36. マジックバッグの増産

 砦の建築作業は一時中断ということで先にマジックバッグを作る事にした。

 とはいえ、マジックバッグを作るにあたって足りないものはたくさんある。

 バッグ本体になる魔獣の皮、空間拡張を行うための素材、重量無視を行うための素材、これらをひとまとめにして連結させる安定剤。

 どれひとつとして必要数に足りていないはずなんだ。

 どの程度の長さの壁が必要なのかわからないけど、可能な限り長くした方がいいのは当たり前。

 ただ、それを行うためには素材を大量に集める必要がある。

 それに、壁や砦を作るためにも素材が必要になるから限度はやっぱりあるんだ。

 その限界を見通してモンスターを倒して素材を集めてこないといけないのがまた……。


「アーク、疲れた顔をしてどうしたの?」


「ん? ルナ、なんでもないよ」


「そう?」


 うーん、考えていた事が顔に出てしまっていたか。

 ちょっと反省。

 あまり余計な心配をルナにかけさせたくはないからな。

 うん、しっかりしよう。


「それで、アーク。今回の獲物ってこんなに離れた場所にいるの?」


 ルナに聞かれたけど仕方がないよな。

 夜明け前に家を出発してもうお昼過ぎ。

 途中で何回か休憩は取っているけど、歩き続けているんだもの。


「ああ。まだあと数時間は歩くぞ」


「はーい。なんだか飽きてきたな」


「そう言うなって。これだけ離れたところに行かなくちゃいないモンスターなんだから」


「わかってるよ。ただ言っただけ」


 ふう、ルナのご機嫌取りも大変だ。

 ただ歩き続けているだけなのが退屈なのはわかるけど、ルナもいないとなかなかしんどいモンスターが相手だから諦めてほしいんだよね。

 僕ひとりだと絶対に戦いたくない相手だし。

 勝てなくはないけど、時間がかかってしまうからやりたくないだけで。

 そのままさらに3時間ほど歩き続け、ようやく目的地までたどり着いた。

 そこは絶壁と言ってもいいほど急峻な岩山だ。

 そして、空を飛んでいるモンスターはワイバーン。

 今回のターゲットの1種類である。


「んー、アーク。あれを倒せばいいの?」


「ああ。ただ、翼膜が必要なんだ。翼を傷つけないようにして倒さなくちゃいけない」


「……それって大変だよね?」


「大変なんだよ」


 ルナは明らかに疲れたような溜息をこぼして空を見やる。

 空には無数のワイバーンが飛んでいてこちらを見下ろしているが、翼を傷つけないように倒すのは苦労するからね……。


「アーク、あのモンスターって機敏に空を飛び回れるの?」


「確か小回りはきかないはず。それがどうかしたのか?」


「じゃあ、ちょっと空を飛んで撃ち落としてくる!」


「あ、ルナ!」


 ルナは勢いよく跳び上がるとブーツの効果でさらに跳ね上がり、ワイバーンと同じ高さまで到達した。

 そして、そのままワイバーンのうち1匹に向かって勢いよく突っ込んでいく。


「てぇい!」


「GuGyu!?」


 ルナの拳はワイバーンの頭を叩き潰し、ワイバーンは自重によって落下を始めた。

 ああ、もう!

 あれを受け止める方法も考えなくちゃいけないんだぞ!?


「あ、アーク! 落っこちちゃった!」


「わかっている! ええい、爆弾で受け止められるか?」


 僕はフランジュを取り出してワイバーンの死体と地面との間で爆発させる。

 それによってワイバーンの死体の落下速度が少し緩やかになり、それでも大きな音を立てて地面へと落下した。

 さて、どの程度の傷かな?


「ワフ! アーク、大丈夫だった!?」


「僕は大丈夫だけど……ワイバーンの死体は、半身が焼けたな。もう半身は使えそうだから、そっちから翼膜を取ろう」


「やった! これで目標達成?」


「いや、まだだ。あと40枚以上の翼膜を集めなくちゃいけない。ワイバーンも気が立って襲ってきてくれそうだし……どうにかしよう」


「ワフ……」


 僕たちは地上から空でギャアギャア騒ぎ始めたワイバーンたちを見上げて疲れた顔を隠さなかった。

 あれ、どうやって処理しようか?

 本当に大変な依頼になってしまったよ。

 ほかにも集めなくちゃいけない素材はあるし、どうやって集めきろうかな。

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