14. 獣人排斥派筆頭ドナル
今日の買い付けは終了し、あとは帰るだけだ。
帰ったらまずは宝石商の剣を作るとしよう。
「今回も大量のお買い上げありがとうございます。街のジュエリーショップも当然買っていってくれますが、アーク君の買い付けがやはりセンスも質もいい物を選んでいきますね」
「それはどうも。錬金術で素材を選ぶときにいろいろ見ているから目利きだけは上手なんだよ」
「それを使った道具作りもお上手でしょう? アクセサリーだってジュエリーショップに負けないものを作るとか」
「作れるけれど売らないよ。街の需要をそこまで奪うつもりはないからね」
「そうですね。あまり街の外の住人が街の需要を奪っては角が立ちますか」
「そういうこと。それじゃ、買い物も済んだし今日は帰らせてもらうよ」
「ご利用ありがとうございました。剣、楽しみにしています」
宝石商に見送られながら店を出て街門の方を目指し歩き始めた。
この時間になると中央街区のストリートは賑わいを見せ始める。
狭苦しさは感じないけれど、それでも人が多くて歩きにくくなってきたな。
かと言って路地裏を通って帰るのも嫌だし、我慢して帰ろう。
「……ん?」
ストリートを歩いている途中、周囲に不自然な人の流れができているのに気がついた。
どうやら街の中に長居しすぎたようだ。
完全に囲まれてしまったな。
俺を囲んでいた連中はどんどん間合いを詰めてきて、遂に俺の周囲を取り囲んだ。
ストリートにいたほかの人たちも驚いてこちらを見ている。
こんなことをするのはあいつしかいないだろう。
「ぶひゃひゃひゃひゃ! 見つけたぞ、余所者錬金術士!!」
「騒がしい登場だな、ドナル。一体なんの用だ? 僕はお前なんかに用はないから帰りたいんだけど」
「用事? 決まっているだろう。お前がこの街から奪っていった金を全部儂によこせ! 残っているポーションもすべて儂の物だ!」
……頭が痛い。
いや、ドナルの頭が悪いのか。
どこをどう考えたらそんな発想になるのか。
「断る。僕が稼いだお金は正当な報酬だ。残っているポーションだって半端な売れ残り。お前の物なんかじゃない」
「なにを言うか! 儂はこの街の支配者ドナルだぞ!! 儂の言うことに従え!!」
うわ、こいつなにを言い始めているんだ?
ただのうるさい獣人排斥派住人のひとりでしかないドナルが街の支配者だなんて。
どんな悪い夢を見て頭がおかしくなったんだろう。
「ドナル、頭は大丈夫か? お前は街の一住人であって支配者なんかじゃないぞ。単なる余所からの移民で獣人排斥派のリーダー。しかも自分が権力者だの何だの言い張るほら吹き。そんなヤツが支配者になれるわけないじゃないか」
「うるさい! この街は儂の物だ! 儂が決めたのだから間違いない!!」
うん、ダメだ。
話が通じない。
俺の周りを取り囲んでいるドナルの配下ですら疲れた顔をしているあたり、身内からも嫌われているんだな。
さっさと帰らせてもらおう。
「お前が決めたところで街の住人が賛同しなければどうにもならないよ。それより、僕は帰りたいから帰らせてもらうけど」
「ええい! 帰りたければ身ぐるみすべておいて行け!!」
「どこの盗賊だよ。退かないんだったらこいつを使うけど?」
僕はマジックバッグからフランジュを取り出し掲げてみせる。
街中で使うような爆弾ではないが、当たればほぼ即死なのはこいつらでも知っているだろう。
「ひぃ!? 儂を脅すのか!?」
「脅しているのはどっちだよ。退かないなら投げつけるぞ」
「い、いいだろう。今日のところは見逃してやる。次は容赦せんぞ!」
ドナルは取り巻きを引き連れてさっさと逃げ帰っていった。
まったく、小煩い連中だ。
あんな奴と付き合わなきゃいいのに。
「アーク、災難だったな」
「ん? 衛兵さんか。見ていたなら助けてくれてもいいのに」
「ドナルのヤツは衛兵が締め上げても懲りずに同じことを繰り返すから相手にしたくないんだよ。街の商店や住人にだってあの調子で難癖つけて回っているが、そのたび衛兵に捕まり牢屋で過ごしているのにちっとも直りやしない。ドナルに手を出すと獣人排斥派の連中も騒ぎ出すから自力で対処できる人間には自力対処してもらっているんだ」
「ふーん」
「気のない返事だな」
「まあ、ねえ。あいつは予想を裏切らないなと感じただけで」
本当に懲りないヤツだ。
古くからいる住人たちが結束して叩き出そうとしても、新しく移住してきた獣人排斥派の住人が邪魔をするからうまくいかないらしい。
それにしても、どうやったら自分がこの街の支配者だなんて妄想を描けるのか。
ちょっとそこら辺は知りたくなってきたかも。
「ともかく、あいつがまたなにか仕掛けてくる前に街を出るよ。次に会ったら本当にフランジュを使わなくちゃいけなくなりそうだ」
「……街の中で威力の高い爆弾はやめてくれ」
「ニードルボムだと周囲に針が飛び散って後片付けが面倒だけど?」
「爆弾なしで解決できないのか?」
「僕、錬金術士だし。一番穏便な解決策が爆弾で脅して退散させることだから」
「わかった。なにかあったら俺たち衛兵が止めるよ……」
衛兵さんは疲れたような口ぶりで言うけれど、実際問題、一番穏便なのは爆弾で脅してお帰りいただくことだからなぁ。
それ以上穏便な方法はないよ。
僕は手加減ができないし。
とにかく、さっさと街を出よう。
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