7. 補給の青草採取

 外出の準備も整え、補給の青草採取へと向かう僕とルナ。

 補給の青草が群生している場所は結界内だから滅多にモンスターも迷い込まないけれど、それでも遭遇するときは遭遇する。

 ワイルドドッグとかが侵入していないといいけど。


『ねえ、アーク。補給の青草ってどこに生えてるの?』


『この先、少し道を進んだところに看板を立ててある。そこから森に分け入ってすぐの場所だ。結界内だし一応安全だとは思うけれど、森の中はたまにモンスターが出るからな。注意しろよ』


『うん、わかった。どんなモンスターが出るの?』


『青グミに緑グミ、ワイルドドッグ、大カラスくらいだ』


『ふーん、みんなザコだね』


『数も出ないから手間取る相手じゃないな。カラスは空を飛んで降りてこないことがあるから面倒だけど』


『あはは。あたしもそういう経験がある。そういうときは石ころを投げて当ててやればいいんだよ』


『僕はそううまくいかないから魔法で叩き落としているね』


『魔法! 魔法も使えるの!?』


『錬金術ほど勉強をしていないから簡単なものだけだけど少しは使えるよ。道具を使った方が早いし強いから滅多に使わないけど』


『そっかぁ。そうだよね』


 森にはいるまでは完全にピクニック気分で歩いている僕たちふたり。

 街道のような整備された道じゃないけど、森に続く道は歩きやすいし、なによりなにかの気配があればすぐにわかる。

 僕も戦闘経験はそれなりにあるし、ルナはそれ以上に豊富だろう。

 モンスターの気配にだけ気を付けていれば問題ないのだ。


『あ、森にはいる道が見えてきた! 看板もある!』


『あそこが補給の青草の採取地へ向かう分かれ道だな』


『もっと奥に向かう道もあるけどなにがあるの?』


『いろいろとあるよ。鉱石だったり、水晶のかけらだったり、別の薬草だったり、木材だったり』


『へー。今度はそっちも見てみたいなぁ』


『手が空いたら案内するよ。今日は補給の青草だけな』


『はーい。次を楽しみにしているね!』


 ワクワクした様子のルナが先頭で森の中へと入って行き、僕はそのあとを続く。

 森自体にも小道ができているので迷うことなんてないからね。

 物珍しそうに周囲を見渡しているルナがどこかに行かないように見張るためにも僕が後ろの方が都合がいいんだよ。

 そして森に分け入ってから20分ほどで目的地となる補給の青草の群生地へとたどり着いた。

 緑が広がる森の中に一面青い草が広がっている場所なのでわかりやすい場所でもある。

 治癒の緑草になると、普通の草と混じっているから葉の形を知らないとわからないからね。


『ねえねえ! この青い草全部が補給の青草なの!?』


『そうなるな。ただ、全部を摘み取って帰るわけじゃないぞ。状態を見て鮮度のいい良質な葉だけを見極めて持ち帰るんだ。ほかの葉はそのままにして自然に枯れ落ちるか、次に来たときに生長しているかのどちらかだからな』


『わかった! 良質な葉っぱの見極め方ってどうやるの!?』


『良質な葉の見極め方もそうだけど、ルナは採取道具を持ってきていないだろう? 今日は僕と一緒について回るだけ。採取もやらせてあげるけど、実際にひとりで採取をするのはまた今度だ』


『むぅ。残念』


 少し落ち込んだルナに採取の基本を教えてあげる。

 基本的に採取する対象にはなるべく優しく触れ、必要な部分だけをナイフで切り落とす。

 このとき、必要な部分を傷つけないだけではなく、切り取り終わったあとの株なども傷つけないようにする。

 きれいに傷つけず採取できていれば、また同じ株から採取ができるからな。

 それから、採取した物はすぐにマジックバッグにしまうことも忘れず伝える。

 これを忘れるとせっかく鮮度のいい素材を入手していても、時間経過でしなびてしまうことがあるから大切なんだよね。

 今日は補給の青草だけが採取対象なので補給の青草の説明しかしていないけど、次にどこかへ採取に行くときは他の物についても説明できるようにしたほうがいいな。

 説明だけだったら現物を見せてできるけれど、素材図鑑も持ち込んだ方がいいかも。

 マジックバッグに入れておけばそんなに邪魔にはならないし、ルナ用のマジックバッグを作ったときには素材図鑑も一緒に入れておこう。


『補給の青草と基本的な採取の注意事項については以上だ。わかったかな?』


『わかった! わかったから、ナイフを貸して! 早速採取をしてみたい!』


 本当にわかっているのかなぁ?

