第43話 運命の岐路 1
「兄上、私は帰りたくなってきました」
「人が多いってだけで暑苦しいよねぇ」
話をあわせてくれるけれど、兄上はさほど暑がっているようには見えない。
信濃も盆地は暑い。でも大阪の暑さは別物な気がする。
これは湿度の違いなんだろうか。
私は暑さに弱い。たぶん現世での私が、高校まで北海道在住だったせいじゃないかと思うけれど、私につられて雪村まで暑さに弱くなっている……気がする。
急に腕を掴まれ、驚いて顔を上げると、兄上が心配そうな顔で私を見ていた。
「人酔いしたんじゃない? 少し辛そうだよ」
どちらかと暑気あたりかな。
ホントにごめん、雪村。
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大阪夏の陣
それは私にとって
私は今、兄上と大阪に来ている。
真木は
「いずれこの地は、真木に
先に大阪に来て、宿泊の
建て替えるのかな? 今年の春まで使われていたここは、このままでも良さそうに見える。
花見の時もここに来た筈だけど、
改めて見ると、さすが大名屋敷だけあって、内装や装飾品が
私はうきうきと建物を見回した。
上方にあるからか、国元のよりも家屋の造りがおしゃれだし、庭園も凝っていて、見ているだけですごく楽しい。
大名屋敷なんて、私にとっては憧れの歴史的建造物だよ。
北海道には、戦国時代のお城や大名屋敷なんて無かったから。
……武隈の邸でこれなら、上森はもっとすっごい建物じゃないかな?
「兼継殿、上森のお邸も、ぜひ見てみたいです。お邪魔しても良いですか?」
「雪村、子供じゃないんだから」
うきうき声が速攻でバレて、兄上が慌てて
笑いを抑えた兼継殿が、少し声を震わせて兄上に視線を向けた。
「構わない。信倖も来るか?」
「僕はいいよ。おのぼりさん丸出しじゃないか」
兄上、ひどい。
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「兼継殿、市がたっています!」
上森邸までの道すがらにそれを見つけ、私は兼継殿を振り仰いだ。
本当におのぼりさん丸出しだよ。
上方の市には、信濃や越後では見た事がない物が売っていて、そこはやっぱり都会って感じがしてテンションが上がってくる。
「桜姫からの
「桜姫の好みなど、私に解るわけがなかろう。お前の方が詳しいのではないか?」
「私は姫に、その辺に咲いている花しか渡したことがないので」
「
からかうように突っ込む兼継殿に、私も「そうなんです」と苦笑して返す。
桜姫が好きそうなものかー。私にもよく解らないな。
前はスライムまんじゅうにご執心だったけど、こんなに暑いのに食べ物なんて買ったら、絶対におなかが痛くなる。
市は上森邸を
私の考えを
「改めて寄るつもりなら後日にしろ。お前は人酔いをして体調が悪いと、信倖から聞いているぞ」
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上方の上森邸は すごく立派なお邸だった。
特に
大名屋敷をリアルタイムで、それも芸術的な内装を、立入禁止区域無しで見られるなんて、本当に眼福だよ。
「すごいですね……」
溜め息交じりに
「剣神公が建てたものに、多少、手を加えた。
案内されて庭に出ると、夏なのに紅葉した木が植えられた一画があった。
それだけで秋がきたように涼しげに感じる。
たぶんそれが、この一画のコンセプトなんだろう。
紅葉のほとりには、越後の邸に似た池があり、ここでも鯉が泳いでいる。
「こちらにも鯉がいるのですね」
「
越後の霊獣は神龍だから、竜にまつわる故事のある鯉も好きなのかな。
言われてみれば子供のころ、影勝様と鯉を眺めて過ごしたことがあるな。
……雪村が。
私は改めて、綺麗な水中を泳ぐ
鮮やかな色合いの鯉が跳ねるたび、水面に波紋が広がり、それをじっと見ていると何だかふわふわした気持ちになってくる。
ふと視界が暗くなる。
立ちくらみかと思ったけれど、兼継殿の右掌が私の視界を
「あまり水面を見つめるな。お前は子供の頃、それで何度も池に落ちているぞ」
「……私はもう、子供じゃありませんから」
ふわふわした気持ちのまま反論すると、視界を
「子供じゃないというなら自己管理は
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