第5章 風雲急を告げる冬

34. 砦と城壁の開発

 装備納品も終わり、拠点に帰ってきたところで大きな仕事を始めなくちゃいけない。

 それはダレンさんから依頼された『砦』と『城塞』作りだ。

 どっちも石材、木材、粘土からできるのはわかっているのだが、簡単に作れるかというとそういうわけでもない。

 それぞれをバラバラに錬金術で作製し、それを組み立てるという形ならそんな難しいことでもないだろう。

 だけど、ダレンさんの要望はきっと違う。

『使うと一瞬で砦や城壁ができる』ものを求められているはずなんだ。

 それに挑戦してこそ錬金術士!

 錬金術士、なのだが……。


「アーク。失敗ばかりだね」


「そうだな。失敗続きだな」


 採ってきた石や丸太、土をそれぞれ石材や木材、粘土に変えるのは簡単にできたんだ。

 でも、そこから先、砦や城壁への錬成が進まない。

 なにが足りないのだろう?


「うーん。必要な素材は合っているはずなんだけどな」


「なにが悪いの、アーク?」


「多分、やろうとしていることが高度すぎて僕の錬金術能力では足りないんだと思うんだ」


「それだけ?」


 今日はルナもやけにぐいぐい来るな。

 心の内を素直に暴露するか。


「あと、イメージも足りていないんだと思う。僕は砦も見たことがないし、城壁だって見たことがない。城壁は街壁と似たようなものとして考えることができても、砦はなぁ」


「むぅ。難しい……」


「想像で創造するのが僕の錬金術なんだけど、こればっかりはなぁ」


 想像だけでまったく足りていない知識やイメージを補うことは不可能に近い。

 家の文献を確認したけれど、砦や城壁、城などを記した本なんて一切なかった。

 念のためオパールを初めとした妖精たちにも聞いて歩いたが全部不発。

 この依頼、かなり難しいな……。


「おや? ふたりとも難しい顔をしてなにをしているんですか?」


 ルナとふたり揃ってアトリエで頭を悩ませていたら、そこにオパールがやってきた。

 一体なんの用だろう?


「ふたりとも、昼食ができていますよ。難しいことを考えるのも悪いとは言いません。ですが、食事はしっかりとってください」


「あ、そう言えばお腹が空いたの……」


「もうお昼か……」


 食事をとればなにかいい方法も浮かぶかも知れない。

 そう考え、昼食にしたがなかなか上手いアイディアは浮かばないなぁ。

 そんな簡単にいいアイディアが浮かべば苦労しないか。


「それで、ふたりはなにに悩んでいたんですか?」


 昼食を食べ終わった後、オパールが僕たちの悩みについて尋ねてきた。

 前に聞いたときもダメだったからいいアイディアが出てくるとは思えないけど、ダメ元でもう一度話を聞いてみよう。


「ダレンさんから依頼された砦と城壁の話だよ」


「ああ、あれですか。厄介なものを引き受けてきましたね」


「本当に。ここまで厄介だったとは思いもしなかった」


 真面目に辛い。

 錬金術でここまで苦労するなんて初めての経験かも知れない。

 いままでは自分の経験と勘ですべて作ってきたからね。


「それで、オパール。前にも聞いたけどいい案はないかな?」


「いい案、と言われても……私も砦や城壁は見たことがありません」


「だよなぁ」


 はぁ、困った。

 実物を見てみないとどうにもならないとは困ったものだ。


「ですが、まずはじめの一歩はどうにかなるのでは?」


「うん? オパール、どういう意味だ?」


「いえ、砦も城壁も素材の集合体ですよね。それなら自動で組み上がっていく仕組みを付与することができれば、それなりのものができていくのではないかと」


 あ、そう言われればそうだ。

 最初から完成形を作ろうとしていたのがまずかったんだ。

 一歩目として自動で素材が組み合わさっていく仕掛けを作る方がいいよね。

 完全に考えが硬直していたなぁ。


「ありがとう、オパール! 早速試してみるよ!」


「いえ、お手伝いできたのでしたら」


「がう! アーク待って!」


 僕とルナはアトリエへと飛び込み、新しい付与を試してみる。

 既に完成していた石材や木材、粘土を自動で想像したとおりに組み上がるような仕掛けを入れていくのだ。

 ただ、これをこのままいきなり発動させると錬金術で完成した時点でくっつき始めるので、魔力を通したときに組み上がり始めるように細工をしないといけない。

 そして、細工もすべて終わり、いよいよ各種素材に魔法付与を……できた!


「アーク。それで完成?」


「ああ。完成しているはず。多分」


「ここでくっつけないの?」


「アトリエの中でくっつけたら邪魔になる。外でくっつけよう」


 僕たちはアトリエ内から家の外に出て、ある程度離れた場所に素材を並べた。

 その後、素材たちに魔力を流し始めると素材が浮き上がり、僕が望んだ形に組み上がって地面にそびえ立ったのだ!

 よし、第1段階完成だ!


「やったね、アーク!」


「ああ、まずは第一歩完成だ!」


「それで、この後はどうするの?」


「うーん、そこなんだよな……」


 壁を作ることはできた。

 問題はここからだ。


「これを砦と城壁にしなくちゃいけないんだよなぁ」


 城壁も壁と言いつつ中には通路などがあったりするし高さもかなり必要となる。

 砦は言わずもがな、複雑な設計が必要だ。

 そっちはどうすればいいのかさっぱりわからない。

 あと、もうひとつ問題があるとすれば……。


「砦と城壁の大きさ分の石や木、砂を集めなくちゃいけないんだよな」


「あ……」


「それにそれを素材にした後、どうやって運ぶかも問題になる」


「難しいね、砦を作るって」


「難しいな」


 第一歩は踏み出せた。

 だけど、それだけで次のステップがまったく見当もつかない。

 困ったものだ。

 あ、今回作った壁は取り壊せないので爆破して破壊しておいた。

 実際に作った後、解体されると困るから取り壊す方法を組み込めないんだけど、大きな建造物になったときに処分しなくちゃいけないのは大変だ。

 そこも問題か……。

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