13. 宝石商での買い付け
ドナルのヤツにそそのかされてやってきた冒険者の一団はすごすごと帰っていった。
なるほど、余所から冒険者が集まってきていたのはそのせい。
「相変わらずドナルの野郎、余計なことしかしやがらねぇ」
「まったくです。あのような質の低い冒険者を集めてなにをしようというのか」
ギルドマスターのダレンさんと酒場のマスターのキルトさんもあきれ顔だ。
でも、この分だと確実に怒鳴り込んでくるよな。
その前にお暇しよう。
「キルトさん、ポーション販売の利益を渡してもらえますか? ドナルのジジイが乗り込んでくる前に帰ります」
「おお、そうですね。それがよろしい。少しお待ちを」
キルトさんは集まっていたお金を数えてギルドの販売手数料を引き、売り上げを僕に渡してくれた。
あれだけの人数をさばくなんて僕には無理だから多少の手数料なんて気にしないよ。
「ありがとうございます、キルトさん」
「いえいえ。それで、次に来るのは1カ月後くらいですか?」
「その予定です。大掃除が終わって少ししてからにします」
「わかりました。ポーションの需要は完全に満たされておりますし大丈夫でしょう。気を付けてお帰りください」
「はい。街で買い物をしたらすぐに帰ります」
「そうしろ。どうにもドナルのヤツがうさんくさい」
ダレンさんはやっぱりドナルが気になるようだ。
この状況でヤツが次になにをしでかすかはまったく読めないからな。
ひと騒動起こしてもおかしくないのがドナルという男だ。
本当に街の迷惑でしかない。
「それでは今日はこれで。ドナルのヤツが乗り込んできたら頑張って追い払ってください」
「ああ、そうするよ。あいつらの切った空手形なんて知ったことじゃないからな」
「はは。では、これで」
僕は冒険者ギルドをあとにすると、街の中央街区へ足を運んだ。
ここなら様々な物が手に入るからな。
さて、今日必要なものは……。
「……今日必要なものってあまりないよな。この季節に採れる野菜や果物は俺の家の周辺でも採れるし、鉱石とか布素材もいまは必要がない。中央街区に来た意味がなかったかな?」
仕方がないのでウィンドウショッピングとしゃれ込むことにした。
トランスタットは辺境都市だがそこそこ大きな街なので、いろいろなものが集まる。
その中には武器や防具、服なども含まれ彩りを添えているのだ。
もちろん、お値段も高めだけど。
「……街の錬金術士の店も各種ポーションを中心に品物が全部値上がり傾向にあるな。さすがはモンスターの大掃除前か」
街中の錬金術士店は品物の数、つまりは素材の入手量と仕入れ価格で値段を決めていると聞く。
つまり、いまの状況は素材が集まっていないか仕入れ価格が高いかだろうな。
そんなウィンドウショッピングも端から端まで見終わったところで、そう言えば足りない物があることに気がついた。
錬金術でアイテムを作るために使う宝石である。
宝石の種類を問わないんだったら、宝石の力が備わったアイテムを適当に使うんだけど、宝石の種類までこだわりたいときは使いたい宝石をあらかじめ用意しないといけないんだよな。
いまはもうほとんど残ってないはずだから、この機会だし買って帰ろうか。
そう考えて、俺は宝石商の店の扉を開けた。
「いらっしゃいませ。……おや、アーク君」
「こんにちは。ちょっと宝石を見せてもらえるかな?」
「どうぞどうぞ。今日はどんな石にしますか?」
さて、どんな石か。
ルナのローズブロンドの髪にはトパーズの黄色とかが映えそうだ。
目は緑色だからイヤリングにはアメシストなんかどうだろう。
あとはアクアマリンなんかもいいな。
僕は宝石商に頼んでこれらの石を持ってきてもらった。
幸運なことにまだ原石状態の石がそれぞれ売っており、イヤリング用に考えていたアメシストも複数手に入ったし買い物としては大成功の部類だろう。
あとは……。
「ねえ、ルビーかガーネットって在庫があるかな?」
「ルビーかガーネット……ガーネットでよければ原石の在庫がございます。それにしても今日はお買い上げの量が多いですね。なにかありましたか?」
「ああ、いや。新しい装備を新調しようと思って」
「なるほど。錬金術で生み出す装備ですか。アーク君は大抵の物が作れますからね。私にも護身用の剣を作ってもらいたいものです」
護身用の剣ね……。
どうしたものか。
「作ってもいいけど素材とか形状、装飾はどうする? 宝石商が装飾もされていない剣では格好がつかないだろう?」
「それはアーク君にお任せいたします。長さは……この剣と同じくらいで」
宝石商が手渡してきたのは一般的な片手剣の部類。
刀身がやや肉厚で折れにくくなっているのが特徴かな。
ナックルガードはなし。
両手でも扱えるように柄は長めだ。
……よし、特徴は覚えたぞ。
「うん、大丈夫。次に来るときまでに作ってくるよ。お代は出来高払いで」
「よろしくお願いいたします。ああ、装飾としてこれらの宝石を埋め込んではいただけないでしょうか?」
宝石商から手渡されたのは小さな小袋。
中には小粒の宝石がたくさん入っていた。
ただ、種類も色も様々で取り扱うのに苦労しそうだ。
「できる範囲で構いません。使わなかった残りはアーク君に差し上げますので」
「わかりました。では、預かりますね」
宝石袋もマジックバッグにしまい、頼んだガーネットの原石も手に入った。
そのほかにも青色のトルマリンが手に入るなど今回は収穫が多めだ。
こんな辺境の地でここまで豊富な宝石が手に入るんだから、ここの宝石商は優秀だよ。
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