第13話 みやげは温もり

 聞き損じかと疑うような言葉が続いたので、たっぷり呼吸二回の間、私は黙ってしまった。


「……ええと。殿下は、本気ではなかったんですか?」


「いや、本気ではあった」


 何を言おうとしているのか分からない。二人揃っての沈黙がしばらく続く。


「君との茶会が楽しかったから、遊びにも価値があると信じたかっただろうな。だが、私は本気でやった……と思う。君の方が強かった。遊びにも価値があると認める」


 考えながら言うような王子の言葉を聞いて、私は大変満足した。なんだかもう、これで十分だと思った。息苦しそうな王子が少しでも人生を楽しめるようになってくれるなら、むしろそれが一番嬉しいくらいではないだろうか。


「良かったです」


 心の内を上手く伝えられる気はしなかったので、私はそうとだけ言う。胸の内がほんのりと温かい。その温もりが染み渡るように広がっていくのを実感して、やはり、上手くなくてもこの喜びを伝えておきたいと思い直した。


「……本当に良かったと思っています。殿下、お気づきか分かりませんが、少し笑っておいででした。それがとても嬉しかったのです。どうか、幸多き人生を送ってください。王族だって、笑うことや少し遊ぶことくらい、許されるはずです」


 大変つたない言葉である気がするが、王子は目元を微笑ませたまま頷いてくれたので、意図するところは伝わったと思いたい。


 まだ名残惜しくて堪らなかったが、私は一礼を残して今度こそ扉に向かった。この寂しさは、未だ残り続ける温もりでどうにか打ち消せると思った。

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