第5話 追放されたわたし

 ここは国境近くの山の脇道。周囲には雪が積もっていて、家らしきものは見当たらない。

 

 今は昼間なのに、付近を歩いている人は誰もいない。

 

 雪が本降りになっていて、風も吹いている。それがわたしに打ちつける。

 

 寒い。そして、痛い。

 

 わたしはひたすら歩く。


 それしか今はできなかった。


 わたしは、殿下の部屋から追い出されると、着ていたドレスからボロ布のみすぼらしい服に着替えさせられ、そのまま一室に閉じ込められた。


 水以外は与えられなかった。


 夜が明けると馬車に乗せられ、そしてここに捨てられた。


「こんなところで捨てるんですか? せめて村の近くにしてもらえませんか」


 わたしをここまで乗せてきた兵士にそう懇願する。


 しかし、


「これは殿下が決められたことです。殿下の決定は絶対です。変えることはできません」


 と無表情で冷たく言われるのみ。


「村の近くがダメならば、せめて大通りに」


 とわたしは言ったのだが、無視され、馬車から追い出されてしまった。


 そして、わたしを乗せてきた馬車は、無慈悲にも王宮へ戻っていく。


「わたし、これからどうすればいいんだろう……」


 殿下、継母、異母妹に対しての憎しみよりも、今はどうやって生きるかどうかだ。


「王宮、そして公爵家の屋敷に立ち入ることを禁ずる。これからは平民として生きること」


 馬車に乗せられる前、そうわたしは言われた。


 貴族としての身分を奪われ、公爵家からは追放。


 王宮どころか、生まれ育った公爵家に戻ることもできない。


 一平民として生きるしかないのだが、まずは生命の危機と戦わなければならない。


 お金はわずかながら持っている。


 しかし、村の中心からは離れていて、宿に泊まるにも相当の距離を歩かなくてはならない。


「とにかく大通りまで出よう」


 自分の足では村までたどりつくのは無理そう。


 それならば大通りに出ていけば、通りすがりの人が村の宿屋までわたしを連れて行ってくれるかもしれない。


 わたしは、その可能性にかけることにした。


 とはいうものの、この脇道から大通りに出るまでの距離が長い。


 どうしてこんなところにわたしを捨てたんだろう……。


 と思うが、どうしょうもない。


 だんだん腹が減ってきた。昨日の昼以来、何も食べていないのだ。


 力が出てこない。次第に足をただ動かすだけの状態になっていく。


 なにしろ、今までの生活でここまで歩いたことはない。


 雪はますます激しく振ってきていて、全身が雪まみれになっていく。


 足が痛い。体全身が疲れてきている。


 もう意識が朦朧としてきた。


 なんでわたしはそれでも歩いているんだろう……。




 それでもなんとか大通りの近くにまで到達した。


 これでなんとか、と思ったのだが……。


 わたしはもう力尽きた。


 雪の上に倒れ込むわたし。


 大通りの近くにくれば、誰か救けてくれるものを思ったのだが、通る馬車が全くない。


 雪が激しいので、通るのを避けているのだと思う。


 また、もし、通ったとしてもこう視界が良くないと、わたしのことはわからないと思う。


 わたしの意識は薄れ始めていた。


 誰か、誰か、わたしを救けて……。


 お父様、お母様、申し訳ありません。もうわたしはダメです。


 もう生きることは無理なようです。


 雪によって、わたしはだんだん埋もれ始めていた。

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