未来永劫ない

 私の心の造詣を、お前だけに知って欲しいと思った感情の機微を、誰かのパクリだと言われたのは死ぬほど腹が立つことだった。お前は私のことが思っていたより見えていなかったから。電波交信を試みて何も通じなかった結果だ。UMA、ネッシー、雪男、マヤ、ノストラダムス、そんな世の中のことは知らない。でも私の世界でお前は間違いなく宇宙人だった。

「なんて夜だ。暗いし寒いし静かで痛い」

 スマホの充電が切れかけている。黄色のバッテリー消費でももう2パーセントしかなかった。スマホはすぐ死ぬに決まっている。遺言を残さず唐突にブラックアウトして無反応になる。これを介さないと私は誰とも通信できないというのに。

「宇宙人は死んだかな。実験中に命を落とせば良いのに」

 遠くで犬が遠吠えをしている。宇宙人からの変な電波をその優秀な鼻で察したか。

 ことを伝えた時からお前は私の心を知っていて欲しい人でなくなった。気が変わるというのは私の行動を愚かに移しただけだった。だから死ねば良いのに。

 今もあの過去も変わった私も、やっぱり消えてよ。

 宇宙人は侵略してくる。私の心を知りもしないくせに知っている。知るなよ。どうせお前にはわからない。私の心なんてわからない。だから知っていたって意味がない。

「言うんじゃなかったなあ。やらない後悔よりやる後悔って誰がつくったの? あれ大したことないじゃん。別にどっちも一緒じゃん」

「ジーザス! 君ってそんなつまらないことを言うやつだったの?」

 私は肩を大きく震わせて、声のした方を見やった。

「へっへ。なにその反応、おもろ」

 バッサリおかっぱ頭のお前はその綺麗な髪を振ってこちらに詰め寄ってきた。頭が揺れると電車の吊り革みたいに毛先が揺れる。ださい髪型でもいつも綺麗だなと内心で思ってしまう。

「あのね? 独り言なんだから聞かないで」

「疑問系の独り言とかやばいよ。末期じゃん」

「うっさい。イライラしてんだから」

「あっはは、知ってる」

 お前はやっぱり宇宙人だった。最悪だ。どうしてお前は私を知っているんだよ。なぜお前と同じ宇宙人になれなかったんだろう。お前はわたしを知っているのに、どうして私はお前を知れなかったんだろう。お前はどこかで同じ星の生物を見つけるだろうか。人差し指をつなぎ合わせて、そいつと何かを受信し合うのだろうか。

「知るなよ、ばか」

 知るなよ。私は宇宙人になりたかったんだ。お前しか知らない宇宙人でお前とだけは電波を受信できるものになりたかったんだ。惹かれたのは宇宙人のお前なんだ。地球にいるお前じゃない。

 でもそんなことを知っていたってお前は私を宇宙人にしてくれない。してくれないんだろうなあ。

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