 ともかく、採取用の小ぶりなナイフを渡してあげると、ルナは早速と言わんばかりに補給の青草へと突撃していった。

 でも、どれが新鮮で良質な葉かわからずに苦戦している様子。

 僕だって見極めができるようになるまで数年かかったんだし、そう簡単に見極められても困る。


『アーク、どれがいい葉っぱかわからないー』


『はいはい。この株だと良質な葉は……これとこれだな』


『すごい! どうやって見分けたの!?』


『どうやってと言われてもなぁ……。まずは葉の色と表面のつや、濡れ具合とかかな』


『ふむぅ……難しそう』


『僕もすぐにはできなかったんだ。ルナも頑張って覚えればいいよ』


『うん! それで、この葉っぱは切り離していいの?』


『いいよ。さっき言った手順を守って注意しながらやるんだぞ』


『はーい。えっと、葉っぱには優しく触って……切り落とすときは一気にシュパッと……』


 ルナは恐る恐るといった感じで葉を1枚切り離す。

 それを僕に手渡すと2枚目に入った。

 2枚目もうまく切り離せたが、少し気が緩んだみたいで指まで切ってしまったようだ。


『痛い! 指先も切っちゃった……』


『大丈夫か?』


『平気。あ、アークからもらった軟膏を使ってみよっと』


 ルナは肩から提げていたバッグの中から治癒の軟膏ヒールオイントメントを取り出して傷口に塗った。

 すると、すぐに効果が発揮され、指先に付いていた切り傷が消えてしまう。

 僕の治癒の軟膏ヒールオイントメントはこの程度の傷じゃすぐに治るんだよね。


『うわぁ! すごい、すごい! すぐに治っちゃった!』


『そりゃ、そういう薬だからなぁ』


『薬草をすりつぶして塗った傷薬じゃしみるしすぐには治らないよ?』


『そういう薬だしなぁ……』


 さすがにすりつぶしただけの薬草と比べられても困る。

 こちらは錬金術を使って錬成された魔法の傷薬なんだから。


『それで、採取の方は満足したか?』


『うーん、まだ物足りないけど今日は我慢する。あとはアークがやっていいよ』


『ありがとう。それじゃ、ちゃちゃっとやって帰るとしますか』


『今日の夕食は何だろうな~』


『さて、オパールはなにを用意してくれているかな?』


『楽しみ~!』


 そのあとは僕が手早く採取して回った。

 大体200枚くらい集まったところでもういいかなと思い、ルナに帰ろうと声をかけようとしたが、ルナは一点をにらみつけて目を離そうとしない。

 僕も気配を探ると、そちらにはモンスターの気配があった。


『グルル……アーク、どうする?』


『採取地を荒らされても困るし倒してしまおう。数もそう多くはなさそうだし』


『わかった。あたしが一気に倒す!』


 そう言うとルナは森の暗がりへと飛び込んで行った。

 僕もそのあとを追うと、一方的に殴り飛ばされるグミたちの姿が。

 そのグミたちもすぐにいなくなり、僕は警戒を緩めた。

 警戒を緩めたが、それがまずかった。


『アーク危ない!』


『え? あっ!?』


 木の上に潜んでいた緑グミの攻撃を許してしまった。

 お決まりのプレス攻撃だったけど、不意打ちだったため腕で振り払うのが精一杯。

 それだって、腕からグキリと異音が鳴り響いた。


『アーク! この!』


 ルナによってその緑グミもすぐに倒されて塵となる。

 モンスターは倒すと塵になって消えるからわかりやすい。


『アーク! 大丈夫!?』


『ん? 腕の骨を折られたけど……まあ、すぐに治るよ』


『すぐに治るって、重症だよ!?』


『平気だって。僕の腰にある緑色のポーションを取ってくれ』


『あ、うん』


 僕はヒールポーションを取ってもらい、瓶の口も開けてもらって受け取りそれを飲み干した。

 するとすぐに回復効果が発揮され、骨が正常な位置に戻りつながったのだ。

 うん、さすがは僕のヒールポーション。


『すごい! 骨折まで治るんだ!』


『ヒールポーションになればね。それにしても、油断したなぁ』


『戦闘中は油断したらメッだよ』


『わかったよ、ルナ』


 そのあとはグミを倒したあとに落ちていたドロップアイテムを拾い帰路につく。

 グミのドロップアイテムであるグミの粒も錬金素材としていろいろと役立つから、油断して怪我をした以外では儲けものだったかな?

 帰ってからヒールポーションの瓶が減っていることに気がついたオパールに問い詰められて叱られたことはきつかったけど。

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