18. インゴット作製

 ビーストテイルと戦った日、やっぱりルナは怖かったみたいだ。

 日中は普通に振る舞っていたけど、夜寝るとき、腕じゃなく体全身で抱きついてきていたからね。

 ビーストテイルと真正面から戦わなくちゃいけなくなったことを含めて反省かな。

 翌日にはいつもの元気な姿を取り戻してくれたけど、次はあんなことにならないようしっかりと装備を固めさせなくちゃ。


『アーク、今日はなにをするの?』


『うーん。昨日採取してきた石からインゴットを作る作業かな。あの量だから、大体3日か4日かかるはず』


『そんなに!』


『ルナも頑張って集めてくれたからな』


『えへへ……』


『朝食を食べたら早速始めるけどルナも来るか?』


『うん! 見てみたい』


『よし。じゃあ、朝食後一緒にアトリエに行こう』


『わーい!』


 今日の予定も決まり、オパールが作ってくれた朝食を食べたあとは僕のアトリへに向かった。

 なお、僕のアトリエはオパールの手によって整理整頓されている。


『ワフ! どうやってインゴットを作るの!?』


『普通の錬金術と一緒だよ。ただ、作るのに時間がかかるだけで』


『そうなんだー。なにから作るの?』


『あまり量のない鋼樹石から作ろうかな。これだけでも半日以上は使うんだけど』


『そんなに!』


『そんなにだよ。さて、材料は……』


 僕は素材をしまってあるコンテナから必要な素材を抜き出してくる。

 鋼樹石は素直な素材だから普通に金属を鍛えるときと同じような素材で助かるよ。


『それが今回の材料?』


『ああ。鋼樹石を中心に燃料とか足りない部分を補う金属類だな』


『ふーん。それを錬金釜でぐつぐつ煮るんだね?』


『まあ、煮てるわけじゃないんだけど、似たようなものか』


『あれ? 違うの?』


『その辺の説明は作業を始めてから行おう』


 僕は錬成図を開き適切な配置を行ってから素材を窯へと投げ込んだ。

 すると反応が始まり、窯をかき混ぜなくてはいけなくなったのでかき混ぜる。

 金属作りって窯をかき混ぜる時間が長いからしんどいんだよね。


『さて、錬金釜でなにをしているかだったな』


 ある程度初期反応が落ち着いたところで、黙ってこちらを見ていたルナに話しかけた。

 ルナは少しビックリしながらもこちらの話を聞く体制になってくれたようだ。


『素材を錬金釜に入れたあと、これらの素材は錬成反応によって新しい素材へと変換され始める。俺はその反応を促進するために自然に存在する魔力を流し込んでいるんだ』


『自然に存在する魔力?』


『ああ。魔力は人やモンスターの体内だけじゃない。空気中や地面の中、水の中にだって存在しているんだ。そういった魔力を俺の体を通じて素材へと流し込み、錬成反応、つまり新しい素材になる力を強くしているんだよ』


『それをしないとどうなっちゃうの?』


『失敗して灰しか残らない。無理に自分の腕前よりも難しいものを作ろうとしても失敗するな。何事も日々鍛えるしかないってことだ』


『毎日の訓練は錬金術でも大切なんだね!』


『そういうこと。あとは錬成反応が収まるまで窯の中をかき混ぜてやれば終わりだ』


『どれくらいかかるの?』


『今回の量だとお昼まではかかるな。それで採ってきた鋼樹石のインゴットはほとんど完成。今回はそれ以上作るつもりはないから、鋼樹石はここまでだな』


『お昼まで! 大変なんだね。ときどき変わる?』


『気持ちはありがたいけど断るよ。途中でかき混ぜる人が変わると流れ込む魔力も変わって、完成品の質が落ちたり失敗したりするんだ。だから、今回はこのまま俺の仕事かな』


『大変そう。あたしにできることがあったら言ってね!』


『ありがとう』



 ルナの励ましを受けながら錬金釜をかき混ぜること数時間。

 ようやく錬成反応が収まりインゴットが完成した。

 その量がかなり多いんだけど。

 ルナはいきなりできた金属の塊に驚いている様子だ。


『おお。金属の塊ができた』


『それがインゴットって奴だよ』


『インゴット……これはなんていう金属なの?』


『鋼樹石はツリーメタルだな。金属に木目調の波があるだろう? そこから名付けられたらしいよ』


『ツリーメタル……本当に木を切ったときの模様みたいなのがある! こうなるんだ!』


『まあね。さて、これをコンテナの中にしまうか……』


『結構たくさんあるよ?』


『でもしまっておかないことには次が作れないしなぁ』


『あたしも手伝うから頑張ろう?』


『頑張るよ。昔からインゴットを大量生産したときは泣く泣くやっていたことだし』


 ルナの手も借りながらインゴットを次々とコンテナの中にしまい込んでいく。

 1本はそんなに重くないんだけど、こう何十本も運ぶとなるとしんどいし嫌気がさすんだよ。

 とにかく、すべてをしまい込み一息ついたあと昼食を食べに行った。

 オパールは僕たちの様子からなにをしていたのか察したようだけど。


『アーク。また一気にインゴットを作りましたね?』


『仕方がないだろう。小分けにしたってしばらくインゴット作りなのは変わらないんだからさ』


『そういう問題じゃありません。インゴット作りは長時間窯をかき混ぜなくちゃいけないし、完成品をコンテナにしまうのも一苦労です。大量に作るのは仕方がありませんが、小分けにして適度な休憩を挟みなさい』


『午後からはそうさせてもらうよ。氷冷石と電離石は量が多いから今日の午後と明日一日をかけての作業になる』


『それに朱金石も加わるんですよね? ルナちゃんが命をかけることになった』


『朱金石は丸二日だな。量も多いし、この先の作業で大量に消費する予定だからしっかり作っておかないと』


『仕方がないですね。でも、ときどき様子を見に行きますよ』


『はいはい。ルナはどうする?』


『あたしも見に行きたい!』


『ルナちゃんはダメです。人間語のお勉強がありますから』


『でも、力仕事をアークだけでやるのは大変だよ?』


『インゴットができて力作業が必要なときは呼んであげますから。それまではお勉強をしましょう?』


『はーい』


 ルナも不服そうだけど了承した。

 そして、これから4日間は予定通りインゴット作製だけで潰れてしまった。

 ……本当に疲れたよ。

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