19. 装備作製

 インゴット作りが終わってから1日だけ休暇とした。

 さすがにいろいろ疲れたよ。

 丸一日ルナと一緒に遊んで過ごし、英気を養った僕は次の作業、武器作りの工程へと移っていくことにする。


『アーク! 今度はなにを作るの?』


『今度は作ったインゴットから武器の作製かな。武器作りは錬金術かどうか怪しいんだけど』


『うん? 窯で煮るんじゃないの?』


『作業見ていくか?』


『見てみたい!』


『じゃあアトリエに行こうか』


 ルナを連れてアトリエに向かうと今回は錬金釜ではなくもっと奥にある埃除けの布がかぶせられた像の前まで来る。

 今日の主役はこの像だ。


『アーク、この像って?』


『こことははるか彼方にある国の鍛冶神の神像だよ。確か、天目一箇神あまのまひとつのかみだったかな』


『へー。それで、この神様の像でなにをするの?』


『んー、ちょっと待っててくれ。細かい埃を払ったり磨いたりするから』


『わかった!』


 僕は埃除けの布だけでは防ぎきれなかった埃をはたき落とし、特殊な液体を含んだ布で像を磨き上げピカピカの状態にする。

 すると、神像が光り始め、使用準備が整った。

 さて、ここからが本番だ。


『アーク。神様の像、ピカピカ光ってるね』


『ここから先が本番さ。さて、素材とお供え物を持ってこよう』


『お供え物?』


『神様に仕事をしてもらうのに支払う対価だよ』


 僕はコンテナからツリーメタルと宝石商からもらった小粒の宝石が入った袋、それに動物の毛皮とお供え物のワインを取り出した。

 お供え物としてワインはあまり上物じゃないけれど、宝石商との間柄を考えたら本気で作る必要もないし、これくらいで十分だろう。


『そのワインがお供え物?』


『そうだな。お酒を捧げるのが習わしだよ。ワインはあまり格が高くないお供え物なんだけど、作るものを考えたら相応の対価だね』


『ふーん。なにを作るの?』


『トランスタットの街にある行きつけの宝石商の剣』


『剣! 剣まで作れるんだ!』


『天目一箇神からすれば簡単な仕事だよ。さて、さっさと終わらせよう。本命が待っている』


『本命?』


『ルナの新しい装備を作らなくちゃな』


『本当!? アーク、大好き!』


『現金な奴。ともかく、こっちを先に終わらせよう』


 僕は神像の前に素材を並べ、今回のお供え物であるワインをグラスに入れて神像の斜め前に置いた。

 さて、ここからが儀式の始まりだ。


『ルナ、僕の真似をして礼や拍手をしてくれるか?』


『いいよ。どうやるの?』


『2回礼をして2回拍手をする、そのあともう1回礼をしたらそのまま頭を下げ続けてくれ』


『わかった』


『じゃあ、始めるぞ』


 僕はルナと並んで二礼二拍手一礼の作法をとった。

 すると、神像がさらに光り輝き、部屋中を照らすほどの光となる。

 数秒でその光も収まり、元の明るさに戻った。


『ルナ、顔を上げてもいいぞ』


『わかった。うわっ、剣ができてる!』


『そういう神像だからな。さて、剣の出来映えは……』


 僕は完成した剣を手に取り出来映えを確認する。

 柄や鍔の部分に宝石を散りばめた鮮やかなデザインは僕の想像通りだ。

 鞘も革製、並べていた毛皮を消費して作られたことがわかる。

 さて、肝心の刀身の出来映えだが……こっちも大丈夫だな。

 ツリーメタルを使ったことがわかる薄い木目が浮き出た刀身に、鋭い刃が焼き付けられている。

 これなら実戦にも十分耐えられるだろう。

 かかっている付与効果は、【消費スタミナ軽減】に【耐久力上昇】、【生命力向上】か。

 戦闘が本職じゃない人には十分な効果だな。

 うん、これで完成だ。


『アーク、それで完成していたの?』


『ああ、ばっちりできあがっていた。派手で人目を引くところは宝石商の望み通りだから仕方がないだろう。なにかあっても自分で身を守ってもらうさ』


『ふーん。次はあたしの装備なんだよね。どういうのを作ってくれるの?』


『ルナは盾にもなる手甲がいいんだろう? 基本的には前の手甲と同じ機能を持ったものを作るよ』


『本当!?』


『ああ。ただ、それだけだとせっかく神像で作るのにもったいないからいろいろとギミックを仕込むけど構わないよな?』


『うんうん! すてきな武器、作って!』


『了解。まずは素材を準備するところからだな』


 さて、素材だけどまずは朱金石からできたスカーレゴルドをメインにする。

 サブ素材として氷冷石からできたグラシュリアと電離石からできたトネルスタルも追加だ。

 あと、布素材として伸縮性と耐衝撃性に優れたアヴァラシアを用意して。

 それから、獣力軽減のためのアイテムも追加だな。

 使える素材はこれで限界かな。

 あと、お供え物は最上級の米酒を準備してと。


『ふわぁ。さっきの剣よりも素材が豪華!』


『ルナ用の装備だからな。しっかり固めさせるさ』


『やったぁ!』


『さて、それじゃあ始めるか』


『うん!』


 僕たちは再度礼をして作業の開始を待った。

 だが、今回はいくら頭を下げ続けても光らない。

 なにかあったのだろうか。


『ねえ、アーク。神様の像、光らないよ?』


『そうだな。ちょっと様子を見てみよう』


 僕たちは頭を上げ神像の様子を見てみると、神像が追加の素材を求める時のポーズをとっていた。

 追加の素材……ああ、あれか!

 僕は急いでコンテナから宝石の原石を取り出して素材のところに並べる。

 すると、神像も元の形に戻ったので、再びルナと一緒に礼をとった。

 今回は神像もちゃんと光り輝き作業が進められているのがわかる。

 ただ、その光は色鮮やかに輝いており、先ほどの剣とは比較にならないくらい丹精込められて作っていることがわかる。

 数分間は頭を下げ続け、ようやく光が収まり顔を上げるとそこには朱金色を帯びた金属の手甲ができていた。

 うん、僕の想像通りの手甲だ!

 さすがは天目一箇神、鍛冶神の名に恥じない出来だね!

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