第2話 屋上、ミカール様とともに

 授業とはふとした時のみ、過ぎていくものであった。

だから俺が意識をはっきりしたのは昼食の時だった。

 

 俺は購買へ急いだ。家の事情で弁当が作れないのでもし購買戦争に勝者にならないと昼食がない。

 案の定、行列ができていた。しかたないので大人しく並ぶことにした。

そこで菓子パンを二つ買うと戦線離脱をして、一階から屋上へと階段を二段飛ばしで急いで向かう。先客よりも早くいかないといけない。

そんな思いはむなしく散る。


「黒羽君、おっさきー」


 そう元気よく俺のことを煽ってくる人物が屋上の真ん中に座っていた。


「負けてしまった」


「フフッン、今回は私の勝ちみたいだね」


 そう白神細華である。俺が白神のことをMOEであることを知っていないと思っている。しかしとあることは知っている。


「”天使”様が一般男子生徒と勝負をしている時点で勝敗は決まっているんじゃないですか?」


 白神は”天使”の二つ名を持つミカールであった。

MOEであり、ミカールであるのはいろいろと大変では?と思ってしまう。


「そうでも、こうしておかないといけないから」


「誰にも言いませんよ、そもそも言う人いないですし」


 こうして昼食時、屋上にどちらが先に着けるかと勝負をしているのは俺が白神のことをミカールである言いふらすのをやめさせるためである。俺のメリットはちゃんとある。


「はい、これが明日あるMOEのライブのチケット」


 そう黙っている変わりにMOEのライブのチケットをもらうことである。


「てんきゅー」


 俺はポケットに入れて、買ってきた菓子パンを食べる。

白神は弁当を食べる。


「...今日」


 白神が珍しくこの沈黙を破ってきた。


「なんだ?」


「ヴィランを倒しに行くけど怖い」


「そんな強いヴィランなのか?」


 №1のヒーローと言われているミカールがこんな弱気な発言するのは滅多に、ではなく聞いたことがなかったな。


「いや標的は"暴虐"だから勝てるけど最近”漆黒”がいろんなヒーローが戦っている最中さなか、横やりを入れてヒーローに大ダメージ入れて逃げるということをしていて、それでヒーローが負けたりしているからね」


 ”暴虐”か。確かにミカールなら勝てるな。

 ”暴虐”ことヴァークは無差別に人を攻撃するヴィランであり、タイマンがクッソ強いやつなんだが。最近”暴虐”は暴虐しすぎてるからな。処されて理解できるわ。


「”漆黒”か、見ている側では全然聞いたことないけど?」


 俺は白神に聞く。”漆黒”とどんなやつなのかと。


「そうわね...特徴として大きな黒い翼が生えていて、ヒーローに横やりを入れるまでは戦っているヒーローを探したり、他のヴィランを倒しているらしいわ、なんでもヴィランなのにヴィランを嫌っているかのようにしていると聞いたわ」


「へぇー、そんなヴィランがいるなんて」


「扱いに困るヴィランだよ、だって私たちヒーローの大半が苦手としている環境系のヴィランを倒してくれるから」


 なるほど。ヒーローともいえど人であることは変わりがない。だから環境を変化してくるヴィランには弱い。


「特に”太陽フレア”を倒してくれたのは結構でかいから」


「それはわかる、”太陽”のせいで地球の温度が5℃も上がっていたからね」


「だから困っているの、しかも”漆黒”はヒーローとヴィランが戦っていて、民間人に被害が出そうな時、民間人を助けているからさらに困ってる」


「うわぁ、どう対処したらいいかわからないヴィランじゃん」


 民間人を助けるヴィランか...。


「本当にそう、さて話はこれぐらいにして早く戻らないとね」


「わかった、先に戻っておく」


「えぇ」


 そうして俺は屋上を出た。そしてスマホのメモに今、聞いたことを書き込んでいく。

 今日の記事のタイトルは『民間人を助けるヴィラン”漆黒”について』的なやつでいいか。

 そう俺はヴィランについて書いたネット記事をWEB上に上げて閲覧数でお金を稼いでいるのだ。しかも俺はこうやってミカール様から情報を仕入れているので信憑性は他のネット記事よりも高い。実際、それで結構な人の数が閲覧してくれている。


 だから俺は早く家に帰りたくなってきた。




 

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