あなたのための

「死んだらどうなるのでしょうか」

 僕の目の前でキミは不安そうに呟いた。この場にすぐさまに死の危機があるわけではないけれど、いつそうなるかを人は明確に答えられない。漠然とした焦りと不安からそう口にしたのだろう。

「こんな質問をされても困りますね。忘れてください」

「僕は何もないと思ってるよ」

 キミはこんな答えを待っていなかったとしても、素直な意見が僕の誠意だった。

「僕は死んだら、死ぬと思う。あの世とか天国とか地獄とか、そんなものを欲しがるのは生きている僕たちだけ。許しが欲しいんだ。死んだ人がどこかで生きている、みたいな」

「死んでいるのに?」

「意識みたいなものは消えてほしくないって思うんだ。死んだ人がこの世界から消えるだけで本当はどこかで生活があるって思いたいのだと思う。.....そういう許し」

 僕は何も知らないくせに自分で賢いことを言う嫌なやつだ。本当はそういうことを言いたいわけではないけれど、そういうふうに勝手に周りが感じるんだ。僕は違うって言うけれど、それも結局嘘っぽくなってしまう。

「僕はキミが死んでも、あの世で僕を待っていて欲しいっておもうよ。でもそんなの無いって思うのは、あの世っていうものが僕に都合が良いからなんだ」

 矛盾しているのは僕への戒め。誰もわからなくていいからキミには知っていて欲しい。少しだけ、僕の答えを知って欲しい。キミのそばにいたいけれど一生も永遠も、言葉なんだからこの世にない。諦めきれない意地汚い僕はキミと永遠を望むんだ。そんな僕にそんなものないって言い聞かせるのが今の僕。

「夢を見てる。そういう言い方もあります」

「そんな答えもあるね」

「夢だから、あなたのためにわがままでいいのです」

 キミが許してくれるなら、死んでもあの世で永遠を望んでもいいのかな。


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