第6話 異母妹とわたし

 冷たくて、痛い。

 

 そう思っていた雪。

 

 それもだんだん感覚がなくなってきている。

 

 わたしは今までの人生を思い出していた。

 

 ラフォンラーヌ公爵家の娘として生まれたわたし。

 

 お父様はやさしい人。怒ったところは見たことがなかった。

 

 わたしのことをとてもかわいがってくれた。

 

 お母様の記憶はない。

 

 わたしがまだ幼い時に、あの世に旅立ってしまったからだ。

 

 しかし、お母さまもやさしい人だったと言う。

 

 一回でいいからそのぬくもりを味わいたかった……。

 

 お父様とお母さまは仲睦まじかったそうだ。

 

 お父様だけでなく、この二人の愛に包まれて育ちたかったと今でも強く思う。

 

 お父様はしばらくの間、悲しみに暮れていたそうだが、いつまでもそうしているわけにもいかなかったのだろう。

 

 お父様は、ラフォンラーヌ公爵家のことを思い、その後再婚した。

 

 そして、子供が生まれた。

 

 それが、異母妹イレーナ。

 

 継母は、わたしが幼い内は、普通に接していたと思う。

 

 しかし、イレーナが大きくなるにつれ、次第にわたしのことをうとましく思うようになったのだろう。

 

 お父様がいる時は、普通に親子としている継母だったが、お父様がいない時は、わたしに冷たい言葉を浴びせるようになった。

 

 礼儀作法のちょっとしたことに小言を言うことが多くなった。


「これはあなたのことを想ってのことだから」


 と言うのだが、わたしにとっては言いがかりだとしか思えない。


 継母と異母妹以外は、礼儀作法をわきまえたお嬢様として、わたしのことを褒めていたからだ。


 ただお父様は継母のことを愛していたので、それを言うことはできなかった。


 そうして月日がすぎ、王太子フレナリック殿下とラフォンラーヌ公爵家との婚約話が持ち上がった。


 わがラフォンラーヌ公爵家は、由緒のある家柄。


 ラフォンラーヌ公爵家以外の女性も候補にも挙がったが、家格的に最適だということと、年頃の娘が二人いるということで、選ばれた。


 ラフォンラーヌ公爵家は、喜びに沸き立った。


 しかし……。


 わたしとイレーナとどちらを選ぶかでお父様と継母の間で意見が食い違っていた。


 お父様はわたし、継母はイレーナを推していた。


 わたしは、お父様には申し訳ないけど、継母と一緒に暮らすのは嫌で、この家をすぐにでも出たいと思っていた。


 それには婚約し、結婚するのが一番いいのだけど。


 婚約、結婚となると、一生の大事。


 わたしは、気が進まなかった。


 わたしは恋愛にあこがれていた。好きになった人と結婚するのが夢だった。


 しかし、この話は、まだ会ったこともない人とと婚約をすることになるということで、わたしの夢とはかけ離れたものだった。


 イレーナに譲りたいと思ったこともある。


 イレーナ自体も、殿下と婚約したいと言っていた。気合が入っていたと思う。


「姉上じゃなくて、このわたしの方が婚約者としてふさわしい」


 わたしと会う度にそんなことを対抗心むき出しで言う。


 わたしの方は、特に婚約したいとは思っていなかったので、なんでそこまでむきになるんだろうと思っていた。


 結局、お父様が継母を説得し、わたしが殿下の婚約者になった。


 継母の説得は、大変だったと思う。


 気は進まないままだったが、お父様が決めたことだから仕方がない。


 お父様は、わたしが王妃になったほうが殿下の為にも国民の為にもなる、と言っていた。


 そして、わたしが幸せになるだろうと思って、この婚約をまとめたのだろう。


 わたしは、お父様の決定に従うことにした。


 それが、お父様の思いと期待に応えることだと思った。


 婚約することが決まって、安心したこともあったのだろう。


 数年前から病気がちだったお父様は、病が重くなり、病床の人となった。


 もう長いことはないと医者に言われた。


 わたしはお父様を一生懸命看病した。


「お父様、これからわたしはどうしたらいいんでしょう。お母さまもいないし、わたし、一人になってしまいます」


「何を言っているんだ。婚約者の王太子殿下がいるではないか。殿下と一緒に幸せな家庭をきずいていけばいいと思う」


 お父様は、残り少ない力を、なんとか振り絞っているようだった。


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