だから、そのまま明日も頑張ってみなよ。君ならできるさ」
なんだか、やる気が湧いてきた。
成長した今の俺なら、1人に話しかけるなんてどうってことない事だ。
明日、またリトライしてみよう。
次のステップへ進むために。
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