賢い■■方

「建物ってめっちゃ賢くできてんの」

 急に何の脈絡もなく喋り出した友人は先日聞きに行った大学の先生の講義についてを語り出した。建築構造の話で建物の崩壊をシュミレーターを使い、建物は地震などの力に崩壊しないように決壊する部材を決めるらしい。スケープゴートのような材料が建物の崩壊を防ぐために必要な壊れがあるらしい。壊れないのが一番だが、崩壊を避ける為だ。知識には純粋に驚いたが、そんなことに興味があったなんて知らなかった。そんなことをどうして聞きに行こうと思ったのかもわからない。近所ってわけでもない大学まで講演を聞きに行く理由を何故か聞けなかった。

「全部がぶっ壊れたらまじで終わりじゃん。そうならないために一部を自滅させるって、めっちゃ賢いって思ったんだよ。悪いことも必要なんだよ。全体のためには必要なことで、まあそれに選ばれるっていうのはめっちゃ最悪だけど、材料に意識とか無くて良かったなあって思うんだよ」

「はあ、まあ、確かに」

「でもさ、なんで俺材料に感情とか無くて良かったとか思うんだと思ったんだ。そんなの建物全部で見たら、そんなの大したことないじゃん。でも、いいなあって思ったんだ」

 本人もよく分かっていない様子で、何を考えているかがわからなかった。それを聞いている私は疑問の多い話題に嫌気が差していた。

「俺らならどこを壊すんだろうなあ」

「頭じゃん」

「やっぱり? そう思う? なあ、それって、そこが壊れれば他の器官や骨や関係が全部大丈夫になるからってこと? 俺らってそこまでして生きる意味ある?」

 疲れているのだろうと思った。

「崩壊したって一緒じゃね?」

 その日以来友人は姿を消した。呆気なく壊れたのかもしれない。せめて残骸くらい残してくれよ。

 気づけないのは仕方のないこととして。

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