35. 設計相談

 とりあえず石の壁や木の箱など基本となるものを作ることはできた。

 基本はできたのだけど肝心の砦や城壁の構造がわからない。

 こればっかりは見たことがないからどうにもならないんだけどね。

 さて、どうしたものか。


「アーク。考えごと?」


 砦の内部構造をどうしようか悩んでいたところにルナがやってきた。

 ルナは砦とかの構造を知っているかな?


「ルナ。砦や城壁の構造を知っているか?」


「知らないよ?」


「だよね……」


「変なアーク」


 僕が知らないのにルナが知っているはずもないか。

 ルナだって獣人の隠れ里出身だって聞いているし。

 柵や櫓の構造は知っていても砦や城壁を知っているはずもない。

 うん、聞かなければよかった。


「まだ作り方で悩んでいるの?」


「悩んでるな。普通の家とはまったく造りが違うだろうし、どう建てたらいいのか見当もつかないよ」


「うーん。明日から街に行くんだよね? その時、ダレンのおじさんに聞いてみるのはどう?」


「……それしかないか」


 自分で考えてもダメなら他人に聞くしかない。

 それはわかっていたんだけど、最終手段にしたかったんだよね。

 ダレンさんの様子だと、なるべく内密に、特にドナルを含めた獣人排斥派には知られないように進めたいみたいだから。

 でも、結局いい案も思いつくことなくトランスタットへとたどり着き、いつも通りポーション販売を行った。

 普段と違うのはそのあとダレンさんの部屋に行ったことかな?


「おう。頼んでいた砦と城壁だが順調か?」


 部屋の主であるダレンさんが進捗を確認してくるけど、色よい返事はできないよな。


「うーん、あまり」


「頼りない返事だなぁ。大丈夫かよ」


「進捗は見せますよ。素材を並べてもいいですか?」


「構わん。どこまで進んだ?」


 許可が出たのでダレンさんの机の上に素材を並べながら説明をする。


「素材が自動で組み上がるところまでなら。……よっと」


「ん? 小さな石ころに木片と粘土?」


「はい。これに魔力を流すと……」


「おお!? 勝手に家ができた!!」


「とまあ、ここまではできるようになりました。ここから先がまったくできませんが」


「ふむ。この家ってどの程度頑丈なんだ?」


 どの程度に頑丈か、か。

 どれくらい頑丈なんだろう?

