第6話 そうぐう編

「カウントリーロード、テイクミーホーム・・・」

「ーーちゃんも歌、歌うんだね」

「ーーーさん、私だって人間だよ。好きな歌の一つや二つぐらいあるよ」

「いつも氷みたいにひんやりしてるからさ」

「このご時世じゃ感情的になればなるほど命取りなんですよ。人としての心を捨てなければ死んでしまう」

「ーーーんーてさーーーーー」


「カントリーロー、こーみーーーーーいけb」


「なーーれ」


朝起きると、身体中がすごく痛かった。

さすがに床が硬すぎたのかもしれない。しばらく起きたくないぐらい痛かった。

今日は珍しく夢を見た気がする。寝ている時間、というか寝た感覚が強く残っている。

あと、見た夢がなんとなく、ものすごく大事な内容だった気がする。

「あおい・・・・」

「起きたの」

「いたい・・・うう・・・」

「・・・ふふっ」

「あー!わらった!わーらーうーなー!」

「ははは、だって私と一緒だもん」

「あ、そういえばあおいちゃん笑うんだね」

「私だって人間だよ。笑ったり泣いたりするよそりゃ・・・」

「いつもひんやりしてるもん」

その言葉を聞いた瞬間、前にもあったような感覚と拳銃を握った時のあの感覚が同時に襲ってきた。

『ーいーーて。わたーーなたーーーーー』

 また誰かの声が聞こえた。あの時と同じ声。

気づくと目の前にりーがいた。変な指の動き、動物が襲いかかるときのポーズ・・・

「こちょこちょだーー!!」

「あはあは!やめっ!あはは!!やめてっ!あはは!」

「わらえわらえーっ!」

私はくすぐりにはめっぽう弱い方で、くすぐられている間は動くことができない。

されるがまましか出来ない。私の大きな弱点だ

「わらったことをあやまれば許してあげる」

「あは!ごめっ!あはは!ごめんって!あははは!」

「よしっ!」

「はー・・・はー・・・はぁ・・・」

「たのしかったあ」

「・・・もう!」

仕返しをしてやろうかと思ったけど、またやられると嫌だからやめておくことにした。

嫌だけど、なんだかすごく楽しかった。

「・・・今からここを出るから、食べ物とか持ってね」

「あおいちゃんも持ってよ!」

「持つよちゃんと・・・」

りーは食べ物、私はちょっとの食べ物と使えそうな道具を持って飛行機を出た。

振り返って飛行機の方をもう一回見てみると窓から朝日が入ってきていた。

「ねえねえあおいちゃん、夕日と朝日どっちすき?」

「なにそれ」

「りーはね、朝日がすき!おきるときは嫌いだけど、なんかきれいだし!」

「うーん・・・私は夕日かなぁ。今日が終わるってのが実感できるし、時間を感じられるし・・・」

「ぜんっぜん分かんないや」

「まあなんでもいいよ。私は・・・」

チリン・・・・・

「・・・なんかきれいなおとー」

聞いたことがないような、甲高いけど透き通るような不思議な音だった。

その音は結構遠くから森じゅうに響いてるみたいで、それでもなんとなく音の鳴っている方向が分かるほどしっかりした音。

「行ってみる・・・?」

「いくー!」

チリン・・・・

夢のような、幻のような。掴めない音のはずなのに、なっている方向に歩けば歩くほど音は大きく、何かを言いたげな感じで強く響く。

かなり音が大きくなった頃、何かすごく嫌な感じがした。

銀色の箱から拳銃を取り出し構えた。心臓の鼓動が一秒ごとに速くなっていくのが分かった。

「おー」

「なに!?」

「あおいちゃんかっこいー」

ガサッ!!

ッタァン! ッタァン! ッタァン!

私は驚いてついパニックになって、上向きに拳銃を何発か撃ってしまった。

「あおいちゃん?」

「消せど忘れど体は動く、か」

「誰!?」

急に私の背後から女の人の声がした。私は考える時間もなく拳銃を声のした方向へ構えていた。

「君たちと同じ、かもしれないし。違うかも、しれない。」

「誰なの!」

「あおいちゃん・・・」

「大丈夫。銃は持っておらぬ。襲おうにも襲えぬから無駄な杞憂はやめること」

枯れ葉を踏み締める音と共に、白髪の私より年下の女の子が出てきた。

確かに銃も持っておらず、それどころか森を歩くのには絶対不向きな長い袖と上着から伸びた裾に、木でできた変な形の靴を履いて出てきた。

「人間の作り上げた神話というものに載る人類の最初は男アダムと女イヴ。彼らは天界の神々の庭にて、神の作った「モノ」に名前を与える仕事を与えられていた。しかしある日、イヴに蛇の姿をしたサタンが、食べてはいけないと言われる『禁断の果実』を食えと唆した。イヴは最初こそ抵抗したものの、最後には誘惑に負け食ってしまう。その美味しさに感動し、アダムにも食べるよう勧めた。アダムもなんだかんだ言って食べてしまった。その結果、創造主の神は激怒し、女と男に生きる上での苦痛を与えた。その上作っていた地上に二人を堕とすことで罰した。」

「なんの話だ」

「言ったであろう?人間の作り上げた偶像で妄想の神の物語だと。」

「なぜ今・・・」

「いや何、少し君たちに皮肉を言いたかっただけだ。人間は過ちから学ぶというが、結局学んだことは全部過ちに活かすのだからな。」

「なんだかきいてて眠くなるよぉ」

「おっと、悪かったのう。しかし、あおいには分かるじゃろ?」

このよくわからない人が言いたいことはわからなかった。

でも、何か知りたいことを全部知っているみたいな、そんな感じがする話だった。

「私の名はベクツェ。どうかその銃を下ろしてもらえると助かるのだが。」

私はゆっくりと拳銃をおろし、地面に捨てた。あまり疑いを持ちすぎるのもよくないから。

「・・・何をしていた・・の?」

「そうじゃなあ、最後の砦を散歩?と言ったところか」

「最後の砦・・・・?」

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