第12話 負けたかったのは
観察と対話で分かったことがある。
王子はちっとも楽しそうな生き方をしていない。でもそれを王族の務めだと受け止めている。そこに諦めはなく、当然のものとしてただ静かに、どこまでも真面目に。そして王子は、国や民を確かに愛していた。何もかも捧げても構わないと本気で思って、実行していた。
こんな人がいるのか。
尊敬した。敬愛した。愛慕した。それはもう強烈に、狂おしいほど。
「……そうか」
王子は、私の告白を極めて淡白に受け入れた。
「分かった。この四十日余り、とても世話になった。礼を言う」
「いえ、こちらこそ。本来罰を受けるべき身です。ご慈悲、感謝します」
反応については、礼の言葉をもらえただけとても嬉しかった。元より己の行いを振り返れば、期待も何もできたものではない。ただ、ここを去ってしまったら、二度と王子と話せることはないだろう。そう思うと名残が尽きなくて、踵を返すまでに時間を要してしまった。
結局最後まで一度も欠けなかった月を見納めて、ようやく身を返せた、そのときのこと。
「リアネ嬢」
突然名で呼ばれて、踏み出しかけた足を浮かせたまま固まってしまった。折角扉に向かえそうだったのに。小さく息をついてから、落ち着いて足を置き直して、ゆっくりと振り返る。
「はい」
月の姿を再度目にした途端、私はまたしても硬直してしまった。今見ているものがとても信じがたいものだったから。
口角はちっとも上がらない。しかし、瞳が。しっかり分かる。瞳が、笑っている。
「殿下……」
「楽しかった、と思う」
まず短く言って、駒に目を移し、王子は小さく付け足した。
「負けたかったのは、私もかもしれない」
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