37. 再びトランスタットの街

 ひたすら時間を費やしマジックバッグの素材を集め、なんとか必要そうな数は揃った。

 これ以上必要だと言われても無理。

 僕もルナも疲労困憊だ。

 だから、マジックバッグの大量生産はしたくない。

 時間停止をかけなくてもこれなんだから、時間停止用の素材まで集めに行くときりがないよ。


 とにかく、バッグの準備は出来たので一度トランスタットの街へと向かう事にした。

 次は砦と城壁の構造を知らないといけない。

 ルナとともにトランスタットの街まで移動して冒険者ギルドのダレンさんを訪ねる。

 ダレンさんも僕たちが来る事を待っていたようだ。


「来たか、アークにルナ。マジックバッグの方は順調か?」


「素材だけは集めましたよ。全部で60人分です。さすがにこれ以上は集められません」


「60人か。本当ならその倍はほしいところだが、アークひとりに任せている以上無理があるか。わかった、人数についてはそれで了承した」


「お願いします。それで、砦の件は?」


「そっちも話はついている。まずは薬の販売を行ってくれ。そのあと、街を出るとき俺も一緒に出ていく」


「わかりました。お願いします、ダレンさん」


 僕はダレンさんに指示されたとおりポーションの販売を始めた。

 ただ、冒険者たちの活力も失われている気がする。

 酒場のマスター、キルトさんによると、ドナルが冒険者に対しても入街税や依頼達成税、宿泊税などを取り始めたらしく収入が激減しているらしいのだ。

 それじゃあ活力も出ないよな。

 ドナルは何を……何も考えていないだろうな。

 あいつ、目先の事しか考えられそうにないし。


「とりあえず現状はわかりました。キルトさん、値引き販売はしませんでしたが大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよ。値引きなどしたらドナルがまた難癖をつけてくるでしょう」


「ですね。あいつ、もう街の支配者面ですか」


「はい。この街を見限って街を出ていこうとするものも多いですが、そういった者たちへは資産の売却に対して売却額よりも税が多くなるように仕向けています。目先の利益しか考えていないのに人を逃がさない事だけはずる賢く手を回す、そんな小男ですよ」


 まったく、このままではトランスタットの街も長くないな。

 国は何を考えてドナルなんかを街長に指名したのか。


「ともかく、ドナルは何も考えずに増税ばかりを繰り返しています。この街の住人は困り果てていますよ」


「はは……それじゃあ、僕たちはこれで」


「ええ。アーク君たちが来る回数も減るかもしれませんね。いえ、ドナルが街長になれば来る事もなくなるかもしれませんか」


 あー、確かにドナルなら街に入るときの税金として僕のポーション類をすべてよこせと言い出しそうだ。

 何も考えていないからな、あいつ。


 キルトさんとのあいさつも終わり街の外へ出ると、既にダレンさんが待ち構えていた。

 ちょっと待たせたかな。


「お待たせしました、ダレンさん」


「気にするな。むしろ、一緒に冒険者ギルドや街を出ていかなくてちょうどいい」


「それで、どこに向かいますか?」


「それなんだが、お前、気配や姿を隠せるアイテムは持ってないか?」


 ああ、やっぱりそっちに向かうのか。

 ここは貸しにしておこう。


「ありますよ。街から離れたら渡します」


「助かる。では行こう」


 こうして僕たち3人はトランスタットの街を離れた。

 ダレンさんの案内する場所の予想は大体付いているけど、大胆なことをするなぁ。

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