第35話 蚊帳の外より
「雪村、私用で済まないが、使いを
兼継殿から声をかけられたのは、まだ朝日も
いつも通りの兼継殿だ。
夕べは大失態を演じてしまったけれど、気にしていないみたいで少し安心する。
「はい。どんなご用件ですか?」
「
「わかりました。お
慈光寺は
少し遠いから、出発するなら早い方がいいけど、桜姫のところはどうしよう?
私の迷いを
「桜姫になら心配せずとも伝わるぞ。
……私は桜姫のところには寄らずに出発することにした。
*************** ***************
早朝に出発したから昼前に寺には着いたけれど、少し困ったことになった。
この時代にはコピー機なんて当然ないから、手書きで書き写すしかなくて、それだとやっぱり時間がかかる。
「写し終わるまで、ゆっくりしていなされ」
雪村の子供時代を覚えていた
のどかだな。
「雪村殿、あれが何か覚えておいでかな?」
「
いつの間にか隣に来ていた和尚様が、突然そんな事を言い出して、のどかな気分をぶっ飛ばす。
なけなしの古典知識を絞り出して危機を回避した後、私はふと気がついた。
そうだ、兼継恋愛イベントで、確かこういう古典が関係するのがあったはずだ。
何だっけ、風林火山の
兼継殿が
「孫子」って兵法書だから、桜姫は読んでなさそうだよね。
花言葉だって、今でこそ乗り気だけど、最初はやる気なさげだったし。「
この世界ではクイックセーブやロードが無いんだから、孫子を知ったかぶりするには、勉強しておくしかない。
仕方が無い。私が読んでおいて、最低限の知識を直前に
「和尚、こちらに孫子はありますか?」
「ありますぞ。ちょうど写本したものが余っております。一冊差し上げましょう」
良かった、それならゆっくりと読める。
私は礼を言って、立ち上がった和尚様のあとについて行った。
*************** ***************
結局、写本が終わったのは三日後だった。
ずいぶん遅くなってしまったけれど、久し振りに、子供たちと遊んだり本を読んだりと ゆっくり出来た気がする。
思っていた以上に、
「また寄らせていただきます。ありがとうございました」
「この先、様々な事が起こるでしょうが、
雪村とは一度しか会っていない筈なのに、白髭の和尚様は遠い何かを見ている目をして、ゆったりと私に
もう一度、深々と和尚様にお
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