13.5話 リリの寝相
お風呂から出た後、リリが持っていたドライヤーとしか言いようがない魔道具でお互いの髪の毛を乾かし合った。
そして現在……揃ってベッドに入っている。
「流石にシングルベッドだと狭いわね」
少し手足を動かせば触れ合うくらいに密着しないと落ちてしまう。昔は妹とこうして寝ることもあったけれど、小学校高学年になる頃には無くなっていた。友人関係も広く浅くだったわたしにはお泊りするような友達もおらず、こうして人と一緒に、しかも同じベッドで寝るというのは少し緊張する。もっとも隣のリリはあっという間に眠りについていたけれど。
きっと疲れてたのね……当然か。闇魔法を使ったんだから。
「……んぅ」
寝返りをうったリリの脚がわたしのお腹に乗ってきた。
「自分で言ってたけど、ほんとに寝相悪いのね」
リリを起こさないように最小限の声量で呟いた。寝る直前のやり取りを思い出す。お互いにベッドを譲り合って、埒が明かなそうだったからわたしの方から提案したのよね。一緒にベッドで寝ようって。そしたらこの娘ってば、寝相が悪いからやめた方がいいですとか言い始めて――やけに抵抗してたけど……このくらい可愛いものじゃないのよ。
「ふふ……」
ちょうどこっちを向いてきたので寝顔がよく見えた。目鼻立ちの美しい顔。起きている間は年齢より大人っぽく見えたけど、寝顔は歳下なんだなと感じる。
そして、改めて思う。雰囲気が妹の
「幸せそうな寝顔」
生贄にされても逃げないで、それどころか育ててくれた国に恩返しだって言える強い娘。闇魔法持ってるのに極力使わないようにって我慢までして……。使えば精神的には楽になれるって気づいてるだろうに。代わりに湧いてくる破壊衝動とか殺人衝動が嫌なのかな? でも、あれは仕方のないものなのよね……。魂に刻み込まれているものだから。
「生贄、ね」
それにしても、護衛か……。たぶん、ユリアさんも同じことを言われてるはず。もしものときは――。
だけど、そのもしもは来なさそうね……むしろ王様はそうなってもいいと考えてそう。リリも不思議に思ってたけど、魔王の軍勢が迫ってる状況での生贄なのに出発を急いでないものね……わたしもそのときが来てしまったら見て見ぬふりをしようと思う。
ただ……たぶんだけど、あの王様、重要な情報を最低でもひとつ……隠してることがあるわね……。リリはもちろん、ユリアさんにも、わたしにも。
まぁ、想像つくけど……生まれつき闇魔法持っているって、この世界で死んだ異世界人……下手したら同郷の転生者でしょ。
でもいくつかのパターンがある中でどれかまではわからないのよね……けど、この世界の聖魔法と闇魔法の仕組みを考えるに、その考えが大きく外れてることはないと思われる。
それどころかパッと浮かんだ中で最も酷いパターンは……わたしにとって、奇跡を望める可能性もあれば、最悪の場合の保険になる可能性まである……王様が期待してるのは、こっちかもしれないわね。考えれば考えるほどそれが正解に感じる。
「どっちにしろ目的地は同じだものね」
どうせわたしの目的地も魔王の……彩芽の居る場所。この世界でやり残したことに必要な物も、ここの王家の所蔵品と聞いてダメ元だったけれどリリの護衛の報酬として先払いされることが約束されている。出発のときに渡すと。アレさえあればきっと……でも、ダメだったらって不安もあった。けれど、最悪の場合はリリが鍵になるはず。
「……むにゃ」
「――っ」
脚に続いて、腕まで身体に乗ってくる。あろうことか、その手のひらがしっかりとわたしの乳房に触れてきた。
「……ごめんなさい」
咄嗟に振り払おうとするも、謝罪の言葉に動きが止まる。
「リリ?」
寝言……? 様子を窺うも、起きた気配はなかった。
「……おか……さん」
寝相が悪いのって……無意識にお母さんの温もりを求めてるのね……。恐らく、事故で両親を失ったときからずっと。
「死に……ない、よ」
本音、もうちょっと表に出してもいいのよ?
「大丈夫だからね」
そっと頭を撫でると、安心したような寝息が聞こえてきた。
「彩芽……もう少し待っていてね」
お父さん、お母さん……わたしがしようとしてること……怒るよね? 間違っても褒めてはくれないわよね……けど、わたしが逃されたのは……彩芽を止めてほしいからでしょ? わたしたちの罪も、彩芽が現在進行系で犯してる罪も……全部、もう手遅れだけど……わたしが頑張るから……。見守っていてくれると嬉しい。
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