7-2 『Destiny』

 光の丘。この大西という地域で最も夕陽が映える絶景スポットだ。

 高台にある丘は、水平線の彼方を見渡すことができる。

「どうやら、ボクの勝ちのようだね」

 光の丘に置かれた1台のブランコ。ゆっくりと漕いでいるのは坂神春陽だった。

「ええ、先輩の勝ちです」

 隕石の落下が報じられた日、彼はボクにゲームを持ち掛けた。当初の内容は、彼を捜すというものだったが、結局それどころじゃない事態がいくつか起こった。少なくとも、ボクが遥山朱音という過去と対峙しなければならなかったからだろう。

「もうすぐ、この星も終わってしまいますね」

 まだ時刻は午前8時。にもかかわらず、世界は夕方のようなオレンジ色のベールに包まれている。

 生々しく燃える惑星が近づいているのが、少し首を傾ければ視界に入ってくるだろう。

「——さて、話をしましょうか」

 春陽君はそう言いだし、ボクにブランコに掛けるように促した。

「先輩は、この1週間を通して大事なものを見つけられたようですね」

「——大事なもの、ね」

 わざと閉ざしていた記憶の蓋をこじ開けて、嫌だった過去と向き合って、本当に幸せなものを見つけて——。

 でも、それは全て春陽君という人質が掛かっていたからだ。きっと、こんなことがなかったら、ボクはずっと記憶に蓋をしたままだっただろう。

「先輩、先輩の一番大切なもの、教えてくださいよ。見つけたんでしょう」

 本当に、この子は最後の最後まで意地悪な少年だ。

 ボクは漕いでいたブランコを飛び降りた。何かを察したかのように、春陽君も漕いでいたブランコを止めた。

「————」

 ボクは優しく、春陽君を後ろから抱きしめた。

「ボクの一番大切な人。ボクは、君が好きだ」

「ええ、この1週間でよく分かりましたよ。俺も、先輩が好きですから」

 いつの間にか、大地がゆっくりと震動を始めている。それもまた、この星が終わる合図サインの1つ。

「先輩、俺の初恋の人は先輩なんですよ。初めて俺があの隅の教室に迷い込んだ時に、俺は先輩に一目惚れしたんです」

 いじめられた原因でもある。私の顔は周りの人に比べて綺麗なのだろう。でも、そもそも学校に行かなかったせいで告白なんてものとは無縁だった。

「ボクは人生の半分以上をどぶに捨てていたようなものだね。学校、もっとちゃんと行っておけばよかったって後悔してる」

 遥山朱音なんて、脅威でもなんでもなかったのに。トラウマというものは人の行動を抑制する。

「ボクは君と出会えてよかったよ、この1週間も。ドタバタしてたけど、こうして君と2人きりになれたことを思えばどうってことなかったのかもしれないね」

 全ては丸く収まった。もしも隕石の落下がなかったならもっと幸せだっただろうに。

「最後にボクのわがままを聞いてくれないかな」

「いいですよ。先輩のわがまま、聞かせてください」

 どうせ勘のいい春陽君なら分かっているはずだ。この子にはすべてお見通し。でも、それを口にしたくなかったボクにとっては都合のいい能力だった。

 耳を割くような轟音が鳴り響き、大地に地震ともいえない振動が走る。

 絶対に離さない。これは歩夢との約束でもあるし、ボクの本望なんだ。


 ——地球が終わるその最後まで、彼らは抱き合いキスを交わした。

 大地が夕暮れのように染まるその姿は、まるで『黄昏時トワイライト』のようだった。

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