第2章 少年錬金術士、街へ行く
8. 人間種の住む街へ
補給の青草を集めてからまた1週間ほど時間が経ち、必要な薬をすべて作ることができた。
かなりの量になったけど、この季節はこれくらい作っていかないと足りなくなるだろう。
多分、冒険者だけじゃなく防衛隊からも依頼が出されているだろうからね。
あと、ほかの街から大量討伐の報酬目当てで来ている連中もいるだろうけど、そいつらは僕の薬を買うかどうか。
僕のポーション類は市場価格の5倍くらいの値段らしいからね。
最初はもっと安かったんだけど、腕前が上がるにつれて値上げを要求され、いまではそれくらいの値段まで上がってしまった。
買う側が値上げを要求するなんておかしな話だけど、僕の場合はそうだったから仕方がない。
でも、
街中で買えるヒールポーションと僕の
お世辞でも嬉しいけど、お世辞じゃなかったら街の錬金術士の腕前が不安になる。
そんなんでやっていけるんだろうか?
ともかく、商品は作ったから旅支度を整えないと。
「姿消しのマントと天使のブーツ、韋駄天のアンクレットは用意してある。僕が作った最上位のマジックバッグ、ゾラムのカバンには詰め込める限りの商品を詰め込んだ。あとは寝るときに使う結界石と携帯食を作れば完璧だな」
僕はアトリエの一角にある旅支度専用のクローゼットにすべての旅行道具が入っていることを確認し、足りない消耗品を作ることにした。
足りないものはモンスターや野盗の侵入を拒む結界を作り出す『結界石』と、錬金術を使って生み出した食料。
錬金術で生み出した食料は保存が利くので旅の携帯食として重宝するんだ。
まずは結界石を作るか。
「結界石は、魔法の力を持つ素材に、神秘の力、グミの粒、中和剤と」
結界石の錬成は特に注意しないといけない。
これの品質が結界の効果時間や強度に影響を与えるからだ。
昔は夜中に起きてふたつ目の結界石を使っていた時期もあったなぁ。
「……よし、結界石、完成。品質も完璧。次は携帯食だけど……ベーグルと紅茶でいいかな?」
紅茶の茶葉も前に作ったヤツが残っていたはず。
紅茶の茶葉だって錬金術で作れるんだから素晴らしい。
茶葉自体は作れないから茶の木はオパールが結界内で育てているけれど、それだけで十分な量の茶葉が手に入るから楽だ。
「よし、食料も完成。なにかあった場合に備えて1週間分用意したけど……余ったら家で食べればいいか」
これらもゾラムのカバンにしまって旅の準備は完全に整った。
あとはルナの説得だけか。
説得できるかな……。
『やだやだ、あたしも行く!』
夕食後、明日の予定を告げたら予想通りルナの猛反対にあった。
あたしも行くって、人間族の街だぞ?
普通に獣人がやってきたら殺されるぞ?
『ルナちゃん、アークはお仕事で行くの。わがままを言っちゃダメよ?』
『でも、アークがいないと寂しい……』
『うーん、これは困ったわね』
オパールも説得に参加してくれたけれど、ルナの気持ちもわかるためかあまり強く言えないようだ。
ただ、強く言えるかどうかに関係なくルナはおいて行くしかない。
さて、どうしたものか……。
『ルナ、行く場所は人間族の街なんだぞ。わかっているか?』
『わかってるよ。でも、一緒に行きたいの』
『人間族の街、特にこの近くのトランスタッドの街は〝獣狩り〟が幅をきかせている街だ。獣人がのこのこ入り込めば確実に殺されてしまう』
『うう、でも……』
『それに、付いてきてもルナは獣人語しか話せないだろう? コミュニケーションも取れないのにどうするつもりなんだ?』
『あうう……』
ちょっといじめ過ぎている感じはするけど、問題点ははっきりさせないと。
それを解決できないことには街に連れて行くことなんてできやしないからね。
『そういうわけだから、ルナはまず人間語での会話を普通にできるようになれ。それができないと街に連れて行ってもなにもできない』
『……うん、わかった』
『よし、いい子だ。それができるようになったら、獣人族であることを隠せるマジックアイテムを作ってあげるよ。そうすれば、街に数時間滞在する程度の間ならごまかせるだろう』
『本当!?』
『ああ。ただし、街でうっかり獣人語を話すなよ?』
『わかった! アーク、愛してる!』
『はいはい。とにかく、明日からも人間語の勉強を頑張って続けること。次に街へ行くのは1か月後だから、その時までに間に合っていれば連れて行くよ。間に合わなかったらその次以降だな』
『じゃあ、1か月以内になんとかする!』
『無理をしない程度にな。それじゃあ、明日の朝、トランスタットの街に出発するよ』
話はまとまったので問題なく人間の街に旅立てるようになった。
あとはオパールと予定の確認だな。
『オパール、予定はいつも通りにいくつもりだ』
『わかりました。戻りは3日後の昼過ぎですね』
『そのつもり。多少遅れが出ても心配しないでくれ。結界石も余分に作ってあるし、携帯食は1週間分持ったから』
『あまり遅くなるとルナちゃんが探しに出かけてしまいますよ?』
『そうなる前に帰ってくるさ』
『結構です。くれぐれもルナちゃんにあまり心配をかけさせないでくださいね』
『お前はどっちの味方だよ』
『ルナちゃんですがなにか?』
オパールもルナの側に付くようになったか。
仲がいいのはいいことだが、僕の発言力が弱まるのはちょっと……。
『ほら、明日は朝早くから出発するんですからもう寝てください。ルナちゃん、寝室までお願いします』
『わかった! アーク、早く寝よう!』
『わかったよ。それじゃあ、おやすみ、オパール』
『はい、おやすみなさい』
ルナに引っ張られながら僕は寝室へと連れ込まれた。
そこで寝間着へと着替えたあとはいつも通り腕をがっしりつかまれながらの就寝。
ただ、いつも以上にがっしりと腕をつかまれているのは寂しさの表れなんだろうな。
早めに帰ってきてあげないとルナにも悪いか。
商談は早めに済ませて早く帰るための算段をつけよう。
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