第25話 越後侍女・暗躍 ~桜姫視点~

 

 俺は自室で、まんじゅうを前にぶすくれていた。

「兼継の邸に一緒に連れて行け」という全力のおねだりと、渾身こんしんのチワワ演技も玉砕ぎょくさいしてしまったからだ。


 今になって思うに、俺はハーレムよろしく女に取り巻かれて暮らすより、男の方がしょうに合っていたんだなーと思う。


 いや、アッチな意味でなく。


 乙女ゲームのノリで『雪村攻略』ばっかり考えていたけど、雪村と一緒に居たいのは、男同士でつるんでいるのが気楽だからかも知れない。


 ……と、越後侍女衆に取り巻かれ、ハーレムのように暮らしている現状、しみじみと感じている次第しだいでございます。



 ***************                *************** 


「姫さま? そんなにねていては、可愛いお顔が台無しですわ」


 茶を置きながら、中年侍女がほほほと笑う。俺はむすりと侍女をにらんだ。

 ついでに少しくやしがらせてやろうと、心にもなかった出まかせを口にしてみる。


「わたくしが兼継殿のお邸に行けば、いろいろと情報を流せたのに。雪村が兼継殿のお邸に居るのよ? 美味おいしくないの?」

「まあまあ姫さま! もうすっかり越後の女子おなごですわね!」


 部屋にいる侍女衆がいっせいに色めき立つ。

 お前らが一般人代表ヅラするなよ。世間一般の越後女子えちごじょしの皆さんに全力で謝れ。


 そう思ったのに。


「そこら辺はかりありませんわ。兼継様のお邸の侍女衆とは連携れんけい済みです。明日には情報が上がってきますよ」


 侍女衆がほがらかにおほほと笑った。


 何だかもう、俺はどうしていいかわからない。



 ***************                *************** 


 翌日、兼継邸の侍女から届いた文には、兼継と雪村が夜中の庭園で密会していただの、寝間着姿の雪村に羽織はおりをかけていただの、頭をでたりしていていい雰囲気だっただの書かれていたらしい。


 どこで見ているんだよ。

 隠密おんみつか? 越後の女どもは。



 とりあえず俺は「雪村、今日はこっちに来んな」を全力で可愛らしく伝える手紙をしたためて、兼継の邸に届けてもらうことにした。


 昨夜の事を根掘ねほ葉掘はほり聞かれるだろうが。

 あの朴念仁ぼくねんじん、天然で燃料を投下しかねない。




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