第3話 友達・・・あ、いなかったか

やがて朝になり、昨日はすぐに寝てしまったので、

風呂に入ってから制服を着て、学校へ行く。


近所の光景は相変わらずだ。

一昨日のように、おばあさんが道端に座り込んでいたりはしない。

俺は気の抜けた欠伸あくびをしながら、高校に向かう。


15分ほど歩き、学校に着いた。

まだ他の生徒は少ない。いつもより、少しだけ早く出向いたからだろうか。


下駄箱を開け、上履きを履いて2階に上がる。

廊下はいつもと違い、騒々そうぞうしい話し声も聞こえない。

教室には、まだ3人ほどしか生徒は居なかった。

みんなそれぞれ携帯でゲームをしている様子だ。

俺も黙って席に着き、携帯の画面に目を落とす。


「はぁー…」


どうしてこうなってしまったのだろうか。

いくら友達を作るのを手伝うと言っても、少々強引ではないか。

それに、1つ目の目標のハードルが高すぎるッ!

いきなり自分から話しかけるなんて、俺なんかには無理だよ。


しばらくして、段々と廊下から足音が耳に入るようになってきた。


「まぁ…やるしか、無いよな…」


お願いしているのは俺の方だ。

それに、ここで頑張れば友達が出来るかもしれない。

自分で掴んだチャンスなんだ。言われた通りにしてみよう。

俺はそう思い直した。


1人勝手に盛り上がっていると、誰かからL○NEが来ていた。

華織からだ。

そうだ、いつでも連絡が取れるようにと、昨日カフェで交換したんだった。


学校での華織は取り巻き達がいるので、安易に話しかけることはしない方が得策だろう。


華織からは、


”ちゃんと誰かに話しかけるんだよー!”


とだけ。


話しかけるとは言っても、誰に話しかければ良いだろうか。


心当たりすら思いつかないので考えることをやめて、取り敢えず授業を受けることにした。



4限が終わり、持ってきた弁当を開けようとした時、華織から


"屋上に来て"


と連絡が来ていた。

恐らく、俺の進捗しんちょくを聞きたいのだろう。


それを聞いて思い出したが、誰かに話しかけないと。

まだ何もしていないな。

華織になんて言えばいいか。


俺は食べようとした弁当を閉じて、廊下を歩いて屋上へ向かった。


4階に上がると、昼休みの騒がしさは耳に届かなくなった。静かな空間だ。

無骨なドアを空け外に出ると、髪の長い女の子があぐらをかいて座っていた。


多分華織だ。

彼女は俺の存在に気づいたようだ。


「やぁ!」


華織は手を上げ、屈託くったくの無い笑みを浮かべていた。


「そ、それで、何の用?」


「一緒にご飯、食べよ!」


なんと、ご飯を食べようというお誘いだったらしい。

教室で友達と食べた方が楽しいだろうに。


「なんで俺なんかと?と、友達は?」


「まずさ、"俺なんか"って言うのやめようよ。ネガティブだと、友達が離れてくよ。あ、そもそも居なかったか」


おい。余計なお世話過ぎるぞ。

でも俺は一応華織を信用しているので、アドバイスを受け入れる事にした。

これからは出来るだけ気をつける様にしよう。


華織は弁当箱を開けると、いろどりのある具材が並んでいた。

唐揚げの良い香りがただよう。

すみにいるたこさんウィンナーがとても可愛らしい。


「お、美味しそうだね。手作りなの?」


「そうだよ!今日は上手くいったんだー!」


なんと手作りとな。

女子力も高いのか。もう文句の付けようがない美人だ。


俺も弁当箱を空けて、まず梅干しを口に頬張ほおばる。

このい味がクセになる。


女の子と弁当を食べるなんて、二度とないだろうシチュエーションをめて、咀嚼そしゃくしていた。


「じゃあ話を聞こうか」


やっぱり、進捗を聞きたかったんだ。

なんて答えようか・・・


ここまで気に掛けてあげたのに、何もしない抜けだとは思われたくないな。

どうやって誤魔化ごまかそうか。


「い、いやぁ・・・どうしても話せそうな相手がいなくて・・・」


「ふぅーん・・・」


華織は、わかってましたよと言いたげに、じとー・・・っと俺の顔を見ていた。


「じゃあさ、今まで君を気にかけてくれたりする人は居なかった?話を振ってくれたりさ」


そういえば1年生の頃、たまに話しかけてくれる人が居たような・・・

確か彼の名前は・・・

なんだっけか・・・


他人に大して興味が無い俺は、あまり人の名前を覚えるのが得意な方ではない。

頭のどこかで突っかかっていて、出てきそうで出てこない。


そうだ、杉山くんだ。

確か、2年になってもクラスは同じだったはずだ。


「い、いたよ、1人だけ・・・」


「おー!良かった良かった!居なかったらどうしようかと・・・」


なるほど、その人に話しかけてもらったら、俺が話を広げて仲良くなればいいんだ!

それは盲点だった。


「あ、でも今回は話しかけるのが条件だからね!ここの所忘れちゃダメだよ?」


ぐっ。そうだった。自分から話しかけなくてはいけなかったのか。

せっかく成功しそうな道筋が見えたのに、いきなりたれてしまった。


でも、話しかけてくれた相手に、今度は俺から話しかければ不審にも思われないだろう。

杉山くんは優しそうな雰囲気がにじみ出ているので、俺でも話せそうだ。


よし。希望が見えてきたぞ。

後はやるだけだ。

「この前は話しかけてくれてありがとう」

から始めよう。


「まぁ、やってみるよ。自分なりに」


「うんうん!頑張れ!」


華織も応援してくれているんだ。

やるしかないだろう。

俺は希望の光が見えたことに、安堵した。


弁当を食べ終わり、少しして予鈴が鳴ったので、華織と別れる。

俺はすぐに階段を降りた。

しばらく経って、華織も降りた。

別々に降りないと、2人で屋上にいたなんて皆にバレたら、大騒ぎになってしまう。


俺は教室に戻り、次の授業の準備をした。

杉山君に話しかけるのは、5限が終わった後にしよう。

俺は必死に、話しかける場面を頭の中でシュミレーションしながら受講した。

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