第10話 煩悩の姫と兼継再会 ~桜姫視点~

 

 青い空、白い雲。昔話に出てきそうな田園風景……

 戦国時代だから『昔』なんだけどな。異世界だけど。


 別に餅を喉に詰まらせて、あの世の風景を見ている訳ではない。

 ところで こっちの世界で死んだ場合、現世あっちの俺はどうなるんだろう……


 まあ、それは置いておいて。


 俺は今、上田に来ている。

「姫の気分転換」の名目だが、いよいよ兼継かねつぐとの出会いイベントが発生するのだ。

 俺と雪村は仲良く並び、越後へと続く街道沿かいどうぞいで、来訪者を待っている。



 男は”守ってやりたくなるような女”が好みだろ、と『引っ込み思案で繊細な姫』を演じてみたけど、雪村はともかく、信倖には響いていないようだった。


 兼継もこの路線でいくべきか、様子見もかねて別のキャラを演じるか……。


 そもそも『桜姫』はプレイヤーキャラだから、性格が決まっていない。

 兼継狙いでなくとも、今はすべてが手探てさぐり状態だ。


「女の身体でエロ体験をする」という目的の為には、恋愛イベントを起こさなければならない。

 そしてイベントを起こすには、男どもの好感度を稼がねばならない。

 好感度を稼ぐには、こういった地道な努力が必要なのだ。



「兼継殿!」


 兼継を見つけた雪村が嬉しそうに手を上げて、俺ははっと我に返った。



 ***************                *************** 


「そういえば兼継殿は、尼寺に居た頃の桜姫に、お会いした事がありましたか?」

「剣神公が身罷みまかられるまで、姫の存在はおおやけにされていなかったからな。それに尼寺だしなあ。私も雪村が、尼寺に遊びに行っていたのは知らなかったぞ」


 いたずらがバレたみたいな表情で、雪村が苦笑している。


 仲いいな、こいつら。


 しげしげとめていると、兼継と視線が合った。気を散らせていたせいで、うっかり雪村の陰に隠れるタイミングを逃してしまったぞ。

 仕方が無いので、きょとん顔で可愛く首をかしげてみることにする。


 よし! 兼継にはキャラ変更でいってみよう。

『内気』から『あざとカワイイ』に変更で勝負だ!

 俺の全力を見るがいい。


 だがしかし。


 雪村には柔らかかった兼継の視線が、にわかに厳しくなる。

 そんな兼継と俺の様子を知ってか知らずか、雪村がにっこりと微笑みながら兼継を推してきた。


「桜姫、兼継殿はとても頼りになる方ですよ。霊力も高くてお強いですし、わからない事など無いのではと思うほど博識です」

「そうなの? 素敵ね」


 おべんちゃらを言いながら、渾身こんしんの笑顔を兼継に向けたが、それと反比例するように、兼継の表情が無に近づいていく。


 あ、あれ??


 これが館正宗たてまさむねなら「いやあそれほどでも。もっと褒めろ」くらい言ってきそうなんだけど。ノリ悪いな、こいつ。

 全力のび笑顔も、どうにも兼継には響いてないっぽい。


 なぜ超絶美少女・桜姫のあざと可愛さが通用しない!?

 こんなに好感度稼ぎが難しかったか、あのゲーム??


 本っ当ぉーに! この世界の攻略対象どもはどうなっているんだ!

 お前ら、恋愛ゲームだっていう自覚はあるのか!?



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