15. 呪われた宝石
ドナルたちが退散したあと、僕はさっさと街を出て隠れ家へと続く道へと進もうとした。
だが、その途中、周囲に妙な気配を感じてそちらを向けば、狼型のモンスターが数匹こちらの気配を伺っている。
……おかしい。
姿隠しのマントの効果でやつらからは姿が見えなくなっているはずなのに、なぜ気付かれている?
なにかの匂いか?
原因を探ろうとしたが、その前に狼どもが襲いかかってきた。
仕方がないので杖を取り出し応戦することに。
あまり杖術は得意じゃないけれど、杖に魔力を込めて殴るだけなら僕にもできる!
「ていっ!」
「グギャゥ!?」
僕に襲いかかろうとしていた一匹目の狼の顎が杖に殴られて消し飛んだ。
そのまま頭も殴りつけて打ち砕き、一匹目は終了だ。
その様子を見ていた他の狼たちは完全に浮き足立ってしまっている。
これなら俺から殴りに行った方が早そうだ。
実際、俺の足には韋駄天のアンクレットがあるし、走る速度も狼型のモンスターより速い。
相手が混乱している隙に、一匹、また一匹と倒していき、全滅させることに成功した。
周囲が頭を砕かれた狼の死骸でいっぱいになってしまったけど。
「ふう、何とか片付いた。襲われても問題ない程度のモンスターではあったけど、やっぱり戦闘は苦手だ」
これからこいつらの素材を剥ぎ取る気力もない。
特殊な薬剤を使ってモンスターの魔石と素材になる部位だけを残し、灰になってもらおう。
僕はモンスターの死骸に薬剤を振りまき、素材と魔石を回収して歩く。
もっとも使えるのは毛皮と魔石しか残らないんだけど、それでも毛皮はそこそこ使う素材だ。
補充できてよかったと考えよう。
「それにしても、どうして襲われたんだ? 姿隠しのマントは正常に作動しているはずなのに」
原因がわからないままというのも怖い。
薬剤で浄化されていることをいいことに、その場でいろいろと調べることにした。
姿隠しのマントは当然問題ない。
天使のブーツと韋駄天のアンクレットも異常なし。
あとはマジックバッグや服なんだけど、こっちもおかしなところはなさそうなんだよな。
一体なにが原因なんだ?
「うーん、姿が見えないのに襲われる原因……。ひょっとして呪いのアイテムでも持たされたか?」
呪いのアイテムの中にはモンスターを引きつける効果のある物もある。
そういったアイテムを持っているのであれば、姿隠しのマントなんて関係なく襲われるはずだ。
しかしそうなると問題がひとつ。
僕が普段持ち歩く物は基本的に決まっていて、それ以外の物はすべてマジックバッグの中に入れて持ち歩いている。
今日もマジックバッグの外で持ち歩いている物いつも通りの物ばかり。
つまり、問題の物は新しくマジックバッグにしまったものの中にあるわけで……。
そうなると一番怪しいのは宝石類なんだけど、鑑定したときは普通の宝石で呪いなんてなかったし……ん?
