43. 最後の戦い

 僕とルナが矢の飛んできた方角を見たが、そこにはなにもなかった。

 だが、次の瞬間、またクロスボウのボルトが飛び抜けていった。

 これは、誰かが隠れているな。


「アーク、匂いもわからない。どうしよう?」


「困ったときは爆弾頼み! 食らえ、ニードルボム!」


 ボルトが最初に見えたあたりを狙ってニードルボムを投げた。

 ニードルボムは地面にあたって爆発し、トゲをまき散らす。

 すると、何もない空間にトゲが刺さって残った箇所があった。

 あそこに誰かが隠れているな!


「次、フランジュ!」


 トゲがまとわりついている空間に向けてフランジュを投げつける。

 すると、トゲのはりついた空間が動き、景色を歪ませながらフランジュを回避した。

 やっぱりあそこに誰か隠れているな!


「ルナ!」


「わかった! やっつける!」


 僕の爆弾ではかわされてしまうため、ルナに追撃を頼む。

 ルナはその脚力を遺憾なく発揮し、歪んでいる空間をその手甲に付いている爪で引き裂いた。

 引き裂かれた空間の中から現れたのは見知らぬ男。

 冒険者風の装備に身を包んだ、特に特徴のない男だ。

 こいつ、どこかで会ったことはあるか?


「……さすがだな、錬金術士アーク。その連れの少女込みとは言え、空化粧そらけしょうのマントを打ち破るとは」


「あんた、どこかで会ったことがあるか? 思い出せないんだけど」


「ああ、何回かポーションを買わせてもらった。街の錬金術士どもが作る不良品とは違い、まともな回復力のある優れたポーションだよ」


「そいつはどうも。それで、僕を殺そうとした理由は?」


「それは言えないな。大人しく殺されてくれると助かるんだが、そうもいかないだろう?」


 当然だな。

 死んでくれと言われて死ぬほどバカじゃない。


「お前ひとりだったら殺す自信がある。だが、そこの少女も一緒だと少々骨が折れる。これから獣人族の砦を突破して国に帰ることも考えると、ここで無駄な消耗をすることも避けたいんだがな」


「ふうん。でも、大人しく返すと思っているのか?」


「思っちゃいないさ。だから、こうする!」


 男はルナに向かってなにかを大量に投げてきた。

 あれは、トネルニードル!


「ルナ、避けろ!」


「う、うん!」


 ルナが大きく身をかわしたおかげで足元に散らばったトネルニードルは、轟音を立て激しい稲妻を呼び起こし消え去った。

 そして、そちらに気を取られている隙に男もいなくなってしまっていた。

 くそ、取り逃がしたか。


「アーク、追う?」


「いや、やめておこう。獣人族の砦を突破するって言ってたから、人間族国家の暗殺者かなにかだろう。下手に追っても返り討ちにあうだけだ」


「わかった。このあとどうしようか?」


「うーん。後をつけられるのも困るから、トランスタットに行こうか。そっちで様子をうかがおう」


「うん。わかった」


 人間国の暗殺者がどうして僕のところに来ていたんだ?

 僕程度の錬金術士なら中央ではそれなりにいると思うんだけど。

 いや、こんな辺境で大量の素材を持っている錬金術士ってだけで問題なのか。

 しばらくの間はトランスタットにも行かない方がいいかもしれないな。

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