 普段破壊するときは魔法か錬金術の爆弾で破壊していたからよくわからないや。


「さあ……? 普通の斧では壊せない程度に頑丈ですが」


「おっかねえ家だな、手のひらに載るサイズなのによ。……って持てないぞ?」


「勝手に土台に貼り付きますからね、それ」


「……これ、どうしたらいいんだ?」


「強引に引っ張れば剥がれるはずですよ。サイズが小さいのでくっついている力も余り強くありません」


「そ、そうか? じゃあ、ふんぬ……どぉぉぉりゃぁぁぁぁっ!?」


 ダレンさんが力を込めて小型の家を引っ張るがなかなか剥がれず、本気になって引っ張ったところでようやく剥がれた。

 机から引き剥がされた家はダレンさんの手から引っこ抜けて宙を舞い、部屋の壁に当たり床を転がったけどね。


「……このサイズでこんだけ頑丈なひっつき具合かよ」


「しっかりくっついていないと不便かなと考えて」


「だが、くっついているだけじゃ地面ごと引き剥がされると弱いな。地中深くまでつながる杭を何本か打ち込むような仕掛けを作ってほしい」


 ああ、なるほど。

 杭を打ち込んで建物を支えるのか。

 これは盲点だった。

 早速改良に生かさせてもらおう。


「わかりました。他に気がついた点は?」


「その家、扉がついていないがどうにかできないのか?」


「うーん、扉を付けようとすると固まってしまうんですよ。開け閉めできないんじゃ意味がないでしょう?」


「じゃあ、簡易式になるがドアの真ん中に鉄の芯を通してそれに木の板を張り付けドアを使えるようにしてくれや。本格的なドアは落ち着いてからつけなおす」


 ああ、そういう手もあるのか。

 板で開閉する形にはなるからぴったりとは収まらないけれど、それでも簡易式のドアにはなる。

 意外と思いつかないものだなぁ。


「あと、窓がないのも気になるな。窓を付けることはできないのか?」


「え? 砦とかに窓があったら危ないんじゃ?」


「窓がないと外の様子が見えないだろう? 危ないときは閉じればいいんだよ」


 そっか、そうだよね。

 いらないときは閉じておけばいいんだよ。

 盲点ばっかり見つかる。


「じゃあ、窓も付けましょう。ただ、丸出しでは危ないですから透明度の高いクリスタルをはめ込んで遮るようにします。それとは別に金属製の内戸も」


「そこまでする必要はないと思うがな。ああ、クリスタルの窓は開けられるようにしておいてくれ。伝書鳥をやりとりするときに使うかもしれん」


「わかりました」


 ダレンさんに相談しただけでいろいろと改善点が見つかっていくよ。

 やっぱり、僕ひとりでできることなんてたかが知れているよなぁ。


「さて、家が作れるのはわかった。砦や城壁は作れないんだな?」


 ダレンさんから再確認された。

 ここは正直に答えないと先に進めない。


「はい。ふたつの問題があって作れません」


「ふたつ。何と何だ?」


「まずは僕たちでは砦も城壁も構造を知らない為、ただの壁と高い建物を作ることしかできません。それぞれの図面とできれば実際に城壁や砦に行ってみたいです」


「図面と内部の見学か……わかった、なんとかできるように手配する。もうひとつは?」


「素材を運ぶ方法です。今回は手のひらに載るサイズの家を作るための素材しか用意しませんでした。でも、城壁や砦となると相当大きなサイズになりますよね?」


「ああ。特に城壁はこの街の街壁以上に高い壁がほしいな」


「そうなると素材を運ぶ方法が問題です。僕がマジックバッグを持っているといっても運べる量は有限。しかも、出して歩くのにかなり時間を使います。瞬時に城壁を作るなんて真似はできません」


 僕のその言葉にダレンさんは目をつむり、深く考え込んでしまった。

 さすがに素材を運搬する方法までは考えていなかったのかな?

 たっぷり数分ほど考え抜いて、ダレンさんはゆっくり目を開け、僕に質問をしてくる。


「アーク。お前、マジックバッグを量産できないか?」


「え?」


「今回の間だけでいい。素材を詰め込んだマジックバッグを俺たちに預けてくれ。そうすれば人数は俺がなんとかする」


 うーん、マジックバッグを預けるのか……。

 あまり気乗りはしないけれど、それしかないか。


「わかりました。ただし、終わったらしっかり回収してくださいね。あと、重量無視は付けますが時間経過停止は付けないので、持ち逃げされても食料品の運搬などには使えないように細工をしておきます」


「お前はそれくらい慎重でいい。マジックバッグは頼めるか?」


「引き受けます。砦の見学は大丈夫ですか?」


「次にお前が来るときまでになんとか話を付けておく。あっちも相当乗り気なんだ。悪いようにはならねえよ」


 あっちか。

 砦を作るっていうことはそういうことなんだろうな。


「じゃあ、今日の話し合いは終わりですね」


「そうだな。……ところでこの家はどうすればいい?」


「ダレンさんの斧で叩けば壊れますよ?」


「普通の斧じゃ壊れないのかよ……」


 そんな生やさしい造りじゃ城壁も砦も不安でしょうに。

 ともかく、次はマジックバッグの量産だね。

 そうなると皮が必要になるけど、ルナもいるし取りに行くのは問題ないだろう。

 ダレンさんが考えている決行の日まで、淡々と作業を進めていかなくちゃ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る