そう言えば鑑定していない宝石もあったよな。
僕はその宝石が詰められた袋を取り出して、中に破邪の聖水を流し込んでみる。
すると、黒く変色し消えていく宝石がいくつも存在した。
やっぱり原因は宝石商からもらった小粒の宝石の詰め合わせ袋か。
マジックバッグの中にあっても効果を発揮するとか、なかなか強い呪いだな。
「さて、これはどうする? 聖水に漬けた以上もう問題はないとは言え、これを放置して帰ってもいいんだろうか? 次に来たとき、剣を渡す時に確認してもいいんだけど……」
さて、困ったな。
既に街から少し離れてしまった。
いまから街に戻ると夕方の時間帯になってしまう。
そうなると下手をすれば街から出られなくなる可能性もあるし、どこかで野宿してからもう一度街に行くのも面倒くさいし、どうしたものか。
「……次に街へ行ったときでいいか」
結局、僕は問題の先送りという消極案を採った。
正直、面倒だし、あの宝石商の仕業だとしたらストレートすぎる。
多分、また別の誰かの意思が働いているんだろう。
そんな面倒なことに関わるのはこの先でもいいか。
「とりあえず帰り道はいつもの最短コースじゃなくて別の道を使うことにしよう。隠れ家の場所を探るためのトラップだったら困る」
はぁ、厄介だなぁ。
でも、隠れ家の場所を知られるわけにはいかないから、しっかり守らせてもらうけどね。
********************
****(???)
「宝石に付けていた呪いは消されたか」
さすがにあんな単純な手段で奴を追跡できるだなんて思っちゃいない。
あいつは見た目に反し相当用心深く、疑り深いからな。
まったく、面倒なことこの上ないぜ。
「でもまぁ、これが今回の仕事だしなぁ」
金目の錬金術士の住処を探れ、か。
そんなもの見つけてどうしようって言うんだろうね、あのジジイは。
クライアントの意向なんて知ったことじゃないけどさ。
「さて、今回はダメだったわけだけど、かかった費用は徴収しないとね。支払わないなら支払わないで相応の対価を支払ってもらうことになるのは理解してもらえていると思うけれど……あのジジイだからなぁ」
********************
****アーク
「ただいま」
結局、隠れ家まで4日遅れで帰ることになってしまった。
道を大回りして途中で何回も分岐しながら相手を迷わせるように動いてきたから仕方がないのかも知れないけれど、疲れたよ。
「おかえり、アーク」
「ああ、ただいま、ルナ。……って、人間語であいさつできるようになったのか?」
「少し、だけ。まだまだ、難しい」
「それでもすごい進歩だぞ! 頑張ったな、ルナ」
『えへへ! 褒めて褒めて!』
『はいはい。結局は甘えたいんだな』
『だって予定よりも遅く帰ってきた。なにかあったのか心配だったんだもん』
『あーそれは悪かった』
うーん、ここも改善すべき点かな。
これまでは家の妖精たちしか一緒に住んでなかったので帰りが遅くなろうと誰も気にしていなかったけど、いまはルナもいるんだよな。
帰りが遅くなるようだったら伝えられるようなアイテムをなにか作ろうか。
『あら、お帰りなさい、アーク。今回のトランスタットはどうでしたか?』
『それはあとで話すよ、オパール。それよりも汗とかを流したい。お風呂って用意できるか?』
『できますよ。10分ほど待ってくださいね、水を張って沸かしますから』
『頼んだ』
やってきたオパールにお風呂のことを頼み、僕はこのあとのことを考える。
まずは宝石商の剣を作らないといけないけれど、そのあとはルナの装備を更新しないといけないな。
ただの巨大な鉄塊よりも錬金術で生み出した装備の方が強いはずだから。
あとは、ルナに贈るアクセサリー作りか。
こっちも急がなくちゃいけない。
それに次に街へ行くときの商品も作らなくちゃいけなくて……なにかとやることが多そうだ。
『ねえねえ、アーク。お風呂、入るの?』
『ああ。さすがに何日も野営をしてきているから体の汚れを落とさないとな。それがどうかしたの?』
『じゃあ、あたしも一緒に入る! 夫婦だし問題ない! アークはあたしの裸を見ているのにアークは裸を見せていないのはずるい!』
『どういう理屈だよ。止めても無駄だろうし一緒に入るけど、それだけだからな』
『体の洗いっこはする!』
『その程度なら。それ以上はしないぞ』
『うん!』
隠れ家に戻ってきたことで、ルナと一緒の賑やかな生活も戻ってきた。
僕もこの生活がなんだかんだと気に入ってしまっているのかな?
ルナのアピールが激しいのはなんとかしてもらいたいんだけど。
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