第3章 少年錬金術士の錬金術

16. 洞窟での採取

『おや? 今日は朝早いですね、ふたりとも』


 早朝から起き出してきて支度を始めている僕とルナを見てオパールが声をかけてきた。

 僕はもう少し眠っていたかったんだけどね。


『今日は採取に行く約束の日だからな。早く起きて準備しようって言って聞かないんだよ、ルナが』


『ルナちゃん、今日採取に行くのは洞窟地帯でしょう? あそこは朝早く行っても特に特別採取できる物はありませんよ?』


『でも早く行きたい!』


『あらあら』


 オパールもルナの勢いには勝てないらしい。

 昨日からずっとそわそわしていて夜だって寝付くのが遅かったからな。

 本当に可愛らしいところもある。


『アーク、今日は何を採りに行くの?』


 ルナが今日の目標について聞いてきた。

 そう言えば、それについても話をしていなかったっけ。


『今日は鉱石類をいろいろと探してくる。洞窟地帯なら氷冷石や電離石、鋼樹石なんかも採れるからな。一番の狙い目は朱金石だけど』


『朱金石? それってきれいなの?』


『インゴットにするとその名前の通り朱金色の輝きを見せるようになるんだ。ただ、洞窟地帯の少し奥に行かないと採れないんだけどね』


『じゃあ、早く行く!』


『はいはい。ルナちゃん、朝食を食べてから行きましょうね』


『はあい』


 オパールはいまにも飛び出して行きそうなルナを制して朝食を食べさせた。

 僕も朝食を食べたし、装備も調えたので今度こそ採取出発だ。

 今日の採取予定地は洞窟地帯。

 ここは鉱石が採れる岩場にある洞窟の内部のことだ。

 岩場の方でも鉱石が採れるけれど、今回の目標とは違うんだよね。

 まずは岩場を目指し森の中に作られた道を歩いていると、ルナから質問された。


『ねえ、アーク。どうしてアークの隠れ家の周囲ってこんなに環境が整っているの?』


『どうしてって……どういう意味だ?』


『だって、家の前にある畑って麦畑だよね? 治癒の緑草や補給の青草の群生地もあるし、鉱石がたくさん取れる場所も近くにある。他にも木材が取れる場所だってあるんでしょ? いろいろと便利すぎる気がするの』


 ああ、それか。

 確かに部外者からすれば便利すぎる気がするよなぁ。


『その理由は全部妖精たちが管理して人工的に作ったものだからだよ』


『え!? 全部!?』


『ああ。もちろん治癒の緑草や補給の青草は最初いくつか植えたらしいけど、それを増やしたのは妖精たちだし、家の前にある麦畑も妖精たちが育てて勝手に収穫している。ついでに言えば、麦畑や野菜畑は妖精たちが好き勝手に栽培と収穫をして作物を僕に押しつけている感じかな』


『それっていいの?』


『妖精たちが自分たちの自由意志でやってるから問題ないよ。妖精たちは妖精たちの住みよい場所を作っているだけだから。そこに行って問題を起こさない範囲で採取させてもらうのは自由さ』


『ふうん。妖精さんって勝手に縄張りへ入ったら怒ってみんな叩き出すって聞いていたんだけどなぁ』


『そういう契約でこの土地を与えたらしいから。契約が破棄されない限りお互い尊重し合って暮らしていけるよ』


 本当にこの隠れ家はよくできているよ。

 本当に貴重な素材は隠れ家内にないので遠出しないと採取できないけれど、大抵の素材は日帰りできる範囲内に固まっているんだもの。

 今日行く洞窟地帯の鉱石類だって、普通は数日かけて洞窟内を進んで見つけるようなものだからね。

 いろいろ説明しながら歩くと岩場までたどり着いた。

 ルナはそこにあった鉱石にも興味津々だったのでいくつか採取して持ち帰ることにする。

 火花石とかは砕くと火花が飛び散るから見ていても面白いかも知れないな。


『さて、ここが洞窟地帯の進入口だ。中にはモンスターがいるから油断するなよ』


『うん! あたしは油断しない! アークも油断しないでね!』


『わかってるよ。それじゃあ、入って行こう』


 洞窟地帯はモンスターがかなり棲み着いている危険地帯でもある。

 主なモンスターはグミの強化板である赤グミやケイブバット、ロックゴーレムなどだが、ときどきビーストテイルが混じっているのが恐ろしい。

 ビーストテイルは存在的には狼か巨大な猫のモンスターだが、尻尾に毒針を持っていてそれを振り回しながら攻撃してくる厄介な相手だ。

 毛皮も厚く、ニードルボムじゃあまりダメージを与えられない。

 かと言ってフランジュは洞窟内で扱うのが危険なため、また別の爆弾を作って対処してきた。

 僕たちがしばらく洞窟内を進んでいくと、洞窟地帯特有の幻想的な光景が広がってきた。


『うわぁ。アーク、この岩ってなに? 普通の柱じゃないのに天井から垂れ下がってる!』


『これか。これは鍾乳石って言って水滴の中に含まれている岩の成分がどんどん凝固してああいう形になっていくらしいよ』


『そうなんだ。あれも持ち帰るの?』


『いいや。あれはいらない。折ると洞窟の妖精が怒り出すからな』


『そうなんだ。気を付けよう』


『そうしてくれ。そろそろ採取を始めるぞ』


『うん!』


 僕はまず最初にサンプルとなる氷冷石や電離石、鋼樹石を見せてルナに似たようなものを集めるように指示を出した。

 氷冷石は氷のように青くなおかつ透き通った鉱石、電離石は黄色でいろいろな方向に罅が入っている鉱石、鋼樹石は白っぽい石が木のように固まっている鉱石だ。

 それぞれの特徴を覚えてもらい、手分けして鉱石を採取する。

 すると3時間ほどの採取で十分な量の鉱石が集まった。

 これならしばらくは採取に来なくても平気だな。

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