10. トランスタットの冒険者ギルド
見慣れたトランスタットの街並みに冒険者たちが多いことを確認しながらも、僕は一路トランスタットに一軒だけ存在する冒険者ギルドへと足を運んだ。
大きな都市だと支部が置かれたりするのだが、トランスタットの街は普段そんなに依頼があるわけではないために本部であるこの建物ひとつのみなんだよね。
さて、冒険者ギルドに入ろう……としたら、見慣れない連中に取り囲まれた。
こいつら、何者だ?
「おい小僧、冒険者ギルドになんの用だ?」
「依頼の納品と物品の販売だ。わかったらさっさと退いてくれ」
「ふうん、そいつは俺たちがやってやる。荷物を渡しな」
「なに?」
「Dランクパーティの俺らがやってやった方が、どこの馬の骨ともわからねぇガキがやるよりも信頼されるだろうって言ってるんだ。さあ、さっさと渡しな」
「断る。僕を知らない時点でお前らは余所から来た流れ者だってわかるんだ。この街に来たはいいが仕事がなくて食うに困っているってところだろう? お前らなんかに渡すものはない。さっさと退け」
「なんだと、小僧!?」
「退かないなら実力行使だ。痛いで済めば運がいいな?」
「はっ! お前みたいなガキに殴られたところで……」
「なにを騒いでいる!」
ここで割り込んできたのは冒険者ギルドマスターのダレンさん。
ちっ、もう少しで痛い目にあわせることができたのに。
「お前たち何の騒ぎだ!」
「あ、いえね? このガキが冒険者ギルドで商売するって言うから俺たちが仲介しようとしただけで……」
「このガキ? ……おお、アークか! 待っていたぞ」
ダレンさんも僕に気がついたようだ。
僕は軽く会釈しながらあいさつをする。
「どうも、ダレンさん。少し遅くなりましたか?」
「まだ大掃除までは余裕があるから大丈夫だ。だが、お前が来るのが遅くなった分、お前への注文が増えている。商品は大丈夫か?」
「遅くなった分、量は多めに作ってきてあります。それで、冒険者ギルドに入ってもいいですか?」
「おお、早く入れ。販売の仲介はいつも通り酒場のキルトに任せよ」
「ではそのように。こいつらはどうするんです? 無理矢理僕の商品を奪い取ろうとしてきましたけど」
「うん? お主の商品を売らなければよいではないか」
「まあ、それが一番か。そうさせていただきます」
僕は状況についていけていない、よそ者の冒険者どもを置き去りに、冒険者ギルドへと入って行く。
冒険者ギルドの中は……相変わらずの雰囲気だな。
もういい加減慣れたけど。
「ん? アーク! ようやく来てくれたか!」
「遅いぞ、アーク! みんなしびれを切らしていたところだ!」
「そうそう! あんたの家はどこにあるかまったくわからないし、待つっきゃないからね。それで、十分な量は持って来てくれたかい?」
「少なくとも今日販売する分はたっぷり用意してきましたよ。今日不在の人は依頼を出しているんでしょう? そっちも十分にこなせるはずですよ」
「今日いる連中も依頼として出しているはずだがな。ともかく、マスターのところへ!」
「はい。手早く商売は行いましょう」
その場にいた冒険者たちが道を作ってくれたことで、酒場のマスターの元まですんなりたどり着けた。
酒場のマスター、キルトさんともすっかり顔なじみだ。
「おお、ようやく来てくださいましたか。アーク君」
「遅くなりました、キルトさん。遅くなった分は商品の在庫に反映してあるんで」
「いえいえ。では早速、商売を始めましょう。値段はいつも通りですか?」
「はい。いつも通りで」
「なるほど。ただ、そうなると困りましたねぇ」
「困った、とは?」
「街の防衛隊からの依頼なんですが、ヒールポーション1セット250ヒーナウになっているんですよ。マナポーションも300ヒーナウ。普段、あなたが売るときの値段よりも50ヒーナウずつ高い。いかがしましょう?」
「僕としては200ヒーナウで売りたいんですが、あちらも大量発注して迷惑をかける分の割増料金と考えているのでしょう。仕方がありませんから、その金額で受けます」
「かしこまりました。それぞれ10セット単位で合計100セットまで納品してほしいとありますが……こちらでの販売本数と照らし合わせてどうなりますか?」
ふむ、最大100セット200本ずつか。
持ってきた本数から考えるとたいしたことないな。
よし、最大数を納品しよう。
「わかりました。最大数の納品でお願いします」
「最大数ですか? ほかの方々の依頼や販売は大丈夫なので?」
「どちらも500セットくらいずつは作ってきてあるから大丈夫でしょう。とりあえず、検品もあるでしょうし、どこに出しますか?」
「ああ、いえ。こちらの依頼は防衛隊の方が直接来て検品してくださることになっています。すぐに使いを出しますのでその間は通常の商売を」
「わかりました。ほかに大口の依頼は?」
「ほかは個人依頼がほとんどですね。あなたのポーションを仕入れたいという商店からの依頼も来ていますが……」
「却下で」
「わかりました。それでは商売を始めてください」
さて、酒場のマスターからも商売の許可が出た。
思いっきり始めるぞ!
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