第24話 雪村の傷心
「雪村と離れたままは淋しいの。お願い、わたくしも兼継殿のお邸に一緒に連れて行って?」
桜姫に可愛くお願いされた時は、正直そうしたいなーと思ったけれど、私の
だって、兼継殿のお邸だから。
その頬を両手でつつむように触れ、私は
これ以上ごねられたり、泣き出されても困る。
「兼継殿に、遊びに来てよいか聞いておきます。桜姫は影勝様の妹君なのですから、やはり
「そうですよ、姫さま!」
どこに居たのか、奥御殿の侍女衆がわらわらと湧き出てきて、私から姫をひっぱがした。
「私どものお世話が
「いいえ、皆様にはよくして頂いていると思っています。今後とも、桜姫をよろしくお願いいたします」
恐縮させたのが申し訳なくて、笑顔を作ってお願いすると、年若いふたりの侍女が、額に手をかざしてふらりとよろけた。
え? 貧血?
「雪村! ここでそういうことをしたら危け……もがっ」
「さあさあ姫さま、そろそろおやつのお時間ですわ」
大勢の侍女に取り囲まれ、口に餅を突っ込まれた桜姫が運ばれていく。
……手玉に取られている桜姫を見るのは初めてかも知れない。
さすが兼継殿が
*************** ***************
さて、姫が侍女衆に
午前中くらいは暇つぶしになると思っていたのにな。
正直、越後に来てから、やることが無くて暇なのです。
怨霊退治くらいしようかなと思っても、越後では三柱の神龍が南・東・西の水辺に
ちなみに北にも一柱の神龍が祀られていたけれど、これは
その神龍が不在の「
ちなみに『
土蜘蛛などの怨霊はここから出てくるから、越後では領内の『歪』を全部
そうなると暇つぶしは鍛錬か、城下の畑の手伝いくらいしかなくて……
あれ?
私は
『真木は武隈から離れて、富豊に
正直、しょんぼりしている。
今の
この時代は、家族で家を盛り立てるのが当たり前。だから兄上のそばで、真木のために働くことに何の不満も無かったけれど。
……それを他人に
史実の真田幸村は、上杉の後で豊臣に人質に出されて、そこで
もしもこっちの雪村も仕官していたら。
五年前に上森への仕官が叶っていたら、こんな事にならなかったのかな。
これはゲームの設定だから、私にはどうしようもない。
どうしようもないけれど……か
……うん。考えても仕方がない。悩んだところで、どうしようもないんだから。
気分転換も兼ねて 今日は鍛錬場に行こう。
今日は桜姫に「
私は大きく息をつき、兄上からの手紙を懐に戻して立ち上がった。
*************** ***************
寝付けなくて部屋を出た私は、庭に降りてぼんやりと空を見上げた。
兄上が
桜姫も 奥御殿の侍女と上手くやれているし、置いていっても大丈夫そうだ。
明日にでも兼継殿に 姫の事をお願いして……
「雪村」
突然、背後から本人の声がして、私は驚いて飛び上がった。
振り返ると、当然ながら兼継殿が立っている。
朝と同じ
ああ、こんな事が無ければ兼継殿も、こんなに遅くまで仕事をせずに済んだんだろうな。
でも申し訳ない気持ち以上に、こんな夜中にどうしてここに? という疑問の方が勝って、私は思わず聞き返した。
「兼継殿。どうしたんですか?」
「それはこちらの台詞だ。越後の夜はまだ寒い、風邪をひくぞ」
着ていた
「私は大丈夫です。それにそれでは、兼継殿が風邪をひいてしまいます」
「
頭の上から、羽織をばさりと
世話役だったと聞いたけど、兼継はまだ雪村のことを子供扱いしているんだなーと、何だか可笑しくなる。
不思議そうに見返してきたので、私は笑いを
「いえ、子供の頃を思い出していました。冬に何も羽織らずに遊びに出ようとした私に、やっぱりこうしていただいたな、と」
「そんな事もあったな。まさか尼寺に行っていたとは思わなかったが」
突然出た桜姫の話題にふと心が曇り、それを笑って
少し
「信倖から文が届いていたそうだが。何かあったか?」
「いえ、特に何も。兼継殿から伺ったお話と同じ内容でした」
私の返事に、兼継殿が微かに苦笑する。
そして
「相変わらず、お前は嘘が下手だな。それでは戦国の世は渡っていけまい。もっと上手くつけるようになれ」
「兼継殿が
「技は見て盗むものだぞ。私は嘘をつくのが上手いのだがな」
「上手すぎては、盗みようがありませんよ」
そうだ、つい楽しんでしまったけれど、いつまでもこんな事をしていては、本当に兼継殿が風邪をひく。
羽織を返して、私は改めて向き直った。
「兼継殿、ありがとうございました」
ぺこりと下げた頭を優しく
何も聞かないでくれてありがとう
兼継殿の後ろ姿に、私はもう一度だけ頭を下げた。
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