縺れ
「結婚式も葬式もやる意味がわかんないんだよね。自己満足と他人への証みたいな、さ」
「印が欲しいのの意味がわからないってこと?」
「うん」
そう言うこと言うやつって拗れてる! そう叫んで終わりにしたい会話だった。扉を隔てた向こう側で、聞いたことはあるけれど名前を知らないファンファーレが鳴っている。こういう空間が好きだった。お祭りを外れた居場所。
「ねえ、そんなことを言うってことは私の葬式に来る気ないの?」
「まさか。あったら行くよ」
私が今からあの角を曲がって、この高いヒールを階段で踏み外してゴロゴロ転がり落ちない限りあなたは私の葬式に参加しないだろうなと思う。そもそも上がってきた階段は絨毯が引かれていてふかふかだった。普通より死ぬのが難しい。
「じゃあなあに? なんでそんなつまんないことを聞くの?」
「何でだろ。運動会とか合唱祭みたいな感じに思えてさ。子供の頃は強制ってすごく大事だったけど、大人になったらもうなんか......、テンションの作り方がわからないんだよね。反抗するわけじゃないんだけど。ふうん、ってくらい。葬式に出るたびのに誰の何の? って」
「それ結婚式で言う? ハッピーワールドでしょ?」
あなたはハッピーワールドに吹き出して、口元を手で押さえた。指先にひかる指輪は薬指にだけ付いていないのをたしかめた。髪も耳も首も腕も指先まで、全身が今日の輝きの一部になるために仕立ててある。安いめっきだってバレはしないくらい今日のあなたは美しい。ただ1番じゃないだけ。
「結婚式って美しいんじゃない? 大事な人が世界で1番の姿を見れるの。この場合はワンオブオールだけど」
「それってデータあるんですかぁ」
あなたをはたきたくなったけれど、どこもかしこも煌びやかで触れることさえ躊躇われた。誰にも触れないあなた。
「ないけど。無粋だって。......まさか嫉妬?」
「そーかもー。それはそれで、じゃあ私って結婚式するの? 葬式するの? って答えはイエスオアノー」
「どっち? ていうかその二つを並列でお話ししないでよ」
ヒールがしんどくなって片足を脱いで、足先で遊ばせた。君がするりとそれを奪い取る。お子さまが抜けない君にずっとそういうふうに生きてきたの? って尋ねたくなった。そんなに綺麗にドレスを着こなしたのに。
「まあ要するにつまんないのかなあ。自分にスポットライトが当たらないからさ」
「なにそれ」
「暇じゃない? NPCぽいし。マネキンでもできるじゃない?」
「なら余興のひとつでもしたら? ここの扉を開けてさ、その結婚ちょっとまった〜ってやつ」
「あはは、あの二人の婚姻届は一年以上前に出てるよね?」
そうだったんだ。知らなかった。ぶっちゃけ興味ない。
「ね、じゃあ。君は私が結婚式したら出てくれる?」
「......」
そんな問いかけしないでよ。相手はどこの誰なの?
「行くに決まってるじゃん。あなたが世界で一番美しい時なんだから」
この時は絶対にモストオブオール。その時のあなたはきっと私を見ていない。きっと私は今と同じようにしている。
そして扉を開ける勇気はない。
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