17. 朱金石とビーストテイル

『アーク、これで終わり?』


『いや。朱金石がまだ採れていない。もっと奥の方に進んで行くぞ』


『わかった。でも、少し嫌な気配がする』


『モンスターが近くに潜んでいるのかも知れない。気を付けよう』


 少し進むとルナの警告通り赤グミが襲いかかってきた。

 僕はそれを杖で叩き潰し、ルナも手甲で殴り潰した。

 同時に5匹現れたため、さすがに反撃を受けずに倒しきることができず、少し怪我をしてしまったがまだ大丈夫だ。

 ルナも治癒の軟膏ヒールオイントメントを使おうとしていないし、気にしていないということなのだろう。

 そのあとも数回モンスターの襲撃を受けながら進み、ときどき怪我を治療しながら奥へと向かうと、目的地である朱金石の採れるフロアへとやってきた。

 そのフロアは壁一面が朱金石で覆われている鮮やかなフロアである。


『ふわぁ。アーク、金ぴかな部屋!』


『部屋ではないんだけどな。ここに落ちている石を拾って歩くぞ。それが終わったら採取終了だ』


『わかった! また別々に集める?』


『いや、一緒に集めよう。さっきからモンスターに襲われることが多い。用心しないとな』


『うん!』


 ここでの採取は俺が石を拾い集めている間、ルナが周囲を警戒してくれるようにして行うことにした。

 実際、石を集めている最中にモンスターが襲いかかってきたりもしたので、判断は間違っていなかったと思う。

 襲撃を受けながらも朱金石は必要な数量を集め終わった。

 あとは、安全に撤収するだけ……ん?


『アーク……なんだか怖い気配がする』


『嫌な奴と出くわしたなぁ』


 視線を感じる方向を見ると、そこには人間サイズの大きさを持つ狼か猫のモンスター、ビーストテイルがいた。

 隙を見て逃げだそうかとも思ったけど、あちらはそれを敏感に察知したのか、入口方面に続く道を塞いでしまう。

 これじゃあ、倒すしか道はないな。


『グルル……。アーク、どうする?』


『ルナは無理のない範囲で戦ってくれ。ただ、あいつの尻尾の針には気を付けろ。多分、その手甲じゃ貫かれる』


『ワフ!? 鉄の手甲なのに!?』


『あいつにとっては鉄くらい簡単に引きちぎれるということだ。俺も隙を見て爆弾で攻撃する。あいつの動きが鈍ったところが勝負だ』


『うん!』


 ここでルナが一歩前に出ると、それに反応してビーストテイルも前に出てきた。

 お互い、にらみ合って牽制しているけれど、先に動いたのはルナの方。

 下手に攻め込まれて自分を通り抜けられたら、俺のところまで攻め込まれると考えたんだろうな。

 果敢に攻め込んで拳で突きをくり出すけれどビーストテイルは易々と避けてしまう。

 避けざまに尻尾でルナの頭を殴ろうとしたけど、ルナもそれは予想していたのか前方に転がることで回避していた。

 これで、立ち位置が入れ替わっただけのにらみ合いとなる。

 もちろん、立ち位置が入れ替わったということは、僕がビーストテイルから直接狙われる位置になったというわけだけど、ビーストテイルもいまのところ僕のことは無視してくれている。

 ビーストテイル相手ならフランジュよりも効果の高い爆弾を用意してあるけれど、まだそれを使うタイミングじゃないな。

 下手に使おうとすればビーストテイルから襲撃されてしまう。

 ルナには悪いけれど、もうしばらく注意を引きつけてもらおう。


『グルルルル……ガァ!』


 2回目の攻撃も先手はルナから。

 今度は単純に突きをくり出すわけじゃなくて、短いパンチを何度も繰り出して隙を作ろうとしていた。

 だが、ビーストテイルも小刻みなステップでそれらの攻撃を回避し、反撃の機会をうかがっている。

 ルナのビーストテイルに対するパンチ攻撃は1分近く続いたが1発も当たらなかった。

 逆に、スタミナを使わされたことによって動きが少し緩慢になっている。

 その隙を見逃すようなビーストテイルではなく、ルナの動きが止まった瞬間に体当たりをくり出しルナを突き飛ばしてしまった。


『ひゃう!?』


 突き飛ばされたルナはとっさに立ち上がろうとしたが、その前にビーストテイルが飛びかかって行く。

 それを何とか手甲の盾で防いでいるルナだがどんどん体が後ろに倒れて行ってしまい、最終的には完全に押し倒された。

 そしてそこへとどめをさそうとしてビーストテイルが尻尾を大振りな一撃で叩きつける!


『ぴぅ!?』


 ルナの手甲はいとも容易く貫かれ、頭部を狙った針はルナが頭をそらしたおかげで地面に深々と突き刺さっただけで済んだ。

 ビーストテイルもとどめをさし損ねたことに気がつき、尾を持ち上げようとしたが、ルナの手甲と地面に突き刺さったトゲが邪魔になり持ち上げることができずにいた。

 ようやく爆弾を投げるチャンスが回って来た!


「食らえ! グラーセア!」


 僕は動きが止まっていたビーストテイルの下半身部分に向けて氷の爆弾グラーセアを投げつけた。

 グラーセアは爆発すると数秒間だけ周囲を凍結させる爆弾、炎には強いビーストテイルにも十全な効果を発揮してくれる。


「Gugyau!?」


 下半身を氷の中に閉じ込められたビーストテイルはこちらのことを恨めしそうに見てくるが気にしない。

 ルナを助けるためにもとどめをささなくちゃいけないからな。

 実際、体を急激に冷やされたことで動きが緩慢になっているし、尻尾なんて持ち上がりもしなくなっているから。


「とどめだ! トネルニードル!」


 投げつけたのは雷の爆弾トネルニードル。

 トゲで包まれた爆弾で、刺さった相手に強烈な電撃を食らわせる。

 こいつは確実に当てないと効果を発揮しないから扱いが難しいんだ。

 さっきのグラーセアもそうだけど、ビーストテイルは爆弾も回避してくるからな。


「GyaOn!!」


 見事にトネルニードルが刺さったビーストテイルは、雷の魔力で感電しそのまま息絶えた。

 さて、早くルナを助け起こさないと。


『ルナ、大丈夫か? ルナ!』


『アーク……怖かったよ! アーク、アーク!!』


『ごめんな、怖い思いをさせてしまって。でも、次に来るときは装備もしっかり調えておくから大丈夫だぞ』


『え? それって?』


『今日、ここまで素材を取りに来たのはルナの装備を作るためだ。頑張ったルナには強い装備を作ってやるからな』


『やったぁ! アーク、愛してる!!』


 やれやれ、さっきまで泣いていたのに現金なものだ。

 ともかく、これ以上ビーストテイルに襲われる前に素材を回収して帰ろう。

 やっぱり、朱金石のあるあたりは危険地帯だ。

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