第6章 決戦の春

40. 素材の引き渡し

 隠れ家の近くに素材採取場を用意したことで、なんとか予定日までに素材を集めることが出来た。

 量産したマジックバッグ60個すべてが容量ぎりぎりになるまで詰め込んだので、結構大変だったよ。

 それに錬金術を使い、自動で壁や床になるよう処理を施すのは僕だしさ。

 本当に割に合わない仕事をやっている気がする。

 報酬として宝石の原石を大量にもらう予定だからいいんだけど、ただ働きだったら本当にやってられないところだね。


「ん。アーク、準備は整ったの?」


「ああ、整った。それじゃあ、運ぼうか、ルナ」


「行ったり来たり、面倒……」


「それを言うなよ……」


 今日の僕たちの役目は完成した素材の入ったマジックバッグを砦にいる獣人たちに引き渡すことだ。

 正確には、今日では終わらず、6回くらい訪れなくちゃいけないんだけどさ。

 マジックバッグの中にマジックバッグが入らないという現象が、ここまで辛いとは思わなかった。


 どうにもならない物理現象は忘れ、僕とルナはそれぞれ持てるだけのマジックバッグを持ち隠れ家を出る。

 今回向かうのはトランスタットの街ではなく獣人族国家の方角なので、普段とは別ルートだ。

 どちらにしても、空を飛べなくちゃ僕の隠れ家まではたどり着けないから安心なんだけどさ。

 簡単に入り込まれたら隠れ家の意味がない。


 野営を挟みながら数日間歩き、ようやく獣人族国家の国境にある砦へとたどり着いた。

 そこで僕は事前に教えられていたハンドサインを使い、獣人族の兵士を呼び出す。

 あちらも僕たちの存在には気付いていたようで、すぐに受け取りの兵士が出てきた。


『早かったな。依頼していたものは?』


『そのカバンの中。ただし、書いてある数字の順に持ち歩いてください。1から15までは砦の建材、残りが城壁の建材です』


『承知した。それにしても、ずいぶん流暢な獣人語だな。どうやって覚えた?』


『祖父が獣人族だったらしいので、母から教わりました』


『なるほど。そちらの国では肩身が狭かったのでは?』


『子供の頃から隠れ里暮らしですからなんとも。街に出るようになったのも母について歩くようになってからです』


『そうか。俺たちが行ってからは暮らしやすくなるといいのだが』


『どうでしょうね。僕は隠れ里に引っ込んでいるつもりなので、街に薬を売るとき邪魔さえされなければ構いませんよ』


『それも物寂しい言い方だが、凄腕の錬金術士は厭世も激しいと聞く。無理に引き留めないでおこう』


『お願いします。それでは、僕たちはこれで。また数日後に別のバッグを持ってきます』


『わかった。中身は開けない方がいいのだったな?』


『中の物に魔力を通して建設が始まってしまうと取り返しが付きません。取り出して調べる分には構いませんが、取り扱いには注意してください』


『心得た。残りもよろしく頼む』


『はい。では』


 とりあえず、1回目の引き渡しは終了っと。

 このまま何事もなくすべての引き渡しが終わればいいんだけど。

 途中で何もない振りして街に薬を売りに行かなくちゃいけないし、大変だなあ。

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