32. 装備納品

 ダレンさんに依頼されることになった『砦作り』はとりあえず置いておこう。

 まず、今日来た目的を果たさなくちゃ。


「ダレンさん。新しい装備を届けにきましたがどこに出しましょう?」


「ん? ああ、そうだったな。そう言えば、そのために来てたんだよな」


 ダレンさんも半分忘れていたらしい。

 あと、キルトさんも呼んでもらわないと。


「ダレンさん、キルトさんは今日いますか?」


「酒場にいるはずだぞ。キルトを呼んでくるから新しい装備とやらを出しておいてくれ」


「はい。わかりました」


 ダレンさんが出て行ったので打ち合わせ室に新しい装備を並べていく。

 さすがに鎧は重量があるから床置きかな。

 武器は机の上に並べてっと。

 よし、こんな感じかな。


「アーク、キルトを連れてきた……ってすごい眺めだな」


「おやおや。私たちの武器で机が埋め尽くされていますね」


 ダレンさんもキルトさんも半ばあきれ顔だった。

 注文量を考えればこれくらいにはなるだろうに。


「しかし、目にも鮮やかだな。これがスカーレゴルドの輝きかよ」


「要所要所を守っているのはマリナードブルーですね。青い輝きが素晴らしいです」


「しかし、スカーレゴルドは重いって聞いていたが片手で持てるくらいに軽いぞ?」


「そうですね? 私の盾も前の物より軽いです」


 ふたりが不思議そうにしているけれど、もちろんこれには種がある。

 それを説明するとしようかな。


「まあ、ふたりとも落ち着いて。装備の魔法付与を説明しますから」


「おう。頼んだ」


「まず、どの装備にも重量軽減はかけています。持ったり身に着けたりするときだけ重量軽減の魔法付与が発動するので普段はとても重いです。もちろん、相手から殴られたりするときも本来の重さが有効ですから、多少の攻撃ではびくともしません」


「なるほど。それで鎧などは床に置いてあったのですね」


「鎧類まで机の上に置くと、机が壊れますから」


「なるほどなぁ。叩くときとかも元の重さか?」


「もちろん。攻撃するときも元の重さで攻撃するので高い破壊力が望めますよ」


 僕の説明にダレンさんは口笛をヒュウと吹き、自分の武器を手で確かめていた。

 キルトさんも自分のタワーシールドをまじまじと見ている。

 ふたりとも目が真剣だ。


「……うん、武器はこの後で性能テストをさせてもらおうか」


「そういたしましょう。防具の方はどうなっていますか?」


「防具も基本的に重量軽減が付与されています。その上でスタミナ回復速度向上と防御力上昇、自己修復まで付けました。これだけあればよほどのことがない限り壊れないでしょう」


「そいつは頼もしい。そのすね当てと下半身用の鎧下もキルト用か?」


「はい。ブレストプレートだけだと下半身の守りが不安でしたからね。下半身の防御用に布鎧とすね当てを用意しました」


「布鎧……ですか?」


 あ、こっちではない文化か。

 そこも説明しないと。


「布鎧というのは特殊な繊維で作った布を硬く縫い上げ、鎧として作ったもののことです。今回用意したキルトさんの布鎧はセティルトで作ってあります」


「セティルトのズボンですか。これだけで百万ヒーナウくらいはしそうです」


「ふむ。確かにナイフじゃほころびひとつつかねぇな。こいつはいい買い物だぞ」


 ナイフでキルトさんの鎧下に傷を付けようとしていたダレンさんも納得したようだ。

 でも、ダレンさん用の物もあるんだよな。


「勘違いしているようですが、ダレンさん。ダレンさんの鎧の鎧下にもセティルトの鎧下一式を用意してありますからね?」


「なん……だと?」


「よかったじゃありませんか、ダレン。あなたも鎧の隙間から傷つく恐れがなくなって」


「ちっ。他に鎧の付与効果はないのかよ」


 気まずくなったダレンさんがこっちに話を振ってきたけど、これ以上あったかな。

 ああ、そうだ。

 あれを説明しなくっちゃ。


「鎧も鎧下も自動サイズ調整の魔法付与を施してあります。なので、多少サイズが違っても体にぴったりと収まりますので安心してください」


「いや、自動サイズ調整付与って……かなりの上位付与だからな?」


「ええ。さすがに値段が怖くなってきましたよ」


 ダレンさんもキルトさんも腰が引けてきている。

 大丈夫かな?


「鎧の説明はこれくらいでしょうか。武器の詳しい説明を聞きますか?」


「いや、それは実際に使いながら聞く。キルト、鎧を着けるのを手伝ってくれ」


「わかりました。それではアーク君、ルナさん、少しお待ちください」


 ふたりが装備一式を持って部屋を出ていき、ルナと待っていると多少の時間でふたりとも戻ってきた。

 うん、予想通り早い。


「アークよぉ。この鎧、身に着けるのも楽じゃねぇか?」


「私の鎧なんて慣れればひとりでも身に着けられそうですよ?」


「そういう風に設計しましたから」


 いや、苦労したんだ、設計には。

 元の鎧をみると、絶対にひとりじゃ身に着けられないような作りになっていたから、これをなんとかひとりでもできるように工夫させてもらった。

 もちろん、派手に動いても外れないように、僕もルナもテストしたし問題ないだろう。

 うん、頑張った。


「なんか納得できないが、武器の性能チェックが先だ。裏の訓練場に行くぞ」


 納得できないとは心外だ。

 これでも苦労したのに。

 とにかく、次は武器の性能チェック、ここも問題ないはずだけどどうなるだろう?

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