サバサバ

「さばさば」

 ああ、また始まった。

 まな板の上の魚がパクパクして発した言葉に私はうんざりした。

「さばさばば」

 切り身になる前の鯖はさばさばしゃべるのだ。みんな知らないだろうから教えておく。大体「さ」と「ば」しか話さない。ポケモンか。

「さっ、さばば、さばさば」

 ぱくぱくと口が動く。

「うん、ごめん食べるの。食べてしまうの、あなたの命をいただくの。悪いけど、生きる為だから」

 南無三。

「さっさば」

 小さな刃が口の中に覗く。

「大丈夫。美味しく食べるよ、塩と醤油、おろしとレモン」

 味噌は面倒なので焼いてお醤油でいただく予定だった。鯖はその眼を少しずつ濁らせていく。息絶えたのだろう。さばさばば。

「サバサバの語源がこんな奴だなんて。未練たらたらじゃないの」

 ちなみに鱈も死に際に「たらたら」しゃべる。駄洒落みたいな話だ。

「......。まあ冗談なんだけどね」

 鯖はパックに詰められた時にはもう死んでいる。サバサバの仕様もない。今のは全部独り言。退屈な話。

 黙ると蘇るのは忘れたい出来事。知らない誰かが私を指差すみたいなそんな心地。思い起こさないように死んだ魚と会話する。考える間もなく眠くなるまでずっとお喋りして。サバサバしてる貴方になりたい。

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